【百合】【毎話完結】由香里先生っ、私達の間に、年の差なんて関係ないよねっ!由香里と美樹の年の差百合ライフ
ゆずかおる
第1話 ドキドキ借り物競争 頑張れ、美樹ちゃんっ!
ここは体育祭実行委員会室。そこで2人の男子生徒が話している。
「1か月後の体育祭の競技リストで、借り物競争があるだろ?」
「あー、ありますね。それが、なにか?」
「あれってさ、借りる物の内容が、普通すぎないか?」
「普通って言われても……どこの体育祭だって、だいたい同じなんじゃないですか(笑)?」
「そこでだ。今回は、生徒会長にお願いしてきたんだよ。今年の生徒会長は、話が分かる人だから、あっさり承知してくれた」
「それじゃ、借り物の内容を変えるんですか? あまり無茶な物だと、各委員がウチに文句言いに来ますよ」
「いや、変えるのは簡単さ。こういうのなんかどうだ?」
「おっ! いいんじゃないですか。これなら、準備も必要ないし、当日も盛りあがりそうだし。いかにも、青春って感じですね」
「だろう♪ よしよし……体育祭当日が楽しみだな」
◆◇◆◇
体育祭の前日、私は、なかなか寝つけなかった。去年の体育祭では、教師対抗リレーで走る由香里先生の姿が、あまりにまぶしすぎるくらいカッコ良くて、その光景は、今思い出しても、胸がドキドキするほどだ。
だから、明日は自分も、出場する種目の、どれかひとつでもいいから、1位を獲得して、由香里先生にたくさん褒めてもらいたいっ!
ただ、そう思えば思うほど、緊張とドキドキが交互に襲ってきて、結果的には自分でも分からないまま、いつの間にか眠りについてしまっていた。
◆◇◆◇
穏やかに晴れた空の下、今年もいつも通り、体育祭は無事にスタートした。
私は、クラス委員の仕事をしながら、自分の出場する競技に参加する。
「よぉしっ、やるぞぉー!」
中学時代から、運動は得意ではないが、地道に休日はランニングをして、自分なりに足腰はトレーニングしてきたつもりだから、それを少しでも活かせればいいなと思う。
私は、頭に巻いたハチマキを、気合を入れて締め直した。
けれども、現実は、私と由香里先生の関係のように……甘くはない。
学年別の徒競走から始まり、ハードル走、クラス対抗リレー(無理矢理立候補した)と、クラス委員の仕事をこなしながら出場したが、結果は当然4位や5位ばかり。
上位は、当然だけど運動部員が多くを占めているので、文化部の自分が健闘しているのかどうかは分からないが。
私は、重いため息をつくが、そうしている間にも、体育祭は順調に競技が行われていく。
絶対に、由香里先生が喜ぶ顔が、見たいし、見せたいっ!
手元の競技リストを確認する。残る参加競技は、学年別の借り物競争だけだ。
これなら、足が自慢な運動部でも、借りる物を手早く探せなければ、いつまでもゴールにはたどり着けない。
由香里先生とデートに行くテーマパーク内のガチャでも、なかなかレアがゲットできないほどの、くじ運の悪い私だけど、借りる物は、おおよそ校庭周辺にある物が中心になっているので、ある程度は、お約束な物のはず……。
とにかく、早く見つけられる物に当たればっ!
いよいよ、2年生の借り物競争が始まった。私が走る前までの参加生徒達は、ヤカンやら、帽子(色指定)、ジャージの上着(学年指定)等、多種多彩な借り物に苦戦していた。
それでも見たなかでは、すぐに見つけ出せれば、なんとかなる物が多い。これなら、大丈夫そうだ。
そして、私の走る順番。目指すゴールに1番で走り抜けるため、集中力を高める。
パーンッ!
ピストルの号砲が鳴り、各生徒が一斉に飛び出す。
私も、それなりにスタートが良く、レーンを駆け抜ける。だけど、やっぱり運動部に所属している生徒の方が、反応が良く、私は4番手を走る。
絶対に、あきらめたくないっ。私は、絶対に由香里先生の嬉しそうな笑顔を見るんだっ!
走っていくと、目の前に長テーブルが見え、体育実行委員が用意してある数枚の紙が置いてある。すでに、何枚かは取られているので、私は目の前の紙を取るしかない。
神様っ! 昨日は、近くの神社で、いつもより多めにお賽銭をしたんだから、簡単に探せる物をお願いしますっ!
