ミアと師匠の異世界探偵✨
🎍三杉 令
第一章 ミアとローグの出会い
第1話 異能者トライアウト
「ついに来た! 苦節10年……この俺にまたメンターになれる機会が巡って来るなんて、長い間耐えてきた甲斐があったってもんだ。モカ(モカ・グレイス・ベル)以来のチャンス!」
俺の名まえはローグ……もちろん本名ではないが若い頃からそう呼ばれ、もう慣れてしまった。しゃくだが正直に言う。その名の通り俺がろくでなしの中年であることは間違いない。
今年久しぶりに30人いるスカウトのチャンスが俺に与えられた。そう、マスターの一人としてこのトライアウトに参加しているのだ。
長年指を加えてスタンドから見ていたのが、今年は晴れてフィールドに立たせてもらっている……空を見る。清々しい。俺はこの11月9日という日を決して忘れない!
「オッサン、そこで何やってんだよ。他のマスターはもう向こうに集合してっぞ」
「へ? おっと、いけない」
気が付くと他の29人は既にマスターの待機スペースに集合していた。若いやつらばかりだ。俺はスタッフの兄ちゃんに蹴飛ばされて一番遅れて集合した。
会場はすでに大勢の観客で埋まっていて、トライアウトの開始を今かと待ちわびてざわついている。年に一度、異能を持つ子供達を青田刈りのごとくスカウトするトライアウト。子供達が異能の技を競い合うのを見て30人のマスター達がこれはという子供を選んでいく。
この世界には警察のような公的な治安組織が無い。魔法、超能力、呼び方は何でもよいが要は異能を持った正義感のある者達がガーディアンと呼ばれる自営業として治安を担っている。ガーディアンは事件を解決するごとに自治体から報酬を受け取る私立の自警団のようなものである。
もっとも犯罪や事件を起こすのも異能者だったり魔物とでも言えそうな集団だったりするので、事件を解決するのはそれほど簡単ではない。
異能を持つ人間の割合はわずか1%。能力はピンキリでガーディアンとなれるのは一万人に一人くらいしかいない。
異能者達はスポーツ選手などと似ており二十歳前後が能力のピークである。従って子供の内に選ばれた異能者が先輩であるマスターに育てられ、いわゆる実戦に投入される仕組みになっている。
ガーディアンを10年以上務めた者の多くはマスターと呼ばれ、世の為(実際は自分の生活の為)後継者を育成し、師弟関係を組んでガーディアン業を続ける。弟子が独立したら悲劇である。老いぼれガーディアンの生活は苦しい。それが俺だ。
何はともあれガーディアンはこの世界では華形の職業である。異能を使って鮮やかに事件を解決するその姿は常に民衆の尊敬と喝采を受けるのだ。辞めるわけにはいかない。俺は今回のチャンスを逃がすわけにはいかないのだ。わかるな?
✧ ✧ ✧
クオリファイ(予選を通過)した30人の子供達が会場に入場してくると、観客からひと際大きな歓声が上がった。
ガーディアン・トライアウトでは特に年齢制限は無い。予選を通過すればよいというシンプルなものだ。それでも入場してきたのはほとんどが20才以下の子供に見える。
「ん、やけに小さいのがいるな、なんだあれ」
並んで歩いている30人の子達は体の大きさがばらばらであるが、一番後ろにちょこちょこと足をせわしく動かして歩いている子は、ひときわ背が低く、痩せていてボロ服を着ており、5才程度と思われるその姿は異彩を放っていた。顔は長い髪に隠れており性別ははっきりしないが女の子のような気がする。
「よくあんなので予選が通ったな」
先程も言ったが、この世界での異能はいわゆる運動能力と同じようなもので、小さい子では通常成長した子には敵わない。あのような小さい子がクオリファイするのは異例である。見た事も聞いたこともない。
「なにか嫌な予感がする」
俺は今年ぎりぎりでなんとかマスター枠に入った。……あの子の実力が見た目の通りなら俺はどうもあの子を選ばなければいけなくなるような気がする。
小さいボロ服の子は前の子達に歩調を合わせるためにせわしく足を動かしていた。そして案の定コケていた。会場から失笑が起きる。
「あー、見てらんねーな」
俺は異能の実力は無いが、勘はいい方だ。
「間違いない、あの子は異能が弱く誰にも選ばれないだろう……」
その子の名はミア・アイリス・イングラム、5才。
これがミアとの最初の出会いだった。
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10万字超の長編になります。
明日からは毎日16:11に1話ずつ公開します!
(2025.12.1)
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