Boundless Legends: ECLIPSE   -円環の徒ー  

佐藤乃御飯

プロローグ:レア編

※本作品は楽曲を聴きながら読む作品となっています。文章の合間に表示されたURLから楽曲を再生しお楽しみください。



♪▶︎ https://suno.com/s/Fxw8lDYwTitFFRsU



あの日、私は知らない誰かに祈った。

その声は、きっと届いたんだと思う。



母を失った日のことは、

今でも炎の匂いで思い出せる。


最後に聞いた母の声は震えていたのに、

わらの中で震えていた私より、ずっと強かった。


影が小屋の前に立つ音がして。

私は祈った。

生まれて初めて、心の底から。


その祈りは確かに──先生へ届いた。


だけど同時に、それは

闇の始まりでもあった。


世界の円環は、

あの日から静かに歪み始めたんだ。





大陸の中央から少し西、旅人すら滅多に訪れない辺境の小さな村に、その日、“影”が差し込んだ。


黒いローブを着た集団が、村を襲撃したのだ。


ローブには”重なった円の紋章“。

ゆらゆらと揺れる炎の中を、彼らは一歩一歩、祈るように歩く。


殺意の熱さも、怒りの激しさもない。

ただ、何かを“満たすためだけ”に淡々と人を殺し、表情もなく家を焼き払っていく。


──


まだ幼いレアは、燃える村を母に手を引かれ、家畜小屋へと逃げ込んだ。


母:「レア、この中に隠れてなさい。

大丈夫、怖くない。決して声を上げては駄目よ。すぐに迎えにくるから。」


レア:「いやだ……!」


泣きそうになるレアの口を一瞬早く母の手が塞いだ。


母:「レア、愛しているわ。愛しい我が子。声を出しては駄目。いい…?約束よ?」


額に落ちる震えたキス。

その顔は“今までで一番優しい母の顔”だった。


そして、母はレアを藁の奥に押し込み、家畜小屋から飛び出した。

藁の隙間から見える炎と母の背中が、涙で揺らいだ。



母は黒い影の前に立ち塞がる。

誰よりも強く、優しい母が理不尽に切り裂かれた。

レアの世界が音もなく、壊れた。



声を上げたい。

泣き叫びたい。

悔しさと怒りで喉は焼け、眩暈めまいがする──


普段は活発で、村の大人たちからよく注意されていたレアが、唇を噛み締め、固く目をつむり、声を上げぬように耐えていた。


それは、ついさっき交わした、母との”最後の約束”。


黒い影がゆらりと揺れて家畜小屋の前に立ち止まる。


見たことも、会ったことも、信じたこともなかった村の守り神に、初めて心から祈った。

いつももっと、ちゃんとお祈りしておけば良かったと、そう本気で思った。



♪▶︎ https://suno.com/s/dc7TOT3BPlDmgPn3


黒い影が剣を構えた瞬間──

小屋の外から、風の噴き上がる音がした。


初めて捧げた真摯しんしな祈りが届いたのか、視界の外からもう一つの影が飛び出して、フードの男を一太刀撫でる。


男の影は情けなく震えながら、そのまま地面に倒れ込んだ。


???「助けるのが遅くなってごめん。あとは私に任せて、そこで見てなさい!」



──彼女はセラフィと名乗った。



燃える家々の炎と風をまとって戦う彼女の髪は、まるで光のダンスを踊っているかのように、きらきらと黄昏たそがれ色に輝いていた──



レアは涙でにじむ視界のまま、ただセラフィを見つめる。

母を失った悲しみよりも、“光を見つけた”ような衝撃が胸を満たしていた。



襲撃はセラフィによって収められ、生き残った者達は村の広場に集まり議論していた。

涙する者、祈る者、言い争う者。誰も間違ってはいなかった。


たくさんの家が燃えてしまったが、それ以上に住むべき人間が死んでしまったのだから問題ない──


そんな考えがレアの頭に一瞬よぎり、母の怒った顔が浮かんでハッとした。



──日が昇る頃、セラフィは残った村人と後始末を続けながら、空き家に滞在することを決める。


そして──少しずつ残った村の人々に“剣”を教え始めた。

それは攻めの剣ではなく、守るための剣。


セラフィ:「誰かを守れる剣は、心が折れない剣だよ。レア、覚えておいて。」


稽古けいこでは厳しかったが、普段は物腰が柔らかく、笑顔の絶えない女性で、子どもたちも村の人間も、すっかり彼女を受け入れ、セラフィに求婚する村の男までいたほどだった。


レアは必死にその背中を追った。

五年という歳月の中で、剣の才を開花させ、セラフィの一番弟子を名乗るまでになっていた。


村には何度も、同じ紋章が縫われたローブの男たちが襲来したが、その目的はわからぬまま。

その度にレアたちは力を合わせて追い払う。


村はいつの間にか強くなっていた。



♪▶︎ https://suno.com/s/ukUwQXIkC6hylwni


セラフィは、村が自衛の力を得たことに安心していた。

そろそろ東にある故郷の村に帰ろうと考え、レアにそのことを告げる。


セラフィ:「もう、この村は大丈夫。

みんな本当に強くなった。こんな村、大陸中探したって、そうは見つからないよ。」


レア:「そうだよ先生! みんな先生のおかげ!

