第21話

ナグラ総長は、創造妃を持たぬエントの状況を汲み取った末に、このままでは公平さが無いと察した為に提案を案じた。


「お前は武器でも使えば良いさ、俺ぁ、素手でやる」


ばしん、と拳を強く固めながら、もう片方の手に向けて握り拳を叩き付けるナグラ総長。

その言葉は正しく男気に溢れるものであり、エントは神代鍛冶師の中でもこのような提案をする男が居るのだと思った。


「男の喧嘩だ、武器は使わねぐぎゅヴ」


しかし、ナグラ総長が最後まで言い切る事無く、彼の言葉を邪魔するものがあった。

ナグラ総長の頬を思い切り引っ張るミズミは、不満そうな表情を浮かべているのが目に見えた。


「ミズミ、こりゃあ、俺とアイツとの男同士の喧嘩だ、其処に創造妃が出しゃばる部分はねぇヴぁ」


窘めようとするナグラ総長にしかし、ミズミは彼の言葉を遮る様に頬に執着を見せた。


「うー、みーっ」


ぱちん、と頬を叩かれるナグラ総長は、随分と困った様な顔を浮かべている。


「……大丈夫かい?」


エントは思わず、ナグラ総長を心配してそう聞いた。

何度も何度も、ミズミの手が、ナグラ総長の顔面に暴力を与えている。

ナグラ総長はそれを決して咎める事をせず、彼女の攻撃を全て受け入れていた。


「あ、ああ、お前の心配する事じゃねぇ、ミズミは俺が使わねぇと、拗ねるからよ」


頬を膨らませるミズミと呼ばれる創造妃。

余程、ナグラ総長に対して信頼を寄せているのだろう。

同時に、執念深い程迄の嫉妬を抱いている。

それは、全ての戦いに置いて、自分以外を使用する事を許さない、と言う意思が見えた。

それ程までに、ナグラ総長の事を愛しているのだろう。


愛とは、武器と鍛冶師の間では絶大な絆である。

其処に至る事が出来れば、創造妃は神器とも呼べる神の領域に迄、達するのだ。


「羨ましいものだ……ナグラ総長、貴方と、創造妃の実力、是非ともボクにご教授をお願いしたい」


数多くの神器を鍛造し続けて来たエントは、他者がどれ程の神器を使役出来るのか気になっていた。

その言葉に、ナグラ総長は深く息を吐く。

ミズミの暴れっぷりは最早、一度使ってあげないと鎮まらない程だった。


「悪いな……その詫びと言っちゃなんだが、一分、お前に対する罰は、一分を過ぎたら終わりにしてやらあ」


即ち。

ナグラ総長との戦いにて、一分間を耐え切れば、今回の訪問を不問にする、と言う事だった。


「御存分に」


エントはテンスナイフを構える。

ナグラ総長の腕の中に居るミズミが肉体を変化させ、武器形態へと変化するのだが。


(……シャボン玉?)


彼女の肉体が変化を齎すと共に、周囲に大量の泡が吹き溢れる。

その中心に立つナグラ総長の周辺に、無数の液体が無重力空間を漂う様に浮かび上がっていた。


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