第13話 キビトの正体・まろやの正体
「期間なんかないわよ! 一生私と一緒に暮らせばいいんだから!」
ぷうが何故か横目でナツキを牽制しながら勝ち誇ったほっぺたでオレにせまる。
オ、オレは恋愛経験ゼロで生涯の伴侶を得るのか?
「とにかく……」キビトが口を開いた。
「とにかく、「まろや」に会わせなければ大丈夫さ。あいつはまだ復活を遂げていないだろうから、今の内に強力な重しをしておいた方がいい。たしか紀州の……」
「道成寺ですね。帰り道に私が一つ蛇塚に念の重しをしておきましょう」
校長がキビトの提案を受けた。そして目をラン、と光らせてキビトを見据えながら続けた。
「キビトさん、レント君と風花さんの事頼みますよ」
「お、おう」とキビトは何故か所在無げな目で答えた。
「先生、大丈夫ですよキビトなんかに頼らなくても。風花なら立派にコントロールできますよ、それに僕だって……」
オレが全部話し終える前に校長がキレ気味に叫んだ。
「だまらっしゃい! 多少物ノ怪、魍魎のたぐいと闘う力があなたにあったとしても、近づいてくるまろやを封じる事はできないでしょう!」
「勿論キビトさんにも封じるまでの力はありません。ですが、キビトさんならまろやがどんな姿になって近づいてきたとしても一目で見破ることができるんですよ!」
「え?」
「え?」
「え?」
全員が校長とキビトを交互に見た。
「ですよね、『当麻酒人(たいまのきびと)』さん」
当麻酒人……雨月物語に出てくる神主の名だ。
キビトはちょっとしかめっ面を作って「うん、まあ、そんな名前で呼ばれていた事もあったかなあ……」
「え、キビトのキビは砂糖キビのキビだって……」
「んなワケねーだろ。なんだよ砂糖キビのキビって……ククク」
ちくしょう、この嘘つきザルめ!
「まあいろいろだよ。オヅノって呼ばれていた時期もあったし、ドーマって呼ばれていた事もある……あ、あとピーターパンな」
嘘つけっ!
「まあまあ、とにかく、この後だれか退魔士を一人派遣してレント君に退魔法を受けさせます。一年程で免許がもらえるでしょうから、この一年の間に最善策を考えましょう。今焦っても仕方ありませんから」
校長にそう言われたらオレに反論する術はない。ありがたく申し出を受ける事にした。
台風が去るまでの二日間、校長とナツキ、ヒサトの三人はオレの家に泊まって、ついでにオレの仕事ぶりを見に来た。
関東の中学校に赴任したヒサトは我寿小中学校の規模の小ささに驚きの声を上げたが、ナツキは子供達と楽しくやっているオレを羨ましく思ったようだ。
まあ、国立国会図書館勤務の方にはオレの苦労はわからんだろうが。
三人が滞在している二日間に我寿小中学校の図書室の祓いはほぼ完璧に済んだ。何と言ってもエキスパート四人と精霊一匹の強力タッグである。
オレの左目の神眼(自分ではそう呼んでいる)なんぞ使う間もなく、校長とキビトが隠れている邪気、邪鬼、瘴気などのたぐいをひょいひょいとあぶり出してくれる。後はオレとナツキとヒサトの三人で清めるだけだ。
夜は四人と一匹で酒盛り。
乾き物でビールを飲っていてもらう間に黒糖焼酎に合う肴をオレがこしらえて提供する。
台風通過で貨物船や漁船が入らず食材が手に入りにくいが、元々夏はあまりうまい魚がいない。買い置きの食材と自家製ソースでもてなす。
何故か豆腐と鶏肉が異様にうまい島なのでそれだけあれば充分だ。
酢を効かせたとろみあんの揚げ出し豆腐、鶏レバーの赤ワイン煮、鶏皮ときゅうりの酢の物、唐揚げはもちろんキビ酢ソースがけ、
「あんた凄いね、たった五か月見ないうちにお嫁さんになれる程料理上手になったじゃない」料理を口一杯にほお張ったままナツキが誉める。
「まあな、島にはコンビニも無いし、旨いものが食いたかったら自分で作るしかないんだよ。でも料理ってやつはコツを掴むとどんどん上達しちゃうんだよな」
酔眼のナツキが「よし、私がお婿にもらってしんぜよう」とオレにしなだれかかると、場の空気が一瞬でヒヤッと冷たくなる。
「バ、バカ、風花ちゃんに聞かれたら大変だぞ」ヒサトが慌てる。
「そうですよ、とにかく刺激は少なく少なく、穏便に穏便に……ですよ」
毎年四万か所以上もある公共図書館・図書室に百人程度の司書しか送り出せない文納館大学の学長である。
国からの助成金を引き出すために常に「穏便」を心掛けていると豪語していた在学中の校長講話を思い出す。
オレの良く知っている校長が戻ってきていた。
旧交を温め、恩師に教えを乞うのに二日間は最適の時間だった。それ以上居られるとさすがにうざったくなるだろう。
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