ハァハァと荒い息を整えながら、ふたつに折りたたまれた紙を広げる。
中の借り物の文字を見た瞬間、私は一瞬、顔が赤くなるのを感じたが、かまわない。クラス委員の特権で、体育祭での教師達が配置されている場所は、完璧に把握している。
他の出場生徒達が、あれこれ迷いながら、借り物を探しているのを横目で見ながら、私は最短コースで、医務テントに向かう。
◆◇◆◇
「あっ、里美っ! 美樹ちゃんの出番よっ! ほらっ、しっかり応援しないとっ!」
すでに、由香里と美樹との関係を知っている里美にとっては、美樹が走ること自体には興味はない。
興味はないが、まるで母親が娘を全力で応援している姿のように見え、それなりに面白く、由香里との同僚としては、新鮮に思える。
「でも、由香里。やっぱり、走力そのものは、運動部の方が有利みたいじゃない?」
「ちょっと、里美っ、それでも生徒からケガを守る保健教師っ!? 可愛い、可愛い、可愛い美樹ちゃんが頑張って走ってるんだから、冷静に分析してないで、応援してくれないっ!?」
「由香里の場合は、美樹ちゃんに対する『可愛い』の熱量が、違うもんねぇ。あら? 美樹ちゃん、紙を見て、ちょっと固まってない?」
たしかに、借り物の内容が書かれている紙を見て、美樹が立ちつくしたまま、ほんの少し固まっている。由香里の胸に、言いようもない不安が、次々と湧いてくる。
「里美……美樹ちゃん、どうしたのかなぁ? ハッ! も、もしかして……里美、競技の直前になって、借り物の内容をわざとむずかしい物にして、私の大切な美樹ちゃんを困らせようと……」
「……バカでしょ、由香里。借り物の内容は、体育祭実行委員の生徒達に全面的に任せてあるんだから、教師の、それも保健教師の私がどうこうできないわよっ! 今の発言、昔からの友達として、ちょっとヒドクない!? あら……美樹ちゃん、こっちに来るわね」
「ホントっ! なにかしら? 美樹ちゃんのためなら、全力で貸してあげるからっ! なければ、教師の権限を使ってでも!」
「私が知ってる由香里が、、、どんどんダメになってる気がするわ。それにしても、教師のテントまで来て、本当に何が必要なのかしらね?」
私は、他のテントには目も向けず、2年になったとはいえ、まだうろ覚えの教師達もいる間をかいくぐって、ザワザワしている雰囲気も気にせず、探していた『人物』の前に立つ。
「由香里……先生っ! 一緒にゴールまで走ってくださいっ! お願いしますっ!」
私は、息を切らしながら、右手を由香里先生に差し出す。
「えっ!? えぇっ!?」
いきなりの衝撃展開に、動揺と戸惑いを見せる由香里先生。さらに、近くで見ている教師なら、由香里先生の顔が多少赤かっただろうが。
汗を流し、真剣な表情の私が、手を差し出したままでいると、隣りにいた里美がグッと由香里先生の背中を押す。
「ほら、由香里先生っ! なんのご指名だか知らないけど、せっかく指名されたんだから、早く一緒に行ってあげなさいよね!」
「あ……う、うんっ!」
「ありがとうございますっ! 由香里先生、ゴールに行きましょうっ! 私、どうしても1位になりたいんですっ!」
キラキラと光る目をしながら走る美樹に手を引かれ、由香里もゴールに向かって走る。
大好きな美樹の横顔を見ながら、しかも秘密の関係とはいえ、全生徒達の前で、手をつないで走っている。かなり恥ずかしいと思う反面、言いようもない嬉しさが湧いてくる。
な、なんだか分からない状況だけど、すっごく嬉しいっ! これは……後で放送部や新聞部に、体育祭の動画をコピーさせてもらおうっ!
パンッ!!
ゴールテープが切られ、見事に美樹と由香里のペアが、1位を獲得した。
実行委員の誘導により、1位の待機場所で、美樹と由香里は並んで立つ。
「やりましたぁ! 由香里先生、ありがとうございますっ! 私達が1位ですよっ!」
満面の笑みで、ピョンピョンと、その場で跳ねる美樹の姿が、あまりにも可愛らしくて、すぐにでも抱きしめたいが、さすがに全生徒が見ている。
教師である自分の立場として、ちゃんと我慢しないと。
ここは冷静に、教師らしく、美樹ちゃんに声をかけないと。
「よ、良かったね! ちなみに……紙には、なんて書いてあったの? 普通に『先生』とか? あ、そういえば、実行委員の子達が内容を一部変えたって聞いたから、意外と『変わってる人』とか(笑)?」
美樹を見ると、いつもより柔らかく、由香里に癒しと可愛らしさと恥ずかしさが込められた視線で、広げられた紙で顔を半分隠しながら、由香里に見せる。
その文字を読んだ由香里は、目を見開いた。そこには・・・。
『好きな人(彼氏、または彼女)』
「由香里先生……ハグしてくれませんか? 私、由香里先生の笑顔が見たくて、絶対に1位になりたかったんですから♪」
そう言って、両手を差し出してくる美樹。
心臓が、ドキドキと高鳴る。体育祭の賑やかな声援や雑音が聞こえなくなる。
冷静にならないといけない大人の思考と、暴走する理性が激しく入り乱れる。
でも、由香里も我慢しているのは、限界だった。
「美樹ちゃんっ! 1位おめでとうっ! そして、ありがとうっ!」
由香里は、年下の小柄な美樹の体を軽々と抱きあげ、クルクルと振り回す。
はたから見れば、生徒思いの美術教師と、1人の生徒が協力して、1位を取って喜んでいる、感動的とも言える場面にも見え、2人の光景を見ていた全教師、全生徒達からも、祝福の拍手が鳴り響いた。
美樹が由香里の耳元で、周りには聞こえないくらいの小声で、ささやく。
『大好きですっ、由香里先生っ……!』
耳まで真っ赤にした由香里も、美樹の耳元で返事をささやく。
『私も、美樹ちゃんが大好きっ!』
いつまでも鳴りやまない拍手は、2人にとって、別な意味を含んだ祝福の拍手に聞こえていた。
◆◇◆◇
体育祭のこぼれ話。借り物競争は、教師対抗もあって、出場した里美は紙を見た瞬間、美樹と同じく、美樹と由香里の手を引いて、見事に1位を獲得。
由香里と美樹が、後でいくら聞いても、ニコニコと笑うだけで、絶対に借り物の内容を教えてくれない里美。
彼女の紙には『恋愛が充実している人(複数も可)』と書かれていたのは、里美だけが知る秘密。
終わり。
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