第7話 剣士は楽しそうに嗤う

「——おぉ、すごいな」


 俺は一つ壁の先に広がる光景に感嘆の声を上げる。


 そこには、だだっ広い空間が広がっていた。

 広さは……高校の体育館程度だろうか。一部を除けば壁も床も天井も真っ白なためか、視覚ではあまり正確な広さが分からなかった。


 すげぇなぁ……地下にこんな広い部屋を作れるなんてなぁ……。でもさ、こんな広い空洞作って、雑居ビルの耐震性とか大丈夫なの? 生き埋めにされない?


 驚き半分不安半分といった俺を見て、春波さんがクスクスと笑い声を零す。


「ふふっ、驚くのはまだ早いよ」

「え? ——っ!?」


 彼女の言葉と同時。

 壁という壁から何百、何千もの遠景の黒いナニカが出現。パッと見デジカメのレンズに似ているが……。


「きっっっっしょっ!?」

「だよね!? やっぱり気持ち悪いよねっ!?」


 彼女も言う通り、はっきり言って物凄く気持ち悪かった。集合体恐怖症の人は発狂して気絶すること間違いなしである。


「なんなんすか、この気持ち悪いヤツ」

「カメラだ。それで異能を測定するっつー仕組みだな」


 それは凄い。凄いけど……もう少し隠す努力をしてほしいです。切実に。

 

 俺は胸から込み上げるナニカを必死に飲み込む。危なかった。あとちょっとでリバースタイムに突入するとこだった。

 一難去った。なんて胸中で安心していると、中学生くらいの少女がオドオドしながら手を挙げた。


「す、すいませんっ……ぐ、具体的に、どのような方法で試験を行うのですか……っ!?」


 そう尋ねた少女は、胸を押さえながらゼイゼイ荒い息を吐く。

 もしかしたら俺と同じように無数のカメラに気持ち悪くなったのかもしれない。親近感。


 ……なんで中学生がここにいんの??


 俺以上に場違い過ぎる少女の姿にギョッとする。——が、けいちゃん先輩は一切気にした様子なく口角を上げた。


「いい質問だ。お前の名は?」

「う、内海うちうみしずかですっ……」

「内海静……なるほど、異能は【過保護な盾ガーディアン】か。なら——」


 けいちゃん先輩はその後も何か言っているが、俺の耳には一切入ってこなかった。

 その理由は—— 

 


 な、なんだよそれ……最高すぎるだろ……!!



 ——内海静とかいう少女の異能に大興奮していたからである。


 いや、寧ろ興奮しない方がおかしい。

 ガーディアンという名前の響き的に、あの少女を守る騎士か何かを創造できる異能だろう。それプラス、戦闘能力ゼロっぽい見た目の彼女が『異能捜査課』の試験を受けられるのだから……相当強力な異能だと容易に推測できる。

 

 ——是非斬りたい。斬ってみたい。


 ゾクッと身体が歓喜に震え、思考が斬裂衝動に酔う。

 だが、直ぐに深呼吸をして高ぶり過ぎた感情を抑え込む。


 ……全く、悪い癖だ。


 自分の感情一つ碌にコントロール出来ない己の不甲斐なさに苦笑する。

 しかし同時に——心がという事実に安堵するのだ。自分は確かに生きているのだと実感して安心するのだ。


 ……ま、それほど千年が長かったってことだな。


「——けいちゃん先輩、一つお願いがあります」

「っ、剣司か……なんだ?」


 例の少女みたく手を挙げて発言すれば、けいちゃん先輩が一瞬驚いたように息を呑んだのちに尋ねてくる。


「言っておくが、贔屓はしないぞ」

「要りませんよそんなの。それより……今回の受験者の内、何人が戦闘系の異能者なんですか?」


 俺は質問に質問で返す。

 すると、けいちゃん先輩が言葉を返す前に話に割り込んできた者がいた。



「——おい、いい加減にしろ。薄汚い野良異能者が出しゃばるな」



 そう、俺が挨拶をにべもなく切ったメガネの青年である。

 彼は苛立たしげに眉を吊り上げ、冷酷な瞳で俺を射抜く。


 しかし、俺に悪感情を抱くのは彼だけじゃない。


「「「…………」」」


 メガネの青年を除いた残りの受験者三人——その全員が少なからず俺に嫌悪感を抱いている。うんでしょうね。


 当然の結果だ。

 寧ろ、遅れてきた奴が試験官と親しげに話している様子をまざまざと見せつけられて何も思わない方がおかしい。仮に思わないとほざく奴は、きっとただの痩せ我慢か真の聖人かのどっちかだろう。

 それらを鑑みれば……彼らは至って正常らしかった。


 そんな彼らの様子に安堵すると共に——内心ほくそ笑む。

 ただ、俺はそれを表におくびも出さないように意識して口を開いた。


「どうしたんです? そんなに試験官と仲が良い俺が羨ましいんですか?」

「——ッ、き、貴様……一体何が言いたいッ?」


 苛立ちマックスな青年がギリッと歯軋りする中、俺は他の三人にも聞こえるように言った。




「口で争うんじゃなくて——正々堂々、異能の真っ向勝負といきましょうよ」

 

