裏1話「学年で一番可愛い子がTSっ娘だった件について」

 前略。


 入学式で一目惚れした学年で一番可愛い子がTSっ娘だった。



 ちょっと何言ってるか分からない?


 大丈夫。


 私も良く分かってない。


 そもそもTS病なんていう都合の良すぎる病気が実在すること自体意味不明だし、そんな病気が実在したところでよりにもよって学年一の美少女が罹患者なんてもっと意味不明。


 でもこういうことを言い出すと私のチカラの方が意味分かんないからこれ以上は突っ込まないでおく。



 ということで、改めて自己紹介。


 面食いでロマンチストで魔法使いな高校1年生。


 何一つ不自由ない富裕層に、何一つ不可能のない超常的なチカラ、「魔法」を持って生まれてきた、生まれながらの圧倒的な勝ち組。


 それが私、黑谷アメ。



 そして、そんな私は高校の入学式で一人の女の子……


 女の子?


 うん、女の子に一目惚れしてしまった。


 

 彼女の名前は白山セイ。


 あまりに可愛すぎるイエベ春な超国宝級の顔面に人形をそのまま拡大したような抜群のスタイル、加えて推定Fカップ以上の巨乳とそれだけで全然天下取れるレベルの絶世の美少女。


 初めて見た時のあの感動と言えば凄まじく、入学式では偉い人の話なんかそっちのけで5列後ろの席から白山くんの心底つまらなそうな顔を眺めて数十分を潰し、「あ、隣の席行けばもっと眺められるじゃん」と気付いたのはようやく校長の話が25%終わったかどうかという辺り。


 それからとなりの体育会系と席入れ替えてやろうと彼女の方へ目線をやった時、ふと直感、天啓のように「TS病」という文字が頭に浮かんだ。


 「あ、実在するんだ、あれ」と一瞬思考が止まった。


 要はあんなに可愛い子の中身が男なわけ。


 本当は彼女ではなく彼とするべきなわけ。



「そもそもなんで性別が変わるの?」


「過程グロくないの?」


「治るの?」



 頭の中に景気良く疑問が浮かんではふわっと解決の目を見る間もなく消えていく。


 それから私は少し考え、「ま、別にいっか」と結論を叩き出した。


 そう。


 別に意味不明だろうと理解不能だろうと奇々怪々だろうと廻廻奇譚だろうと彼女が美少女であることは疑いようもない。


 彼女がちょっと前まで彼であろうと、今の白山セイが絶世の美少女ということは不変の真理なんだから。


 私はその結論に納得し、満を持して白山くんのお隣の体育会系と席を入れ替えた。



 それから私達は「TS病」「魔法」っていうお互いの秘密を共有して、同じマンションに住んでることが判明して、同じ部活に入って、順調に距離が縮んでる。


 本気出せばもっとドカーンと進展するような魔法もあるだろうけど、何故かそれはやる気が起きない。


 私にしては珍しく、「長引けばいいな」なんて呑気なことを考えてる。



◇◇◇



「あら、アメが日記をつけてるなんて。珍しいこともあるものね」


「ま、ママ!?部屋入る時はちゃんとノックしてって!」


「ふふっ、大丈夫。中身は見えてないわよ。それにしても、アメったら高校入ってから毎日楽しそうでママも嬉しいわ。仲のいいお友達でも出来たの?」


「えっと、それは……」


「……それとも、恋の魔法にでもかけられちゃった?」


「……え?」


「うふふ、あなたのこと、ママは応援してるわよ」




 ママが部屋を出てから、私はようやく顔が少し熱くなっているのに気がついた。


 あ、そっか。


 私、魔法をかけられたのは初めてかも。

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