第56話 ー ショッピング
昼のルーベントは明るい。
露店の旗がぱたぱた揺れ、香辛料と革の匂いが重なる。
今日は二人——エリナとノワールだけの買い出しだ。
「フジタカは鍛冶屋、でしょ?」
「はい。ですので、私たちは装備と消耗品を」
歩幅は違うのに、不思議と足並みはそろう。
エリナが大股で先を行き、ノワールは杖を抱え半歩うしろから、流れに乗るように付いていく。
まず目に入ったのは革と布の店だった。
「手袋を新調したいの。指先が冷えると剣が鈍るから」
エリナが黒革のグローブをはめると、ノワールは縫い目に目を落として小さく首を傾げた。
「ここ、二週間でほつれます。糸を銀糸混に」
「見る目があるねぇ……据え置きで銀糸にしとくよ」
店主の掌が観念したように動き、エリナは親指を立てた。
「ノワール、頼りになる!」
「観察です。お金は魔力よりすぐ尽きますから」
二人は同時に笑い、店を出る。
通りの喧騒を抜けて魔道具店へ。
棚には符や触媒珠が整然と並ぶ。
ノワールは土属性の符を二種選び、指先から微弱な魔力を流した。
符がうっすら土色に灯って、すぐ消える。
「土属性魔法少し強化ですか……込められてる魔力量を見るに1ヶ月くらいは使えますね。」
感心した店主が目を細める。
「これは良いですね。」
エリナはカウンター脇で小さな護符を一枚見つけ、ぱっと買い足す。
「ノワール用ね。『転倒時の衝撃ちょい軽減』って書いてるの。」
「“ちょい”……ですかぁ。」
路地の風が甘い匂いを運んでくる。
焼き果実パイの屋台に並び、ひとつを半分こ。
「ふーふー、熱っ」
「エリナ、紙をもう一枚……はい」
熱が落ち着くと、言葉も柔らかくなった。
「ノワール、最近詠唱、短くなったね」
「練習しました。——正直を言うと、足を引っ張るのが怖かったからです」
「……私もだよ。強く見せたいのに、時々、置いていかれそうで」
目が合って、二人はばつが悪そうに、でも楽しそうに笑う。
「じゃ、置いていかれないように手を貸し合お」
「はい。次はもっと戦いやすいようにサポートします。」
気分が軽くなったところで、アクセサリーの露店に足が止まる。
色石が陽を受けてきらきら。
エリナは迷わず一つを取った。
銀地に細い彫り、中央に小さな黒曜石。
紫の髪に映える髪留めだ。
「ノワールに。いつも助けられてるから」
「え、でも。」
「受け取って!!」
「……はい。嬉しいです」
ノワールは頬を赤くして小走りに道具屋へ向かった。
タッタッタと走る音。
そして、すぐに布包みを持って戻ってきた。
「インナー手袋。柄が濡れない素材です」
「わ、内側ふかふか!」
「“ふかふか”は仕様です」
その場でノワールは髪をまとめ、エリナは手袋をはめる。
髪はすっきり収まり、指先に温かさが広がった。
ついでに雑貨店で地図と油壺、手のひらサイズの裁縫箱を買い足す。
「この箱、共同装備にしよ。抜けた縫いを自分で直す用」
「賛成です。ついでに私、簡単な縫い方を覚えます」
「じゃあ今度、帽子のリボンも付け替えたいの。色は何が良いかな?
「……濃い紫か、墨色。悩みます」
「悩むねー!!」
会計を終えて外に出ると、冬の光が石畳を白く撫でていた。
市場の声は遠のき、靴音だけが揃って響く。
エリナは新しい手袋をぎゅっと握り、ノワールは銀の髪留めにそっと触れる。
荷物は少し、心はずっと軽く、そして繋がりは強くなった。
先に見える曲がり角の光の方へ、二人は同じ速さで歩いていった。
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