第28話 強引な追跡
「ギリギリだったな」
「ええ、危なかったです」
一息ついたオレ達にサキさんが「あれはどういう事?」と聞いてきた。
サキさん自身は畑で草取りをしている時に「風花さんの事でちょっと」と風間興業の名刺を持った男に声を掛けられ、言われるままに渡連までレンタカーらしき車に乗せられ連れてこられたそうだ。
何日留守をしようと一切家に鍵など掛けぬ島だ。サキさん世代の人はこの世に悪人などいないと思い込んでいる。
しかも背広を着た男(島には背広イコール紳士のイメージがある)に名刺を出され、その名刺に知った会社名が印刷されていたら「はいはいなんでしょう」とついて行ってしまっても不思議はない。
渡連海岸のヘリと、テーブルに座らされる時の威圧感、それに当の風花が居ない事で初めて何か善からぬ感じを受けたそうだ。
オレはサキさんに余計な心配をさせても仕方が無いので、「風間家の跡目争いに風花が巻き込まれているだけですよ」とだけ伝えた。サキさんは納得はしていないだろうが、一応納得したふりをしてくれた。
「で、標に隠れ家を作っておきましたから、あいつらが居なくなるまで……まあ、一日か二日の事だとは思いますが、風花と隠れていて下さい。ボディガードも付けておきますから」
リンなら安心して任せておける。しかも明日からゴールデンウィークだ。二十四時間体制で二人を守ってもらえる。
一旦標で廃棄図書の手当てをして我寿まで戻ったが、すぐに不備を思い出してまた標に向かっている、しばらくかかりそうだ。と教頭に連絡を入れ、車の使用許可を延ばしてもらった。
「あいあい、どーぞどーぞ、どうせ今日は車を使う予定はありませんから」と気のいい返事をしてくれる教頭が少し気の毒になったが、本当の事は言えない。
「すいません、抜き出しに時間がかかるようでしたら夜になってしまいますけど……」と言うと、「ああ、学校の駐車場に入れておいて頂ければ良いですよ、キーは付けたままで」と気持ち良く騙されてくれた。
標のセーフハウスにサキさんを連れて行き、ぷうに会わせる。
「リンに状況を説明しに行くから二人でおとなしく待っていてくれ」
ぷうに言い含めて標の教員住宅を出ようとした瞬間、嫌な汗が噴き出した。見慣れない乗用車が教員住宅に向かって狭い坂道を上ってくる。あきらかに意思を感じる走りだ。
サキさんが、「あれま、私を連れ出した車だよ」と指をさす。
まずい、つけられていたのか。遠くでヘリのローター音もしている。ここで囲まれたら逃げ場がないし、そろそろ終業時間を迎えここで暮らしている先生方も帰ってくる頃だ。無関係な人々に迷惑はかけられない。
「すぐに車に乗って!」もう、こうなったらリン頼みだ。とりあえず標中にまで行ってリンの(暴)力を借りよう。
あわてて車のエンジンを掛け急発進させる。
こちらが気付いたと気付いた相手がスピードを上げて接近してくる。
こちらは軽に四人、相手は乗用車に二人だ。スピードでは敵わない。グングンなんてもんじゃない、あっという間に後ろにつかれ、付かれたと思った瞬間グシャっと追突される。
「先生! 自分らにぶっ飛ばされた二人っす!」ルイが後ろを振り向いて乗用車の中を確認する。
ごつんごつんと追突してくる乗用車から復讐に燃えたオーラがビンビン伝わって来るが、幸い道は細い。標中までほとんど抜き所は無い。このまま前を走っていさえすれば捕まることはない。
標中に逃げ込むには一旦広い道に出はするが、すぐに小道に戻る。集落の中心を流れる小川と、廃校になっている旧標小学校の間の道だ。
後ろの乗用車は大きな道に出た瞬間「抜ける!」と思ったのだろう、グイッと追い越しをかけてきた。こちらは相手を邪魔するつもりではなく、右折のためにハンドルを右に切る。
邪魔をされたと勘違いした相手は猛然と左から抜きにかかるが、馬鹿め。こちらはすっと川沿いの小道へ入りアクセルを開く。短い直線の先が標中学校だ。
肩すかしを喰らった相手が、ギャギャギャッとタイヤを軋ませながら通り過ぎた小道に戻って来た時には、こちらは標中の駐車場にたどり着いていた。
それ以上入って来れないよう駐車場入り口に軽を斜めに停め、全員で走って標中に駆け込む。
「ズガバリャ!」っと大きな音がしたのは、敵が軽に体当たりを喰らわせた音だろう。すさまじい破壊音だ。
この騒ぎで「警察が来てくれるだろう」などと思うのは浅はかだ。影間島東西二地区で警官は二人しかいない。しかも、ちょっとした報告でもあれば海を渡って本署の方へ行かなければならない。つまり勤務の半分は島に居ない。
今日も標まで来るときに駐在所の前にパトカーが停まっていないのは確認できている。きっと島に警官は居ない。パトカーは港だろう。
しかし、奴らはそんな事は知らない。知らないのにこの暴挙が判らない。
普通の感覚ならばなるべく静かに事を進め終わらせたいはずだ。
警察が来ない、事件にならないように手を回したか、または多少強引でも事をさっさと済まさねばならない理由ができたかのどちらかだ。
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