陽の光は月を照らし影を生む

野木咲 紫暮

日進月歩

【双子】

 至極当然だった。

 里の中で誰しもが疑うこともなく。

 誰からも反対が出ることも無く。

 もはや必然だった…。


 里一番の功労者として立身し、

 かの妖魔の進軍を幾度も食い止め

 次期里長と目されるようになった。

 自分と

 里の太陽と例えられる彼女との祝言。


 傍らに無垢なままの姿で佇む

 白い肌の柔らかな女


 幼なじみの「香澄」


 誰もが酒を飲み歌い、

 二人の新たな門出を祝った。


 仕来りに従った祝言が粛々と進み

 いつの間にか宴会へと変わったその中で

 誰しもが笑い、踊り、唄い

 誰しもが輝くような祝いの席で


 もう一人の幼なじみ

 普段と変わらぬ表情のまま

 目立たぬよう 浮かれぬよう


 太陽に照らされるのを嫌がるかのように…。


 スンと澄ました顔を向け

 一人静かに佇む女「桔梗」


「こんなにも祝っていただける。この里に生まれ、この里で過ごし、この里で生き、そしてこの里で貴方と結ばれた。こんなにも幸せなことはありません。」


 ほろ酔い気味に白い頬が赤らみ里中の騒ぎを目にしながら静かに

 現実を改めて噛み締めるように「香澄」は語り掛ける。


 膝へ置かれた手の甲に何も言わず己の手を重ね、壊れぬよう痛まぬよう。

 力を少し込め愛しげに握り返し、語りかけられた言葉を肯定するように傍らの女へと視線を向け微笑みかける。


 そう、誰から見ても幸せ

 順風満帆

 何の疑いもようもない

 誰もが羨み、祝い、泣きはすれども

 僻むことこそすることはない

 妬むことすら甚だしい。


 ただ一人を覗いては…。

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