魔王軍の天才軍師は人間に転生してセカンドライフを送る

ケントゥリオン

プロローグ

 私の名は、ダンタリオン公爵。

 魔王軍四天王の一人にして、魔王陛下を補佐して作戦立案などを執り行う魔王軍総参謀長という大役を拝命している。

 生まれつき身体が弱かった私は、前線で皆と肩を並べて戦うことは叶わなかったが、陛下より「腕っ節が無理なら、そなたの頭脳で余を支えよ」とのありがたいお言葉により、こうして四天王という大層な地位まで取り立てて頂いた。


 我が君ベリアル陛下は、大小様々な魔族領主が群雄割拠する魔界を平定して、魔界帝国という巨大な国家を打ち立てた。そんな素晴らしいお方にお仕えできるのは、光栄の極みというほかない。


 しかし、陛下の凄まじい覇気は、魔界という一つの世界では収まりきらなかった。魔界帝国の建国から、魔王陛下がもう一つの世界である人界への侵攻を計画するまで、それほど時間は掛からなかった。

 今にして思えば、それが魔王軍の凋落の始まりだったのだろう。

 魔王陛下が魔王軍を率いて人界へ侵攻を開始すると、私も総参謀長として陛下と共に人界の土を踏んだ。


 当初こそ魔王軍は破竹の勢いで進撃を続けて人界の国土をおよそ四割は征服する事に成功した。

 だが、戦争が三年目に投入しようかという頃に大きな転機が訪れる。

 人界側に勇者が現れたのだ。

 創世の女神の申し子とも呼ばれたその勇者の力は次元が違った。我が魔王軍が誇る精鋭一千、いや、一万をあっという間に壊滅させて、我が軍の侵攻を尽くはね除けてみせた。

 やがて勇者が仲間と共に“勇者パーティ”と呼ばれる小隊を編制すると、我が軍の侵攻部隊は次々と撤退に追い込まれ、我が軍が築いた要塞は次々と陥落していく。


 このままでは魔王軍が人界から完全に追い払われるのも時間の問題。

 そう考えていた頃、私は遂にその勇者との対面を果たした。

 それは傷付いた前線部隊の撤収の指揮を執っていた時だった。


 勇者と呼ばれるほどの者ならば、きっと大柄な体格に厳つい顔をした、如何にも屈強な戦士という風な人物なのだろうと予想していたものだが、実際に会ってみるとそのイメージは一瞬で粉々に砕け散った。


 腰まで伸びる癖のない、艶やかな金髪。雪のように白く綺麗な肌。強い闘志を感じさせる切り上がった蒼い瞳。

 これほど美しい女性は、魔界はおろか人界中を探し回っても他にはいないだろう。

 そんな彼女は、美しい芸術品のような造形が施された金色の鎧を身につけ、背中には真っ白なマントを纏っている。

 姿だけを見れば、誰もがその美しさに目を奪われて、彼女を本物の勇者とは思わないだろう。せいぜい人界軍が兵士を鼓舞するためにお飾りの勇者を仕立て上げたくらいに思う程度か。

 だが、彼女の身体から迸る魔力量が明らかに魔王陛下に匹敵している。いや、もしかするとそれ以上かもしれない。


「……あなたが勇者ですね? 名前を聞かせてもらえますか?」


「勇者マリア・エルミタージュです。あなたが魔王軍総参謀長ダンタリオンですね」


「ふふ。だとしたら、どうするね、うら若き人界の勇者よ」

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