第13話 巨大な門

 だがまあいい。変えてもらうに越したことはない。


 と、ソルスが周囲を見回している。


「何をしている」


「探している」


「残留思念を?」


「違う。服だ」


 ああ、そういうことか。こいつはさっき俺の服をトレースしたと言っていた。ならば誰か別のひとを見つければ、そのひとが着る服を複写トレース出来るってわけか。


「誰もいないな」


 周囲を見渡すも、いまだ明け方のためか人っ子一人いやしない。


「仕方ない。残留思念を追って少し歩きながら探そう」


 男とペアルックで街を闊歩かっぽするなんてあまり気分の良いことではないが、人気がないのなら問題はない。


 それにペアルック散歩も誰かひとが見つかればすぐに終わることであり、そうであるなら気にせず歩けるというものだ。


 俺はそう思って歩き出した。


 ソルスは何も言わずに俺の右横を歩く。


 傍から見れば、完全にゲイカップルだな。


 いや、別にゲイが悪いとか、嫌いだとかいうわけではない。異世界にもゲイの知人はいたし、レズもいた。


 ただ、俺はゲイではない。なので……これは差別ではない。この気持ちは……何だろう。


 よくわからない。俺は何故ゲイカップルと見られてしまうのが嫌なのだろうか。


 これは本当に差別意識ではないのだろうか。


 俺は……どうなんだろうか。


 そんなことを五分ほど歩きながらつらつらと考えていると、俺の左手側から突如として沢山のけたたましい足音が響いてきた。


 あ、これは集団だ。まずい。遭遇するのは一人だけだと勝手に想像していた。


 だがこの足音は一人どころか、十人以上はいるぞ。


 こんなところを見られたらゲイカップルに……いや、別に差別しているわけじゃないが。


 と、突然大きな金属音が鳴った。それも、俺の真横だ。


 俺が音のする左側に顔を向けると、とても大きな邸宅の巨大と形容するにふさわしい金属製の門が、今にも開こうとしていた。


 あ、まずい。どうするか。


 俺が躊躇していると、巨大で重そうな門にもかかわらず、思いのほか速く開いてしまった。


 どうやら人力ではなく、電動式のようだ。俺が知らないうちに電動式で開閉する門が出来たんだなあ。しかもこんなに凄く速いスピードで開く門が。あんなに大きな門だっていうのに、あっという間に開いちゃったよ。四十年の長い月日を改めて感じるねえ。


 そんなことを思っていると、開いた門の向こうから沢山のむくつけき男たちがわらわらと飛び出してきた。


 男たちは、俺たちを見つけるなり不審げな表情で睨みつけながら取り囲んだ。


 皆、全身黒づくめの服を着ている。そして全員、すこぶる目つきが悪い。


 これはあれだな。たぶんだけど、あれだ。昔映画なんかで見た、怖い職業の人たちだ。


 と、その内の一人が、俺たちに向かって威嚇するように言った。


「おいこら!おのれらわしらの組になんぞ用でもあるんか!?」 

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