おっさん冒険者、最初のモンスターカードガチャで爆死する
カタリ
☆1ランク編
第1話 ●●は触れるべからず
新宿ダンジョン☆1フロアの安全地帯。通称【ふれあい広場】。
そこでは初めてモンスターカードを手に入れた新人マスターたちが自分のモンスターを召喚して交流を深めていた。
可愛らしいオレンジの猫を満面の笑みで抱きしめる女子校生。ブルドッグのような顔をした大型犬を恐る恐る撫でる男子高生。ひょろりと背の高いゴブリンを見て落ち込んでいる二十代前半くらいの男に、自分が呼び出したゾンビの匂いが臭すぎて悲鳴を上げている同じく二十歳くらいの女。
ほとんどの新人が高校生から二十代前半くらいの年齢に固まっている中で、明らかに一人だけ浮いている男がいる。
もちろん浮いているのはこの俺だ。佐藤達也、つい先日会社が潰れて無職になった三十五歳のおっさん。ベンチに座って絶賛落ち込み中だ。
「はぁぁぁ……」
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
手の中に握りしめたカードに視線を向けるが、何度見ても変わらない。
どうして俺が、こんなカードを……。
いや、本当は理解しているんだ。俺が回したのは【ランダムカードガチャ】。
☆1ランクのモンスターがランダムに排出されるガチャだ。ゴブリンやウルフ、ゾンビやピクシーなど、何が出てくるのかわからない代わりに運が良ければ強力なレア種族のカードを手に入れることができる、そんなガチャだ。
お値段、なんと一回十三万円。じゅうさんまんえん。俺の手取りの半分近い金額がガチャ一回で消えていくのだから恐ろしい。
それでもロマンを求めて――レア種族が出たら当然大喜びだし、ゴブリンなどのモンスターが出てきてもそれはそれと受け入れて、冒険者活動を頑張るつもりでいたんだ。
それなのに……それなのに、どうして……!!
「はぁぁぁぁぁぁ……」
ため息が漏れる。きっと幸せもガンガン逃げていっている。
それでも目の前の現実は、手の中のカードは何も変わらない。
「――いい加減、気持ちを切り替えるか」
いつまでも落ち込んでいても時間の無駄だ。気持ちを奮い立たせてベンチから立ち上がる。
モンスターガチャを引き直すほどの資金はない。いや、貯金は三百万くらいあるから無理すれば引けるが、今後の収入の当てがない状態で大事な生活費に手を出すわけにはいかない。
だから俺はこいつと、このカードと一緒に一人前の冒険者を目指して頑張っていくんだ――!
「来い!」
手の中のカードがほのかに輝いて熱を帯びる。なにかのエネルギーが俺の体を通り抜けたような気がした。
そして光が集まり、そいつは姿を現した。
「モォォォォォ」
白い子牛。頭の天辺から尻尾の先まで真っ白な、でっぷりと肥え太った子牛だった。カードに描かれたイラストで見るよりも実物の方が美しく見えるな。大きさは俺の腰くらいか。
「……これから一緒にダンジョンに潜ってもらうから、よろしくな」
「モォォォ」
子牛は綺麗な薄紫色の瞳で俺を見つめていた。よろしく、と撫でやすい位置にある頭に手を伸ばす。
「ブモッ」
バシッ!
「いたっ!!」
ず、頭突きされた?! 今、俺の手に目掛けて頭をぶつけてきたぞ?! 痛みはなかったけど思わず腕を引っ込めてしまった。
「な、なにをするんだ!」
「ブモ」
子牛が俺をまっすぐに見つめてくる。言葉ではなく、その視線で何が言いたいのが、伝わってしまった。
『――気安く触れるな、この童貞野郎。ぺっ』
間違いない。こいつはそう言っている! 俺のことを馬鹿にした目で見ている!!
「ちくしょう、なんでカードにまで馬鹿にされなきゃならないんだ……!!」
「ブモッ、ブモッ、ブモッ」
鳴き声が笑い声にしか聞こえねえ……!! こ、この野郎……!!
――こうして、俺と子牛、白い【
こうなる気がしたんだよ! だから嫌だったんだ!! なんでバイコーンなんか出てくるんだよおおおおおお!!!
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☆1 『白い』リトル・バイコーン
【種族】魔獣系
【属性】闇
【初期スキル】
[不浄の角] 状態異常の付与成功率アップ。
[初級状態異常] 初級クラスの状態異常を付与することができる。
[初級攻撃魔法] 初級クラスの攻撃魔法を使用できる。
【変異スキル】
[白] 光属性・浄化への耐性獲得。
【種族説明】
通常の黒いバイコーンと違い、真っ白な体色をした変異種。本来のバイコーンは☆2ランクだが
バイコーンは☆3ランクの聖獣ユニコーンの亜種という扱いであり、純潔を象徴するユニコーンと反対に不純を象徴する。その為、処女と童貞を嫌い、非処女と非童貞によく懐く。
戦闘面では状態異常を得意としており、状況に応じて使いこなすことで真価を発揮する。また攻撃魔法もそれなりに扱える。その反面、接近戦は苦手。ユニコーンと違い回復も使えないので殴り合いに持ち込まれると脆い。
典型的な魔法使いタイプのモンスターと言えるだろう。
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