No.9〜9人目のSランク魔法師〜

@aiai66986

第1話 帯刀 陽仁

マギア王国。

太平洋のど真ん中に位置する島国であり、国土は20000㎢。人口は1000万人ほどの小さな国がある。日本の半分程の国土に日本の1割ほどの人口と言う絶滅一直線の様に見える王国であるが、実際は逆で魔法発祥の国と呼ばれ、全国で最も魔法力に優れている大魔法国家である。全ての国が一丸になっても絶対に勝てないと言われるほどの魔法力を有しており人外の実力者がわんさかいる。それがこの国である。


そんなマギア王国のとある空間。自身以外に人の気配が全くない青空が覗く空間で1人しゃがみ込んでいる。


「母さん。俺、日本に行こうと思う」


青年は目の前に鎮座している墓石に向かって一人話しかける。


帯刀たてわき 陽仁はるひと。年齢は17歳。180cmの身長に75kgの程良い筋肉。アップパングで爽やかな印象を与えてつつも、全体的に髪を遊ばせて勇猛さを与えている。イケメンに位置付けられる顔立ちであり、異郷の厳しい地で過ごしてきたことを裏付ける様に自信に満ち溢れた表情をしている。黒いジャケットに黒いチノパン。ジャケットから見えるインナーは色のTシャツは無地の物でありシワ一つない状態から彼の育ちが窺える。そして、彼の腕にはワンポイントの腕輪が嵌められている。シルバーの何の装飾も施されていないシンプルな腕輪。そして、腰に巻き付いている一振りの刀。それが帯刀 陽仁と言う人物であった。


墓石には『帯刀たてわき 紅音あかね』と達筆な和体で彫られており、周囲に並び立つ目の前の墓石とは違う筆記体で名を描かれている。

周囲の墓石は皆カタカタでの表記であり、目の前の墓石だけが場違いな雰囲気を醸し出していた。

和風の墓石である。

この国『マギア王国』は実力至上主義を唄う魔法国家だ。

全世界の中でも追随を許さないほどの魔法適正の人民を持ち、全てを魔法に頼って生きている。

その為、周囲を見れば黄金に輝く墓石——墓金——や、大理石の墓石、艶のある漆黒の素材を用いた墓石?などが魔法によって創成され往々にして並んでいる。

勿論、和風の墓石は素晴らしい。完璧に磨がれており触り心地も良い。まるで石で作られているとは思えないほどの精巧さを素人目から見ても感じるほどだ。だが、やはり霞む。それほどの存在感を周囲の墓々から感じていた。


「母さんが死んでもう2ヶ月。あっという間だったよ」


母親の墓石に手を添える青年の顔には悲しさと切なさがあった。それは死する瞬間に居合わせられなかった罪悪感からくるものなのか、36歳という若さで未成年の息子を残してこの世を去ったことに対する悲しさなのか。どっちにしろマイナスの感情であることは間違いなかった。


「母さんが以前話してくれた故郷の話。興味なさげに聞いてたけど本当は母さんと一緒に行きたいって思ってたんだ。まさか一人で行くことになるとは思わなかったけどな。けど、いろいろ聞いていたおかげで不安は無い。むしろ母さんがどんな幼少期を過ごしてきたのか、それを見れることがなんだか嬉しいんだ。やっと母さんの事が理解出来そうな気がするから。」


彼は自身が持つ一振りの刀に目を向けると慈しむ様に穏やかな表情を浮かべる。


「正直俺、母さんの事何も知らないんだよな。日本出身ってことだけは知ってるけど、それ以外は全然知らないし。そもそも何で王宮のメイドなんてなれたんだよ。王妃とも仲良かったし、我が母ながら凄い人だったのか?肝心なことは何も教えてくれなかったからこんなことになってるんだぞ?」


