第20話「救出作戦、開始」
俺が敵の内部で着々と準備を進めている頃、ダリウスとセドリックもまた行動を開始していた。
セドリックの騎士団が持つ広域情報網と、ダリウスが放った使い魔たちがもたらした情報を統合した結果、ついに敵の本拠地である国境近くの「黒鷲城」を特定したのだ。
作戦会議室にはダリウスとセドリック、そして騎士団の幹部たちが集まっていた。
「城の警備は見たところ五百名ほど。だが内部には魔術師や特殊部隊がいる可能性が高い」
セドリックが城の見取り図を指しながら説明する。
「正面からの突入は被害が大きすぎる。奇襲をかけるしかない」
そこでダリウスが口を開いた。
「俺が正面から陽動をかける」
「なんだと!? 無茶だ!」
セドリックが反対するがダリウスは首を横に振った。
「いや、これが最善だ。奴らの注意を俺一人に引きつける。その隙に、お前たちが別ルートから潜入し、クリストフを救出しろ」
ダリウスの圧倒的な破壊力があれば陽動どころか、敵の主力を一人で壊滅させることも可能だろう。
それは最も効率的で確実な作戦だった。
「……分かった。だが死ぬなよ、魔竜公」
「お前こそ」
二人の間にもはや対立はなく、互いの力を認め合う戦友としての信頼が生まれていた。
そして作戦は決行された。
月明かりもない漆黒の夜。
黒鷲城の城門の前に、ダリウスはただ一人、静かに降り立った。
「――クリストフを、返してもらいに来た」
その一言を合図に彼の体から凄まじい魔力が放たれる。
城壁がまるで砂糖菓子のように崩れ落ち、警報が鳴り響く。
城内の兵士たちが慌ててダリウスの元へと殺到した。
まさに一人対軍隊。
だがダリウスは少しも怯むことなく、次々と現れる敵を黒い雷と炎で薙ぎ払っていく。
敵の戦力が完全にダリウスに引きつけられている、その隙に。
セドリック率いる精鋭騎士団は、城の裏手にある秘密の通路から音もなく城内へと潜入していた。
「行くぞ! 宰相閣下をお救いするんだ!」
セドリックの号令のもと、騎士たちは内部の残存兵力を的確に制圧していく。
そしてセドリックは、俺が囚われているはずの塔の最上階へと駆け上がった。
牢屋の扉を聖剣で切り裂くと、中には予想とは違い、悠然と椅子に座って本を読んでいる俺がいた。
「……思ったより早かったな、アークライト団長」
俺がにやりと笑うとセドリックは呆気にとられたような顔をした後、安堵のため息をついた。
「ご無事で何よりです、閣下」
「ああ。君たちを信じていたからな。さて、感傷に浸っている暇はないぞ。黒幕を叩き、この城を完全に制圧する」
俺は捕虜の兵士から聞き出した情報をセドリックに伝え、城の中枢である玉座の間へと二人で向かう。
俺の内部情報とセドリックの騎士団の突破力。
そして外ではダリウスが敵の主力を引きつけている。
三つの力が合わさり、敵の牙城は内と外から確実に崩壊を始めていた。
再会を果たした俺とセドリックは、この戦いに終止符を打つべく、共に戦場を駆けるのだった。
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