第26話 カリュウの正体
標中に到着するとすぐにリンに事情を説明し、リンの殆ど使っていない教員住宅の鍵を借りた。
しばらくはリンの教員住宅をぷうのセーフハウスとして使わせてもらうつもりだ。リンは快く承諾してくれたが、気になることを言った。
「あんた達ぷうちゃんだけ連れて来たけどサキさんはいいの?」リンに言われてハッとする。言われてみればその通りだ。
あわててぷうを教員住宅に押し込め、とんぼ返りで我寿集落へと戻る。
「お前本名は?」車中でオレはルイの兄貴に名前を訊ねた。
「カリュウ……陣内火竜です」
「カリュウか、これからはそう呼ぶ方が良いのか?」
「あ、いや、まだ学校にいる間はルイで……」
「だな」
考えてみればこいつも可哀そうな奴なのかも知れない。
向こうでの生活もこいつなりにあった筈なのに、任務とはいえ他の人物に成りすまして、しかも場合によっては命の危険すらあるのにその真っ只中に飛び込んで行かなければならない……と、ここまで考えてオレも同じようなもんか、とちょっと悲しくなった。
ついでに以前から気になっていた事を聞いてみた。
「三甚内ってなんだ?」
「あ、と、風魔小太郎……と言っても五代目の小太郎なんですが、徳川の世になった時に密告されて殺されているんです。その密告者が
「それが祖先か?」
「あ、いや、その高坂甚内を捕まえて
「ほう、興味深いな。てことは、もう一人いるんだろ?」
「ええ、あと一人は
「成功?」
「ええ、当時の吉原を仕切っていた人だそうです」
高坂甚内、鳶沢甚内、庄司甚内で三甚内か。
「全員が風魔出身者ってことか」
「ええ、三人とも五代目の風魔小太郎に仕えていた
「そういうことか。つまりお前はぷうの死んだじいさん側の忍者なんだな?」
「ええ、そうです」
「……ん? てことは本筋の継承からすればぷうはお前の主人ってことか」
オレは少し可笑しくなった。ルイがぶすっとしている。
やはりサキさんは居なかった。
室内に乱れた跡はなかったが、風花へと書かれた書置きがキッチンの分かりやすい所に置かれていた。
『何も心配しなくていいよ サキさんと楽しく食事をするつもりです 渡連の海岸でバーベキューをしています 風花も後で一人でおいで お前の事をいつも心配しているおじさんより』
「どう思う?」オレはルイに聞いた。
「百パー拉致られてますね」
「だよな。サキさんが自分で行ったのなら置手紙くらい自分で書くわな」
「ええ、それに「一人で」は完全に脅迫ですよ。一人で来なきゃ……って事ですもん。でも手紙を持って警察に駆け込んだとしても、この文面からでは事件にはしてもらえませんね」
オレ達はメイン道路を避け、オレの家の前を通って渡連集落へ向かうことにした。
一旦家に入り作戦会議を開く。まず情報整理をしようとルイに尋ねる。
「何で今なんだ?」
「え、何がですか?」
「オレはぷうの出自を聞いた時にいずれこんな時が来るだろうと、ある程度は予想していたんだが、ちょっと早すぎる気がしてな」
「結婚ですよ」
「結婚?」
「源之助の長男が今年十七になります。今から姫を説得、洗脳して結婚させるつもりです。二人が日本で認められている結婚年齢に達したらすぐに籍を入れさせるつもりなんです」
「なんじゃそれは?」
「今は風間小太郎を名乗っていても、本家筋の姫がどこかで生きている限り、血筋を大事にする我々の世界ではいずれ逆転もありえますからね」
「バカ、ぷうは全くそんな気は無いぞ」
「ええ、ですが一%でもその可能性があるのなら排除しておかないと安心できないんでしょう。それには姫に嫁になってもらい自分のひ孫を産んでもらうか、さもなくば消えてもらうしかないと……」
嫌な説得力のあるルイの言葉に背筋がうすら寒くなる。
「先手を打って自分がこの島に入った事もばれたんでしょうね、先手を取られたら取り返すのが風間のやり方ですから」
先手の先手がヘリでの御来島か……。しかし、ならルイがこの島に入らなければこんなことにはならなかったんじゃ?
「あ、それは無いです。あいつらの動きを見て自分が派遣されましたから」
あくまでも後手に回らないための先手か。
「ところでルイは誰の命令でぷうを守りに来たんだ?」
「……」
「言えないのか」
「……はい、すいません……」
そういえば、こいつが今まで「言えない」と口ごもった質問はその命令系統に関わる事柄が含まれる場合に対してばかりだったな、と今更ながらに気付いた。
「で、風間本家ってのは何者なんだ?」
「……いえ、それは……」
「……まあいい。まずはその風間本家とやらに誤解を解いてもらうのを先決にしよう」
「誤解……ですか……」
ルイはオレの甘い考えに不満顔を見せたがそれ以上何も言わなかった。
「どのみちキチンと話し合う時間を取らなきゃならんだろうが、今はサキさんの奪還に集中しようか。人質を取られたままで話し合いもクソも無いからな」
「はい、自分は面が割れているんで奇襲しかできませんけど、先生はどうします?」
「オレはサキさんを救出したら車を使って標まで逃げるつもりだから、正面から堂々と車で乗り付けるさ」
二人で二~三の取り決めをしてからぐっと腹に力を入れ直して家を出る。
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