勿論返事はあるはずがない。

しかし、実は魂だけでも残っていて質問に答えてくれるかもと期待しなかった訳ではない。

答えが返ってくることはなく項垂れる。


思えば物心ついた頃には母はメイドをやっていた。王妃お抱えの筆頭メイドだ。昔は何の違和感も覚えなかったが今覚えば他国の人間が何故?と考えてしまう。答えなんか聞けないけどさ。


今の陽仁があるのは全て母、帯刀 紅音のおかげであった。紅音が王妃に気に入られていたおかげで皇太子と英才教育を受けることが出来た。皇太子とは折り合いが悪かったけど・・・・・・。紅音が優秀な魔法師だったからこそ、その遺伝子を受け継ぐことが出来、培った戦闘技術を習うことが出来た。実力至上主義のマギア人に受け入れてもらうことが出来た。全て母のおかげだ。


母はとても穏やかな親だった。愛情をたくさん与えてもらった実感もあるし、楽しい思い出もたくさんある。厳しい稽古を付けてもらったこともある。いつも笑みを浮かべて楽しそうに人生を満喫している姿に元気をもらっていた。メイドとして忙しい中でも面倒を見てくれたことに感謝の言葉しか出ない。だからこそ、ずっと一緒だったからこそ、気づいていたこともある。母の心の中にはいつだって穴が空いていたことに。全てはその穴を埋めるための行動なんじゃないかと何となく実感していた。それが何かは分からない。けど俺の存在が少しでも心の穴を小さく出来ていたのなら嬉しいと感じる。


「そう言えば、お袋が何で日本に帰らないのかってちゃんと聞いたことなかったな。喧嘩別れしたとだけ聞いていたけど、それが理由じゃないのは何となく分かってた。言いづらいんだろうなって思ってたから聞かずにいたけど、もう聞けないと思うと途端に気になってくるよ。健気にこんな手紙まで用意してさ。本当は帰りたかったんじゃないかって思うんだよな」


陽仁の手には2枚の手紙が収まっていた。達筆な字が日本語で書かれている。宛先は『御影みかげ 宗次郎そうじろう』と『御影みかげ 紅葉もみじ』と書かれている。どちらも『親愛なる父』、『親愛なる姉』と書かれている為、身内の名前なのだろう。


というか旧姓は御影なのか。知らなかった・・・・・・。


「この手紙は俺が責任を持って渡しておくから安心してくれ」


笑みを浮かべる。

母の遺言なのだから絶対に無くしてはならない。

陽仁はそれを丁重に扱っていた。


「それともう1つだけど、結局俺の父親って誰なんだ?結局教えてくれなかったけど、やっぱり気になるんだよな。誰か知ってる人いないの?俺に教えられない様なクズ親父なのか?・・・・・・って今更だよなぁ」


陽仁は親父を知らない。生まれた時にはすでに居なかった。一度お袋に聞いてみたことがあるが、とても悲しい顔で遠くに行って戻ってこないとだけ言われたことがあった。お袋の顔を見て言及出来なかったけど、その遠くに行ったという言葉が、言葉通りなのか死んでいるのかどっちなのかは未だに分からない。というか、過去のことを聞こうとするとすぐ顔を曇らせるから何も聞けなかったんだよな。でも王宮でも一度も名前が出なかったから皆知らない気がするし、考えても仕方ないか。


「そうそう。俺Sランク魔法師になったんだよ。ほらこれ、凄いっしょ?」


陽仁はSランク魔法師の証である魔法師バッジを子供の様に満面の笑みで見せる。

3cmほどの真っ黒なバッジに金色でSと書かれている。これは世界魔法師協会から配布されたものである。


魔法師バッジとは魔法師の資格を得た者にのみ配布させる証明書代わりとなるものだ。

魔法を行使出来る者には2通りの呼び名がある。魔法使いと魔法師である。

魔法使いとは魔法師の資格を得ていない魔法を行使出来る者全般を指す総称であり、魔法師とは世界魔法師協会によって定められた規定をクリアした者に与えられる名誉な称号である。魔法ランクにはSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランク、Fランクと7段階あり、魔法師の資格を得るには最低でもBランク以上の魔法行使力が必要になる。また魔法ランク以外にも教養が必要であり一般常識やマナーなども規定に含まれる。