こんなに強い村なんて聞いたことないよ!

……あ、ロヴァンは何年経っても弱いけど……。」


セラフィ:「ふふっ。ロヴァンは優しすぎるからね、戦うのは合わないんだよ。でもそれは決して悪いことじゃないわ。」


レア:「でも、まるでおとぎ話みたい! このままみんなで傭兵団ようへいだんになったって生きていけるね!」


セラフィ:「んー、傭兵団かぁ……。ははっ! それも良いかもね! みんなで話し合って決めるんだよ?

でも、その時は弱い人を“守る剣”にならなきゃダメだぞ?」


レア:「……? 先生何言ってるの? みんなは、先生がやろうって言えばついて行くんだから! 傭兵団『守る剣』! だよ!」


セラフィ:「……。」


レア:「……先生?どうしたの?」


セラフィ:「……レア、私はそろそろこの村を出ようと思う。みんなのことは大好きだし、満足はしてるけど、少し長くいすぎたなって。」


レア「……え? 先生! ダメだよ!

なんで?どこかに行っちゃうの……? どうして?」


セラフィ:「ここから東に私の故郷があってね。

実は私こう見えて、そこの神様の巫女なの。驚いた?

……だからあんまり留守にしてると、神様に叱られちゃうかなってさ!」


レア:「ええっ!?巫女…?剣士の?

……でも、そうなんだ……どうしても帰るの?」


レアは驚いた顔をすぐに曇らせる。


セラフィ:「うん……。

でも、この村から歩いても二、三日の場所だから、ここにはまたいつでも来られるよ。レアも私たちの村に遊びにきて?」


レア:「…うん。」


セラフィ:「私の兄さんも紹介する! 麦と羊肉のスープだって作ってあげる!」


レア:「……お兄さんがいるんだ?!

……じゃあ、たくさん遊びに行く!たくさん会いに行く! 私、先生の作るスープ大好きだから!」


セラフィ:「ふふっ。レアは本当に食べるのが好きだよね。」


レア:「そりゃそうだよ! 食べることは生きること! でしょ?!」


セラフィ:「その通り!」


レア:「……じゃあさ、先生がこの村を出る時、ついて行こうかな! ……護衛で!」


セラフィ:「護衛!?あははは! ありがとう! 頼りにしてる!」


レア:「もう! 先生! 馬鹿にしてるでしょ!」


二人:「あははははは!」



♪▶︎ https://suno.com/s/fWNVpfa7WvfERbxE


その夜──

炎の色が、再び村を染める。


今度の襲撃は、今までとは違っていた。


黒いもやを纏う影の“魔物”が、村人を薙ぎ払っていく。

その形は獣にも人にも見えず、夜そのものが獣の形に歪んだようだった。


あまりに強大な力の前に為す術もなく、すべてが炎に包まれた。


セラフィ「レア! 貴女だけでも逃げて! お願い!」


レア「先生……! 嫌だよ! 私も戦う! そんなこと言わないでよ!」


セラフィ「お願い! 真っ直ぐ森に走るの!

私以外に、この黒い影には勝てない! お願いだから逃げて!」


レア:「嫌だよ!こんなの……!」


セラフィ:「言う事を聞きなさい!!!」


はじめて聞くセラフィの緊迫した声に、レアの本能は事態の重さを認識していた。


レア「…先生……先生なら勝てるんだよね?! 信じていいんだよね?! 一人になるのは嫌だよ!」


セラフィ「……勝てる! 勝ってみせる!

だから……早く行きなさい……!」


セラフィ:「行けーーーーー!」


レアは溢れてくる涙を拭うことも忘れ、必死に森に向かって走り出した。


レア:(先生……負けないで……! 死んじゃ嫌だよ……!)


レアが森に走ったことを確認したセラフィは悲しそうに笑う。


セラフィ「……よかった。」


背中が、光に包まれるように揺れていた。

セラフィは影の獣に向き直り、剣を構える。


セラフィ:「……私が相手だ!! かかって……きなさい!!」


そう叫ぶと、セラフィの剣が月光色に激しく輝き、村全体を光が包み込んだ――




歪んだ円環は、静かに廻り始める。


つづく



※楽曲はAI制作ですが、作詞とプロンプト構成によって楽曲を制作をしており、AI開発元でも曲の著作権は製作者にありますのでご注意ください

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