小さな子供と「大人になったら結婚しようね」と約束したのだが、アイドルになった彼女がおっさんの俺にガチで求愛してくる~塩対応で有名な氷の女王、俺にだけ超絶デレデレお姫様~
大田 明
第1話 風見龍太
むか~しむかし、15年も昔のこと。
近所の公園に天使のような女の子がいました。
公園によるたびに女の子は俺へと駆け寄って来て、楽しそうに話をする。
そんな毎日が続きました。
そしてある日のこと、銀髪の天使は頬を染めながらこう言った。
「お兄ちゃん、いーちゃんと結婚して」
小さな天使がそんなことを言ったので、傷つけないように俺は返事をしました。
「分かった。もう少し大きくなったらね」
「本当に? じゃあ、大人なったら結婚しようね」
「うん、約束だ」
「ずっと覚えてるからね!」
しかし約束をした翌日から、彼女の姿を見ることはありませんでした。
彼女の笑顔は忘れない。
本物の天使が降臨したと錯覚するほどの眩いもの。
でもきっと今頃、俺のことなど覚えていないでしょう。
だって彼女が子供の頃にした約束なのだから。
俺のことなど声も、顔も、記憶も、きれいさっぱり忘れているはずです。
◇◇◇◇◇◇◇
「おーい風見。聞いてるか?」
「あ、何ですか?」
「はぁ……聞こえてなかったのか。これやっといてくれ」
「はい」
深夜のオフィスで目の下にくまを作りながら仕事をしている男。
それが俺である。
年齢は35。
大学の新卒から入社したブラック企業に勤務しており、辛い毎日を送っている。
週に6日の勤務で、40時間を超えた時間外労働など関係無し。
法律なんてクソくらえみたいな会社だ。
そんな会社ではあるが辞めるに辞められない。
特に理由は無いが、自身のルーティンを変えるほどの勇気も行動力も無いだけの話。
ただ流されて、これが当たり前だと自分に言い聞かせて今も続けている。
「もう11時か……今日は何時間寝れるんだろう」
刺激の強いガムを噛み、デスクワークに精を出す。
しかしこんなことが後最低でも25年は続くのか……
それを想像するとゾッとするが、だがそれでも数分後には飼いならされた犬のように、心が大人しくなってしまう。
慣れって怖いもんだな。
カタカタとパソコンに打ち込みをしていると、少し休憩していた先輩が携帯を見ながら何やらニヤニヤしていた。
彼は俺に近づいてきて、携帯の画面を見せながら話しかけてくる。
仕事の邪魔なんだけどな、と思いながらも先輩だから強く出られない。
「おい風見。この子可愛くないか?」
「ああ、可愛いっすね」
「だろ?
五人組アイドルグループ『ゼログラビティ』。
何物にも縛られない、個性的な五人で形成されたグループ。
重力から解放された自由という意味合いでつけられた名称らしい。
そしてその中でひときわ目立つ存在、雪花リアラ。
銀色の髪は長く鮮やかで、黄金色の宝石のような瞳。
だが彼女は性格も目つきも冷たいと言われており、通称『氷の女王』。
背はやや高めで、父親が外国の人らしくハーフとのこと。
あまり興味の無い俺でも知っている、勢いのあるアイドルだ。
グループでは人気があればセンターになれるらしいが、彼女はそこが不動の立ち位置。
一度も変わることなくセンターに立ち続けるずば抜けた逸材。
まだ駆け出しらしいが、これからもっと人気が出るのは間違いないだろう。
そんな雪花リアラのことを見ているとふと思い出す。
昔会っていた天使のことを。
あの子も銀色の髪だったけど……まさかな。
彼女のことは『いーちゃん』と呼んでいたんだ。
雪花リアラからでは、どうやっても付くことな無いあだ名。
「この冷たさが良いんだよなぁ。氷の女王、付き合いたいよ」
「それは無理でしょ。こんなのと出会える可能性は無いですから」
キツそうな目つきは、天使には似ても似つかない。
ツリ目は同じかもだけど、あんな鋭い目はしてなかったよな。
細かいことは記憶に無いけど。
そんな動画を一瞬だけ見せてもらい、俺は仕事に意識を戻す。
ああ危ない。
仕事が遅れるところだった。
ただでさえ遅くなってるのに、無駄な時間を過ごすことなんてできない。
今は仕事に集中しよう。
それ以外のことは思考する必要無いのだ。
そんな風に洗脳されたような思考を持つ俺であったが……
この翌日のこと、事件が起きる。
「倒産……どういうことですか?」
「そのままの意味だ。社長が飛んだ。給料は未払いで終わりだろうな」
次の日に出社すると上司に集められ、社長がいなくなったことによる事実上の倒産を俺たちは宣言される。
社員一同、困惑の声をあげていた。
しかし何を言っても現実は変わらない。
俺たちはこの瞬間、無職となってしまったのだ。
「おいおい、どうするんだよこれから……」
「就職先見つけないと」
「家族もいるのにどうすりゃいいんだよ、クソが!」
唖然としてる者が半分、怒っている者が半分。
俺は前者で、ボーッと天井を眺めるばかり。
「俺もこれからどうすればいいんだ」
◇◇◇◇◇◇◇
失業した俺は、特にやることもなく家でゲームをすることに。
