第2話 灰の上の地図

魔王の影が世界を覆う中、スカヴェンジャーの連合は荒野を進む。

ガランは馬車の舵を取りながら地平線を見つめていた。

リナは膝に座り、貝殻の小箱を開けて中身を数えていた。

「お父さん、今日の獲物はどんな魔物かな?種子がいっぱい取れるやつがいいな」

リナの無垢な声に、ガランは優しく笑う。

「平和が近づけば、こんな生活も終わるさ」

村人たちは皆、勇者の勝利を信じていた。

金色の髪の若者が聖剣を振るうたび、世界は一歩前進するように思えたのだ。

その日、連合は魔王の幹部が籠もる要塞の近くに陣を張った。

勇者は軍勢を率いて城を包囲したが、幹部からの降伏申し出が届いた時、彼は剣を収めた。

門を開かせ、無血開城を成し遂げ、命を救った。

ニュースは瞬く間に村に広がる。

リナは飛び跳ねて喜んだ。

「勇者様、すごい!これで魔王も怖くない!」

ガランは呟いた。

「これで一歩、定住の夢に近づいたな。みんなの努力が報われる」

村人たちは焚き火を囲み、祝杯を上げた。

勇者は村に戻り、疲れた笑顔で言った。

「みんな、ありがとう。戦わずに済んでよかった」

リナは勇者の手に触れる。

「一緒に住む村、楽しみ!」

あの夜の空気は、希望に満ちていた。

しかし、喜びは長く続かなかった。

数日後、暗雲が村を覆った。

国は勇者の行為を裏切りとみなした。

愚行、それが彼の罪状であった。

討伐命令が下され、影のように魔剣士が現れた。

彼女は一見優しい顔つきで、銀髪を揺らし、穏やかな微笑みを浮かべていた。

まるで旅の癒し手のように近づいてくる。

「勇者様、お迎えに参りました」声は柔らかかったが、その目は冷たく輝いていた。

勇者は警戒し、聖剣を構えた。

「誰だ、お前は?」

魔剣士の動きは素早い。

呪いの魔剣「ソウルイーター」の刃が閃き、勇者の体を行動不能に陥れた。

膝をつき、苦悶に喘ぐ勇者を、彼女は優しい手つきで押さえ込む。

「ご安心を。あなたは生きて、裁きを受けます」

リナは恐怖で凍りつき、貝殻の小箱を胸に抱いた。

「お父さん、怖い……」

ガランは娘を背に庇い、魔獣の骨の槍を構えた。

「近づくな!」

魔剣士は村を焼いた。

剣から放たれた黒い炎が馬車を包み、荷台を焦がした。

村人たちは抵抗したが、炎は資源を貪り尽くす。

魔獣肉の干物は灰になり、魔法の種子は黒く腐り、石材は砕け散った。

未来の設計図が記された破れた地図の断片は、炎に飲み込まれた。

リナの小箱はかろうじて守られたが、周囲のすべてがめちゃくちゃになった。

「なぜ……夢が……」リナの涙声が響く。

ガランは娘を抱きしめた。

燃える村から逃げようとしたが、魔剣士の炎が道を塞ぐ。

勇者は這いずりながら叫んだ。

「やめろ……俺のせいだ、村を……」魔剣士は微笑んだまま、すべてを焼き払った。

「これは命令です。夢など、戦乱の世に不要なもの」

村の残骸は黒煙を上げ、希望は灰となった。

リナとガランは、崩れゆく勇者を支え、生き残った数人とともに、絶望の淵に立たされた。

この裏切りが、すべてを変えたのだ。

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