黎明転生 - 異世界で神を越え、幸せを掴む -

氷川ユコ

第一章 リラべル村

「プロローグ」

まただ。

腹を蹴られる。

怒りに満ちた目。


「役立たず」

「生まれてくるべきじゃなかった」

「お前は恥知らずだ!」


——これが、この十五年間の僕の人生だ。


顔や体からにじむ血を拭い、引き出しから古い包帯を取り出して巻く。

何度も同じものを使っている。巻き方も、もう手が覚えた。

鏡を見る……いや、やめておこう。

そこに映るのは僕じゃない。

傷のないふりを覚えた、誰か別の人間だ。


どうやって隠せばいい?

制服のシャツで半分は隠れる。残りの半分は——誰も見ようとしない。

部屋に戻る。床は冷たい。僕は、その冷たさに背中を預けるように座り込んだ。

両親の怒鳴り声は、やがて疲れ果てたように遠のいていく。

僕は泣いた。

けれど、泣き止んだときに気づく。

悲しみが消えたからじゃない。もう、泣く涙が残っていなかっただけだ。


部屋は狭くなった気がした。

世界も。

朝が来た。

眠れないまま、重たいまぶたをこすって制服に袖を通す。家を出る。


学校へ向かう道、僕は妙に静かだった。

周りのささやきが、雨上がりの風みたいに耳に触れてくる。


「見て。あの子、かわいそうに……家でひどい目にあってるらしい」

「助けてあげた方がいいんじゃ……?」

「やめとけ。関わらない方がいい」


——わかってる。

誰も助けに来ない。

誰も僕なんか気にしない。

むしろ、みんな僕から離れていく。


どうして僕は生まれてきたんだろう。

僕は、一体何をした?

嫌いだ……

本当に、この世界が嫌いだ。


時間はまだある。何か食べ物を買おう。

お腹が小さく鳴く。

ポケットの中身を確かめる。

——100円。


これで何ができる? 本当に、何が?

まともな食事なんてできやしない。


学校では、僕はいつも一人だ。

グループに入ろうとしても、みんなが少し距離を取る。

僕、何かした? なぜ逃げる? ねえ、なぜ?

胸の内側に、穴が空いたみたいな空虚が広がる。


授業は淡々と進む。先生は僕を見ない。

だから僕は教室の隅、窓際に座って、誰の邪魔もしない。

だって、誰も僕のことなんて気にも留めていないから。


昼休み、屋上へ。

ここだけは、誰も僕を嫌そうな目で見ない。

横になって空を仰ぐ。雲が流れていく。

僕は、自分の人生をどうしたらいいのか考えてみる。

でも、結局わからない。


得意なことは、何もない。

成績もよくない。成功したいとも思えない。

ただ、風が頬を撫でていく。


チャイムが鳴る。

授業が再開する。

空が重い。たぶん、雨だ。

傘は——ない。


どうしよう。

……とりあえず、授業が終わってから考えよう。


午後も変わらない。

次は課外活動の時間だけど、僕は何にも入っていない。

得意なことなんてないし、申し込まなかった。


強いて言えば、殴られ慣れてるくらいだ。

だからって、家に帰りたいわけでもない。

公園に寄ろう。

学校を出ると、雨脚が一気に強くなった。

服があっという間にずぶ濡れになる。傘はない。どうしようもない。


***


公園へ向かう途中、年配の女性に声をかけられた。


「おやおや、若いのにびしょ濡れじゃないの。中においで。服を脱いで」


え? 服を——脱ぐ?


「ごめんなさいね、言い方が悪かったわ。乾かすのよ。代わりの服も貸してあげる」


奇妙だ。けど、その笑顔は優しい。

疑いながらも、僕は頷いた。

部屋に上がり、服を乾かす間、少しだけ互いの話をする。

彼女には二人の子どもがいるらしい。

息子と娘。今は海外で働いていて、ここには一人で暮らしているという。


僕は十五歳だと話した。

人とうまく関われないことも。

彼女は静かにうなずいて、言った。


「人生には良いことも悪いこともあるけれどね、前に進む勇気を持つのよ」


……できたら苦労しない。

どうして僕にはできないんだ。

なぜ、みんな僕から離れていく?