 

 







「——お前なぁ……もう少しやり方があるだろうが」

「……てへぺろ」

「ぶっ飛ばすぞ」


 ダメだった。俺の渾身のてへぺろが通じないとは……けいちゃん先輩もやるではないか。まぁ成功率ゼロパーだけど。


 結構可愛いと思うんだけどなぁ……と不服に思う俺だったが、けいちゃん先輩に白い目で見られて渋々口を噤む。そ、そんな冷たい目で見なくてもいいのに……。


「いいか、お前が一言でも言ってくれればこっちで色々と工面した。今更お前の実力は疑ってねぇからな」

「俺もです。先輩たちが加わっても負ける気がしません」

「…………」


 けいちゃん先輩がなんとも言えない複雑な表情を浮かべる。

 だが、別に落ち込まなくてもいい。何せ俺は一種のチート野郎だから。


 俺は千年修行を積んだ。そんな俺に勝てる人間など……それこそ天才である俺以上の才能を持ち、千年近くの修行を積んでいる人間くらいだ。

 とはいえ人間は千年も生きられないので、実質俺を遥かに凌駕する神才……ただ一つに限る。


 まぁあくまで人間は、というだけだ。

 人ならざる者も入れたら、そりゃあ俺より強い奴なんかごまんといるだろう。そこまで俺は自分を力を過信してはいない。

 

「まぁでも、結果的に戦うことになったんだし良いじゃないですか。けいちゃん先輩達も一気に測定できるから時短になるでしょう?」

「……はぁ、次からは先に言え。組織には協調性も大事だからな」

「りょーかいです」


 俺がビシッと敬礼すると、けいちゃん先輩は胡散臭い目で見つつもモニターのある小さい部屋に戻っていった。


 これで——この部屋には、受験者だけが残っていることになる。


 そう認識した瞬間、心が沸き立つのを自覚した。

 自然と口角が吊り上がり……それを隠すように俺は口元を手で覆う。今の顔は人様に見せていいモノじゃない。はい、深呼吸しようか。


 ——すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ。


「ふぅ……。皆さん、長らく待たせてしまってすいません。それと、俺の提案を呑んでくださってありがとうございます」


 俺は受験者達に謝罪と感謝を籠めて頭を下げる。

 彼らには本当に申し訳ないと思っているし、本当に感謝している。


 だからこそ——





「ショータイムだぜ、相棒」





 ——決して手は抜かない。


 俺の翳した手に現れるは——一振りの刀。

 吸い込まれるほどに美しく、見惚れるほどに妖しい刀。


 銘を『村正』といい——俺の相棒。


「「「「!?」」」」


 相棒が現れると共に、メガネ君や内海さんを含めた四人もの正義の味方のタマゴが表情を変える。

 既に彼らの顔に余裕も憎悪も嘲りもなく、あるのは最上級の警戒心だけ。


 これはせめてもの償いだ。まぁ本当に償いになるかは分からないが……是非とも俺という存在を少しでも彼らの糧にしてくれればと思う。


「じゃあ始めようぜ。どっからでもどうぞ」


 意識を切り替えた俺は、敢えて挑発するように鷹揚と腕を広げる。

 そんな俺の意図を一番最初に察したのは——



「——【雷に愛されし者サンダーボルト】ッッ!!」



 俺のことを薄汚い野良異能者と吐き捨てたメガネの青年だ。

 彼の周囲にバチバチと青白い稲妻が迸り、続けて雷の剣が創造される。


 おぉ、中々使い勝手よさそうだな。ただでさえ雷って強そうなのに自由度高いとか凄いな。

 つーか剣を使うってことは、このメガネ君も剣術を修めてるのか……?


 もしそうなら、是非とも打ち合いたい。

 だって俺、村正流以外の剣術と戦ったことないからね。


 しかし、そんな俺のワクワクとは裏腹に、メガネ君の取った行動は——遠距離からの攻撃。


「行け!」


 号令と共に稲妻が空間を走る。

 亜光速という規格外の速度に不規則な動きも加わったコレを避けるのは至難の業だが……。



 ——避けられないなら斬ればいい。


 


「いいな、雷を斬るのは初めてだ」

 


 

 既にリミットは解除している。

 雷でさえ、俺の世界では動きをしっかり視認できるレベルでしかない。


 そして俺が認識できているなら——斬れないはずはない。


 俺は相棒を鞘から抜き放つ。

 白く輝く刀身は怪しい光を纏い、楽しそうに煌めいた。


 そんな相棒を、雷に向けて振り下ろした。

 

 

 ——斬ッッッ!!



 途端、迫る雷が真っ二つに割れる。

 割れた雷は背後の壁にぶつかり、壁を陥没させて黒く焦がした。


「なっ!?」

 

 メガネ君が驚きの声を上げる。

 今まで雷を斬られたことがないのだろう。というか速度的に雷に対抗できるのは雷だけだろうし、びっくりするのも無理はないか。

 

 なんて冷静に考える傍ら——自然と俺の口元は三日月を形作り、興奮と共に口を開いていた。

 




「——さぁ、もっと俺に斬らせてくれ」





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