ナンデモ案内部〜あなたの悩み、ナンデモ案内させていただきます〜
戯就 航
プロローグ・ファースト迷子
君が迷子を見つけたら、どうする?
あぁ、答えなくていい、結局自分が気持ちのいい方を選ぶものだから。
君の選択なんか、僕は知りたくない。
迷子はいずれ大人になり、上手くいって迷い人、順当に行けば放浪者か不審者に成る。
つまり逸れものだ、社会の歯車に挟まる小石でしかない。いずれすり潰され、粉微塵に消える。
僕には、その未来が見えている。情けなく助けを求めても、振り落とされてきた。だからもう、助けなんて、導きなんて、いらない。
桜は美しい。春が過ぎると、毛虫に集られるけどな。
入学式。周りの新入生たちには、どんな未来が見えているのだろう。目がやたらと輝いている。友達でも作ろうとしているのか、積極果敢に話しかける姿はどこか懐かしさを感じた。
さぁ、さっさとお暇しようか。席を立ち、紅白に包まれた入学式会場を去る。
その足を止める声が、後ろから届いた。
「待って、君、名前は?」
端正な顔立ちの男子。多分ストレスなんて何もないんだろう、そんな顔をしている。一瞥し、踵を返す。話しかけないでくれ。そんな僕を、彼はもう一度呼び止める。
「俺の名前は平賀 秀英(ひらが しゅうえい)。名前を聞くには、まず自分から名乗らないとな。ごめんな」
鳥肌が立つ。軽いノリ、苦手だ。今すぐにでも、振り向かずに、この場から去りたい。だがまぁ、名前くらいなら言ってもいいか。振り向き、口を開く。
「僕の名前は斑目 佳弥斗(まだらめ かやと)。もう二度と話すこともないだろうが。じゃあ」
顔を背け、バッグと共に去る。
「待ってくれ。今日この後、新しいクラスのみんなとカラオケに行くんだが、来ないかい?」
「そんな馬鹿げたもの、誰が行くと思ってるんだ。帰る」
顔も見せずに、僕は去る。思わず握った拳を引っ提げて。
一面に広がる本の香り、誰一人として喋らない、素晴らしい空間。図書館はやっぱり落ち着く、無駄なことを考えなくていいからな。嬉々として本を漁る。今日は何を読もうか、タイトルと表紙から内容を見定める。
ん、僕の手はとあるタイトルによって止められた。
それは『人と人を繋ぐコミュニケーション術』。
色々な顔が思い浮かぶ、さっきの平賀の顔もある。さっきは、流石に言い過ぎたかな。反省のブルーが頭に浮かぶ。いやいや、しつこかったアイツが悪い。そうだそうだ、僕は何も悪くない。
しかも、今頃アイツはカラオケか。じゃあ尚更アイツが悪い。
「げ」
次に取った本は最悪だった。『友達の作り方講座』だ。タイトルを見た瞬間に本棚に押し込む。なんてタイトルしてやがる、最悪じゃねえか。ゾクゾクと悪寒がした。早くこんな棚から去ろう。
そこから図書館に少し滞在した後、僕は家に帰った。
「なんで、こんなの、借りてきちゃんたんだろう」
窓際に積まれている二冊の本、どちらも邪悪なタイトルを纏っている。
僕は試しに『人と人を繋ぐコミュニケーション術』を手に取る。
が、ダメ。
二、三文読んだところで卒倒した。何が『人と人、言葉で繋げば輪っか。』だよ、破るぞ。
「はぁ」
情けない、自分の行動に嫌気がさす。天を見上げると、そこには見慣れた天井。いつもは落ち着くオアシスの一部なのだが、今日はどこか牢屋みたい。
――ポン
本を置く。多分、返却期限まで一度も開くことはないだろう。どこか悲しい確信だった。
入学式から数日が経った。昼飯の時間、賑わう教室を尻目に、定位置に向かう。
「うん、落ち着く」
自問自答するように納得し、椅子に座る。ここは、階段の下の隙間。少し埃っぽいのは玉に瑕だが、何より静かで誰もいない。これ以上の場所は中々無いだろう。
ただ一つ、変なものがある。それは部活案内のポスター、それ自体は特段変なものでもないが、こんな場所に貼っているのが変なのだ。誰も来ないのに、来てもそいつは変なやつだ。
毎回見ているから、もう内容は覚えてしまった。
『ナンデモ案内部 部員&相談募集中。悩みのある人も、ない人も。ナンデモ案内。』
だそうだ。まぁ、別に興味ないけどね。ホントに。友達いないとか、関係ないけどね。
心とは真逆に、足は動いた。
僕はナンデモ案内部の部室の前にいた。結局、哀れにも助けを求めようと、足を運んでいた。
中から誰かの声がする。まるで僕を求めるように。次の瞬間、ドアが――開いていた。
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