見習い冒険者
「キングゴブリンをたった一人で討伐するなんて流石はA級冒険者ですね!」
「あったりまえよ! この俺の手に掛かれば、キングゴブリンの一匹や二匹、どうって事はねえさ!!」
ピュセルの冒険者ギルドに戻るとヨーゼフのおっさんは、報酬を受け取るために討伐完了の報告を行なった。
キングゴブリンを倒した功績は、本当の事を言えば面倒になると思ったので、ヨーゼフのおっさんに譲る事にした。
幸い、おっさんは気絶して、俺がキングゴブリンと戦っていたところを見ていない。頭を強く打って前後の記憶がやや曖昧になっているようだったので、ヨーゼフのおっさんが朦朧とした意識の中で倒したとすんなりと信じた。
まあ、まさか俺が倒したとは夢にも思わないだろうからな。
おっさんには討伐完了の報酬とは別に、キングゴブリン討伐成功の特別報酬が支給されるらしく、えらく上機嫌だ。
それに引き替えてこっちは……。
バチンッ! バチンッ! バチンッ!
「ついこの間、死にかけたのにリオン君はまったく反省していないのですね!」
マリアの膝の上に乗せられ、ズボンを下ろされたままお尻を何度も何度も叩かれていた。
命の危険すらある冒険者のクエストに勝手に同行した事で、マリアにこっ酷く叱られた俺は、先日の教会の屋根から落ちた一件も相まって彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。
バチンッ!
「いてッ! ……ま、マリア姉ちゃん、もう反省してるから許してよぉ」
流石に勇者の力そのままで叩いてはいないようだけど、何発も叩かれればヒリヒリと痛みが広がってくる。
それよりも周りに冒険者たちが集まっている衆人環視の中で尻をむき出しにされて叩かれている事の方が身に堪える。かつて魔王軍の総参謀長として何万という兵を指揮したこの俺が、子供扱いどころか赤子同然に罰を受けているとは。何という屈辱だ。
だが、そんな痛みよりも、罰よりも……。
「本当に心配したんですよ。今度こそリオン君の身にもしもの事があったらって」
涙を流しながら言うマリア。
勘弁してくれ。尻を叩かれたり、皆に晒し者にされるよりも、マリアに泣かれるのが一番キツい。
前世で、守りきれずに別れた君を、今また俺のせいで泣かせている。その事実が、心を抉る。
「ご、ごめんなさい」
「まあまあ。お説教はそのくらいにして。リオン君もキングゴブリンと対峙して無事に生還できたなんて立派だよ」
受付嬢に話し掛けられたマリアは尻を叩く手を止める。
受付嬢は優しく微笑みながら続けた。
「それに、マリアさん。この子はきっと、ただの子供でいることに満足できないんですよ。ヨーゼフさんのような、強い冒険者になりたいんです。男の子なんですから。その気持ち、少しだけ汲んであげてもいいんじゃないかしら」
その言葉に、マリアはハッとしたように俺の顔を見た。そして一息つくと、手を下げて「……分かりました」と小さな声で呟く。
俺はマリアの膝の上から降りた。
そして下がっていたズボンを急いで上げて、真っ赤に腫れ上がっているであろう尻を隠す。
「さて。リオン君にはこれをプレゼントしますね」
受付嬢は俺に一枚のカードを渡してきた。
「こ、これってもしかして!?」
「冒険者カードよ!」
「ほ、本当に貰っても良いの?」
冒険者登録ができるのはたしか十五歳以上という規則があったはず。まだ十歳の俺が貰う事なんてできるのか?
「良いわよ。と言っても、それは冒険者ランク設定が無い、謂わば見習い冒険者カードだけどね」
なるほど。冒険者ランクが無いって事は、実質的な効力の無い玩具みたいなものか。
……いや、待てよ。たとえ見習いでも、ギルドに登録されたという事実は大きい。これがあれば、ギルドへの出入りも正当化できるし、情報収集も格段にしやすくなる。何より、俺が力を付けるための大義名分になる。今は玩具でも、いずれ本物の武器に変えてみせる。
正直要らないと思ったが、これは貰っておくべきだな。
「リオン君、あくまで“見習い”冒険者なんですからね。もしまた危ない真似をしたら、もっときつーいお仕置きですよ! 分かりましたか!?」
「う、うん。分かったよ、マリア姉ちゃん」
もうこれ以上マリアに怒られるのも泣かれるのも真っ平ごめんだ。
「宜しい! それじゃあ今夜はお父様が大活躍してくれたようですから、何かご馳走でも作って食べましょうか」
「本当に!? やったー!」
見習い冒険者カードなんかよりもこっちの方がよっぽど嬉しいよ。何せ、愛しい人が作ってくれる、温かい手料理なのだから。
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