貞操観念逆転世界かと思ったら、ただクラスの重すぎる女子に囲まれていただけでした。

とおさー@ファンタジア大賞《金賞》

1章:貞操観念が逆転した女子に襲われました

第1話 どう見ても貞操観念が逆転している

 ――貞操観念逆転世界。


 男性よりも女性の方が多く、比率が逆転してしまった世界。

 この世界では男性は貴重な存在とされ、女性から性欲を向けられる、か弱い生物である。

 

 女性は肉食動物で、男性は草食動物。


 男であるという理由だけで美少女に迫られたり、襲われてしまうという常識では考えられない事態が頻発している。

 

 倫理観も、常識も、社会通念も、そのどれもが歪んでいる。


 そしてそんな世界に転生したのは俺――馬場タツヤだった。


 一ヶ月前、ふと目を覚ましたら転生していた。年齢は十五歳。今年の春から高校生。


 にも関わらず幼少期からの記憶があった。経験したことがないはずなのに、前世の記憶から連続した記憶として馬場タツヤとしての記憶がある。


 だから日常生活に困ったり、生活に支障が出ることはない。

 

 それでもこの世界の常識にはついていけないことも多々あって――、


「お兄ちゃん! どうして逃げるんですか!」

「手錠をつけられるからだよ!」

「手錠は愛です。お兄ちゃんへの永遠の愛」

「そういうところが重いから嫌なんだよ!」

「反抗期ですか? でも逃しません!」


 静岡県沼津市。千本浜公園。

 富士山と海を同時に一望できるそこでは、同世代の兄妹と思わしき二人が追いかけっこをしていた。


 逃げているのは爽やかそうな少年で、追いかけているのはポニーテールで小柄の少女である。


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……」


 一見すると、どこにでもいそうな仲睦まじい兄妹だが、よく見ると妹の瞳からはハイライトが失われているし、兄の方は恐怖で怯えた表情を浮かべていた。


「お兄ちゃん!」


 陽光が波に反射し、水面をキラキラと照らしている。遠くでぼんやりと浮かぶ富士山のシルエットが、まるで二人の兄妹を祝福するかのように存在感を放っていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 妹に捕えられた兄は絶望したように叫び声を上げる。


 その悲鳴はあっという間に波の音にかき消されて、海の奥底に沈んでいった。


「……貞操観念逆転怖っ」


 正直、この世界は現実とあまり変わらない。


 だから最初は貞操観念逆転なんて、そんな荒唐無稽な世界だとは信じていなかった。普通の世界に転生しただけだと思っていた。


 でもなんというか、致命的におかしかったのだ。


 それこそ貞操観念が逆転していないと説明がつかないほど、周りの人間の言動や態度が異常だった。

 

 例えば母さん。

 母さんはほんの少しだけ息子愛が強かった。

 風呂に入っていると背中を流そうとしてくるし、朝起こしにくる時は堂々とハグしてくるし、あと飯が多い。


 もうとにかくめちゃくちゃ飯が多い。

 食べきれないと言ってもおかわりを提案してくるし、一日に三回おやつの差し入れがあるし、夜食もある。


 俺を太らせようとしているようにしか思えなかった。

 しかしそこで気づいたのだ。


 貞操観念逆転世界において、男性は女性に襲われる脆弱な存在。

 少しでも体を大きくすることで、襲われにくくしようという親心なのだと。



 そしておかしいのは母さんだけでなく姉さんもだった。


 三つ年上の姉さんはとにかくブラコンだった。

 すぐに頭を撫でてくるし、抱きついてくるし、耳かきをしてくるし、距離感がバグりすぎていてもはや恐怖を感じるレベルである。

 

 他にも中学の時にイケメン男子のファンクラブができていたり、おばあちゃんから男の大切さを説かれたりという、現実ではあり得ないような経験を経て――、


 ここが貞操観念逆転世界だという確信に至ったわけである。


「貞操観念逆転かぁ……」


 正直、憧れはなかった。


 漫画やライトノベルでこの手の作品を読んだことはあるけど、実際に自分がそうなりたいとか、女の子とイチャイチャしたいとか、そういう妄想をしたことはなかった。


 俺はただ自分の好きなことに熱中していたから。



 でもせっかくこの世界に来たんだ。

 少しくらい欲を出してもいいんじゃないかと思う。


 俺がこの世界でやりたいこと。前世では叶えられなかった夢。

 

 それは……、



 ――女の子と一局交えることである。


 



 





「わたくしと――一局交えていただけますか?」


 そうだ。俺の夢は女の子と将棋で一局交えることだった。

 そのはずだったのに……、


 あれ? どうしてだろう?

 どうして目の前の彼女は服を脱ぎ始めたのだろう?


 下着をさらけ出した状態で、頬を紅潮させたクラスメイトに追い詰められながらも、俺の疑問は止まらなかった。


「わたくし、覚悟を決めましたので」


 それでもクラスメイトの暴走は止まらない。

 彼女の手がさっと俺のネクタイに伸び、しなやかな所作でゆっくりと解かれていく。

 それはさながら男女の行為を始める時のようで……、



 どうしてこうなった?

 俺は改めて入学式からの行動を振り返るのであった。



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今日から毎日更新していきますのでよろしくお願いします。


5話までがプロローグです。

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