第五幕:廻る貴方は渡らぬ山河
俺達は部活のために駅前に集まっていた。
「今回はこの四人しかいないのね。」
芹奈がそう言った。
今回来てるのは俺と莉亜と聖理奈と芹奈の四人だけだった。
「雷矢君はわかるけどなんでイアちゃんも休ませたの?」
「多分今回の旅行先でイアと会うわ。…私達の敵として。」
莉亜は驚いた顔をした。
「そういえば莉亜は知らなかったわね。」
「ティアと雷矢と隴が戦っていた時、唯一イアとだけ連絡が取れなかった。」
「でもそれだけで…。」
「まあ一番の理由は隴のメモ帳に書かれてあったのよ。」
「隴君は自身の現実改変に関する断片的な未来が見えるんでしたっけ。じゃあ…。」
「まぁとりあえず出発するか。」
「「「おー。」」」
電車に揺られて小一時間、俺達は目的の場所に着いた。
そして開けた平原に向かう。
春風が顔をそっと撫でた。
そこにいたのは大量の影。
その中心に彼女がいた。
「あら?私がここにいると知ってたんですか?」
その瞬間、頭上から大量のナイフが降り注ぐ。
「莉亜、俺から離れんなよ。」
そして俺はその剣を抜く。
瞬間、頭上のナイフが霧散した。
「断罪剣ねぇ。」
突如、彼女がふらついた。
「rule,能力使用制限・イア。」
「コトリバコ,死血山河,稲荷神・殺生石、立っているのも辛いでしょう?」
イアはふらつきながらも呼びかける。
「≪システム名:神からの祝福の招来≫」
イアの背後に全身にノイズが走った黒い塊が時空を突き破って顕現した。
システム名:神からの祝福
それは黒い不定形物体
それは白い不定形物体
それは形が存在する
それは存在が容認されている
それは存在してはならない
それは神からの祝福
それは神からの呪い
それはあなたに贈る永遠の祝福
それは破壊する
それは創造する
それは認識阻害を引き起こす
それは認証される
それは認識しなければならない
それは認識してはならない
[自己修復プログラムを起動、成功しました。カバーエンティティ:黒い靄を適用します。]
あっぶな!!
このままだと自己破壊プログラム起動される所だったぞ。
なんとか聖理奈が間に合ったみたいだ。
「法則杖ルーレイン」
聖理奈がそう呟いた直後に彼女の前に自分の背丈程もあるような杖が顕現した。
「祝福さん、頑張って。」
イアがそう呼びかけた瞬間、祝福さんと呼ばれた黒い靄が芹奈の背後に回り、その靄を伸ばす、が届かない。直前で二つの鎌によって切り伏せられていた。
「ネェ、ワタシキレイ?」
「私メリーさん今貴女の後ろを守ったの。」
口裂け女の沙羅さんと…メリーさんか。なんでもアリだなこいつ。
おっと、俺は莉亜を護るのに集中しないと。
そうして近づく影を斬り飛ばしていく。
その瞬間、禍々しい気配を背後に感じた。
俺は空中に跳躍して、今にも飲み込まれそうな莉亜を見て、莉亜の口の動きで何を言っているか察した。
〈私は大丈夫だから…頑張って…救ってくれるんでしょう?〉
そしてそのまま、黒い靄を莉亜ごと切り裂いた。
空に一滴の大粒の涙を残して。
「目的達成…かな?じゃあさようなら。また逢う日は来ないでしょうけど。」
そう言い残してイアは霧散した。
「紫音!莉亜!大丈夫!?」
二人が駆け寄ってくる。
やっぱりこの結末は変えられないのかぁ。
隴が俺に出した条件。
自身の手で、莉亜を殺すこと。
そこまでしないと、この運は変えれないんだと。
隴も辛かったんだろうなぁ。
莉亜はいつから気付いてたんだろ、勘がいいからなぁ。
剣を握っていた方の手がありえない方向へと曲がり、俺の側頭部に剣の先端を持ってくる。
痛いだろうなぁ。
死なない俺の罪科は痛みとして現れる。
なぁ、充分抗っただろ?
こんな事続ける俺の身にもなってくれよ。
最古之神なんて、なりたくてなった訳じゃない。
俺はただ、莉亜の隣にいたかった。
しかし、そんな事を想っても変わる訳も無い。
そして、その剣が俺の側頭部を貫いて、自身を断罪する。
永遠とも思えるような鋭い痛みが全身に廻って、俺の意識は薄れていった。
聖理奈視点
「紫音!莉亜!返事をしてよ!ねぇ!」
しかし、その声は二人には届かない。
紫音の能力の代償。
莉亜を死なせてしまった時、自身を断罪する。
分かってるけど。分かってるけど!
ストラも、ティアも紫音も莉亜も死んで、私は…。
「聖理奈!」
突如、その声で我に返る。
「芹…奈。」
「大丈夫だよ。大丈夫だから…おいで?」
その日、私は久しぶりに姉の胸の中で泣いた。
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