なぜ、僕をいじめる?

わからない。考えるほど、体が固まっていく。


この人は、いい人だと思った。

少なくとも、その瞬間までは。


「3千円です」


え……? 3千円?

助けてくれるんじゃなかったの?

「百円しか持ってない」と言うと、彼女は表情を消し、貸してくれた服を取り上げ、僕を外に出した。

雨は、さっきより冷たい。

拳で壁を殴る。

信じた僕が、馬鹿だった。


やっぱり、何か見返りを求めるんだ。

どうして信じた?

どうして、少しでも疑いを緩めた?

もう、何もしたくない。


友達?

知り合い?

家族?


——僕にはいない。

欲しくもない。

何のために?

軽蔑の目で見られるために?


……いらない。


涙が、突然こぼれ落ちた。

止めようとしても止まらない。

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

通りの向こうで、小さな子どもが笑っていた。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥が焼けるように痛んだ。

なぜだろう。

まるで——ずっと昔、誰かが僕にそうやって笑いかけてくれたみたいで。

気づけば、口が勝手に動いていた。


「……おばあちゃん」


なぜ、行ってしまったの。

あなたがいた頃、この家は、少しだけあたたかかったのに。

今は——悪意しかない。

どうしたらいいのか、もうわからないよ。

助けて……おばあちゃん。

そよ風が吹いた。

「いつもそばにいるよ」と耳元で囁かれた——ような気がした。


一瞬、僕は笑った。

けれど、そのぬくもりは、すぐに消えた。


家に帰り、「ただいま」と言う。誰も返事をしない。

暗闇と沈黙だけが、いつも通りの家だ。


シャワーを浴びる。

頭に水を流した。

まるで、すべてが消えてしまうかのように。

ベッドに横になる。

考えれば考えるほど、憎しみと怒りと、どうしようもない挫折感が湧き上がる。

ここに、いたくない。

でも、どうすればいい?


考えはまとまらない。

無理にまとめようとすると、頭が破裂しそうだ。

悲しいけど、これが現実だ。


もし、もう一度やり直せるなら——

今度こそ、幸せに生きたい。

笑ってくれるお母さん。

一緒に遊んでくれるお父さん上。

それが、僕のいちばんの望みだ。

失業中のお母さんも、失業中のお父さん上も、もう嫌だ。

祖お母さんの遺したお金で遊ぶだけで、僕のことは見ない。

旅行して、楽しんで……それでも、僕は彼らの子どもなのに。


自分でなんとかしなきゃいけない。

食べ物は、自分でねだるしかない。

彼らは、欲しいものは何でも手に入れるのに。

起き上がって、机に紙を置く。

ペンを握る。

けれど、何を書けばいいのかわからない。

だって、彼らは一度だって僕を愛さなかった。

いつも、僕を傷つけた。

だから、言葉が見つからない。


何か書こうとしては、紙を丸めて捨てる。

それは僕の言いたいことじゃない。


「さようなら」?

「僕は行きます」?

「幸せになってください」?


……最後の言葉を選んだ。


「幸せになってください」


紙を寝室の机に置く。

スウェットを着て、家を出る。


階段を上る。ビルの屋上へ。

冷たい空気が頬を刺す。

風が強く、雨は容赦なく顔を打つ。

それでも、屋上から見下ろす街はきれいだ。

大きなビル。滲む明かり。


——これも、もう最後だろう。


もう一度、街を見られてよかった。


そう思った、次の瞬間。


僕は——死んでいた。



【あとがき】

日本語は完璧ではありませんが、一生懸命書いています。

間違いを見つけたら、コメントで教えてください。

応援してくれると嬉しいです!

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