世界魔法師協会とは世界の魔法師を管理すると同時に、魔法犯罪の撲滅、対処を行う世界組織である。簡単に言えば、魔法関連の専門の世界警察だ。本拠地はこのマギアにあり、各国に支部が置かれている。日本にもあるので今後はそこのお世話になるだろう。各国の支部には所属の魔法師がおり、基本的に支部の魔法師を中心に各国の魔法犯罪に対処していく。しかし、支部の魔法師だけでは対処しきれない問題も出てくる。マギア人が絡む事件などがそうだ。マギア人は人外だ。マギア人が他国で騒動を起こそうものなら必ずその都市は崩壊する。たった1人のマギア人が絡んでいたとしてもだ。そんな時に対処に動くのが世界魔法師協会だ。要は人外には人外をぶつけると言うやつだ。特殊部隊と呼ばれる人外の中のぶっちぎりの人外を派遣してさっさと回収してもらう。これが基本的な流れとなる。


ちなみに現在魔法を行使出来る者は世界の全人口の1%ほど。つまり1億人ほどいる。そして魔法師の資格を得られる者はそこからさらに1%ほどで100万人。その中でもSランクはだったの9人しかいない。つまり、陽仁は齢17歳にして既に魔法師界のトップに登り詰めたことになる。


「母さんはAランク魔法師だったから、俺は母親を超えたってことになるよな?いやぁ、母さんはこんな自慢の息子を生めて日本の功労者だぞ?ふははははははは・・・・・・本当は生きてる時に見せたかったんだけどな」


どうして死んじまったんだよ、母さん。

それも前触れもなくいきなり。

俺がそばにいない時に・・・・・・。


その時、ものすごい速度で何かが近づいてくるのを感じた。陽仁は視線だけを向ける。まだ姿は見えない。けれど、それが誰なのかは鮮明に分かる。魔力の色、波長、濃度。全てからそれがよく知った相手だと陽仁には分かった。

だからこそ陽仁は立ち上がり、身体を向ける。


「陽仁、時間だぞ」


空から降りてきた相手は目の前に着地すると即座に口を開き一言告げる。


真っ赤な腰まで届きそうなほどの長髪を束ねて肩から鎖骨へと流しており、艶のある様子から清潔感に気を遣っているのが分かる。また、上下黒のワイシャツとスラックスの上にロングジャケットを羽織っており、陽仁よりも一回り長身なのも相まってだだ者ではない印象を与えている。世界魔法師協会特殊部隊隊長ルーク。陽仁の上司だった人だ。


「はい、分かりました隊長」


もうそんなに時間が経っていたのか。

どうやら随分長く話し込んでしまったみたいだ。


「遅れるなよ。せっかくの晴れ舞台だ」


ルークは陽仁の返事を聞くと笑みを浮かべ一言添える。すぐに背を向けて飛び立とうとする、この一連の動作から陽仁に対して信頼を寄せていることが分かる。ルークは大きく跳躍するとあっという間に陽仁の視界から消える。相変わらず速い。


「じゃあ母さん。もう行くよ。これからSランク魔法師としての顔出しがあるんだ。それが済んだらすぐにここを断つ予定。しばらくは来れないけど必ず来るからそれまではここに眠ってる偉人と楽しく過ごしていてくれ」


陽仁は母の墓石に背を向ける。そして、一歩歩き出した途端、確かな母の声が聞こえた気がした。

「行ってらっしゃい」。そう言われた気がした。

陽仁は小さく笑みを浮かべる。


さて、日本はどんなとこだろうか。本場の和食料理が楽しみだ。母さんは料理だけはダメだったからなぁ。寿司食べてみたいな。あと、天ぷらと蕎麦。楽しみだ。


行ってきます。


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