長時間ゲームをするのは久しぶりのことで、楽しくて熱中してしまった。
気が付けば夜となって朝になって。
そんな日々をただ過ごしていた。
「ああ、もう朝か……」
鳥の鳴き声に外が明るいことに気づく。
ヒゲは伸びたままだし、風呂にも二日ほど入っていない。
どん底で堕落した生活ではあるが、しかし仕事をしていた時と比べると精神的には穏やかであった。
だが同時に不安もある。
これから再就職どうしよう。
失業保険っていつから貰えるんだっけ。
働くの億劫だな。
ってか社長何なんだよ。
これまで考えなかったことを考える時間があり、何度もそんな思考を繰り返す。
「そういや当分、実家に帰って無かったな」
直近で実家に帰ったのはいつだっただろう。
1年ほど帰った記憶が無いな。
「いい機会だから帰ってみるか、久々に」
あくびをしてベッドに潜る俺。
朝から起きて昼過ぎから行動を開始する。
完全に昼夜逆転の生活になっていた。
「大人なったら結婚しようね」
その日の夢に、何故か天使が現れた。
何でそんな夢を見たのだろう。
ついこの間先輩に動画を観せてもらうまで忘れていたはずなのに。
顔も覚えていない天使ちゃん。
今頃どうしてるのかな。
「ん……まだ12時か。今日は早起きだな」
目を覚まし、時間を確認すると時刻は12時。
いつもなら2時か3時ぐらいに目を覚ますので、予定より早いぐらいだ。
起きてから近所の牛丼屋で昼飯を済ませ、電車に乗って実家を目指す。
実家は俺が住んでいるところから1時間ほど。
いつでも帰れる距離だからか、案外実家に帰ることがない。
もっと遠かったら半年に一回とか帰っていたのかも知れないな。
でもあの会社じゃ帰る時間も無かったのが現実で、遠かったらやっぱり帰ってなかっただろうなと結論に至る。
最寄り駅に到着し、周りを見渡す。
ここに住んでいたのは13年前までで、あの頃と比べると随分と変わったな。
大きなショッピングモールができ、国道に面した場所には見知らぬ店が増えている。
懐かしさと驚きを覚えつつ、俺は家へ向かう。
「そういや、あの公園はまだあるんだろうか」
天使と会っていた公園。
それは駅から5分ほどの距離の場所にある。
家に帰る前に公園に寄って行こう。
ふいに何故かそんな行動をする。
天使を夢で見たからだろうか。
まるで啓示のように感じ取ったのかも知れない。
また会えるなんて思っていない。
彼女が俺のことを覚えているとは思っていない。
約束なんてすでに残っていない。
それを分かっているのに、向かう足を止められなかった。
公園はそれなりの広さを誇り、ブランコに滑り台にジャングルジムなどを完備した、子供が遊ぶのに困らない場所。
今日は平日で、学校もまだ終わっていない時間だ。
赤ちゃんを連れた母親が数人おり、未熟児が砂場で遊んでいる。
他に遊んでいる子供はいない。
母親たちの談笑を通り過ぎ、屋根のあるベンチがある場所へと向かう。
するとそこには一人だけ女性の姿があった。
彼女の方をチラッと見つつ、俺はベンチに腰をかける。
「あ」
その女性が座っている所の二つ離れたベンチに座ったのだが、その人は俺に視線を向け驚きの声をあげた。
「え?」
声に振り返ると、女性は目を見開いている。
深く帽子をかぶっていたその人は――よく見るとアイドルの雪花リアラであった。
彼女の銀色の髪が風に揺れる。
何故こんなところに雪花リアラが?
もしかして近所に住んでいるとか?
というか、メチャクチャ美人だな。
氷の女王でも驚くことがあり、そしてその顔がとても美しく、俺は彼女に見惚れていた。
少しだけ見つめ合い、一瞬の沈黙があり、彼女はゆっくりと口を開く。
「しゅ……」
「しゅ?」
ワナワナ震える雪花リアラ。
驚くことに、動画で観る時のような冷めたような顔じゃない。
まるでサウナに長時間入った後のように熱々の表情。
こんな彼女は見たことがないな。
そして彼女の口から、とんでもない言葉が飛び出す。
「しゅき」
「しゅき?」
「しゅきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「うわぁ!!?」
雪花リアラは俺に飛びつき、両手両足で俺をガッチリと締め付ける。
帽子を落とし、彼女の顔が完全に露わになる。
「しゅきしゅき、お兄ちゃん大しゅき!」
「お、お兄ちゃん!?」
「え、お兄ちゃんリアラのこと忘れたの? 結婚する約束したじゃん!」
「え……えええええっ!?」
結婚の約束をした天使の正体――それはまさかの雪花リアラだったようだ。
しかしまさか、あの時の約束を覚えているとは……
彼女からはとんでもなくいい香りがし、何度も頬ずりをしてくる。
その目には何故かうっすらと涙が。
その柔らかさと彼女の行為に俺は驚き茫然としていた。
まさか天使と再会できるとは……
そして俺のことを覚えていたなんて。
嬉しいというよりもただ驚くばかり。
これがどん底にいた俺と天使――リアラとの15年ぶりの再会であった。
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