第13話 私と女神でスローライフを立ち上げる

「なんだか疲れたぞ。しばらくスローライフでPVを集めよう」と女神。

「テンポが遅いから、後悔するぞ」と私。


 二人はエーレンバッハ城を離れると、人の居ない僻地を目指した。


「見渡す限りの大森林だ」と私。

「この辺りなら、魔族の支配地が近いので人家は無いな」と女神。


「まず水を探そう。生活するにも、耕作するにも水が必要だ」と私。

「ラノベの基本じゃの」


 私は枯れ枝を2本取り上げて、小枝を折ってL字形に整形した。その2本のL字棒の一端を手で持って歩き始めた。


「何をしておるんじゃ」と女神。

「ダウジング・ロッドで水脈を探してるんだ」と私。


 女神は大きく溜息をついた。

「なんと非科学的な。水脈を探すならこれじゃ」

 胸の前で両手を合わせて念じ始めると、その中心に輝く水色の球体が現れた。


「水の精霊ウンディーネよ、水脈をさがせ」と女神が叫ぶと、球体が妖精の形となって空に舞い上がって、森の奥を指さした。


「ほれ、あそこに水脈があるぞ」と女神。

「どこが『科学的』なんだよ」と私は言った。


「かの有名なファンタジー作家のアーサーは、『高度に発達した魔法技術は、科学と見分けがつかない』と言っておったぞ」と女神はしれっと言う。


 二人はウンディーネに導かれ、森の奥の泉に辿り着いた。

 

「おお、この水はうまいぞ」と女神は感動する。

「確かに、湧き水で水の純度は高いな」と私。


「ここに住居を構えよう」

「お主の俺TUEEEで、材木を作れるだろう」

「なるほど」


 私は、神から授かったサバイバルキットから2本の白いロープを取り出した。

 私は、森の大木に近づくと2本のロープを、水平方向に勢い良く振り回した。


「白糸バラシ!」と私は叫ぶ。


 2本のロープは生き物のように波打ち、大木に切り込んだ。大木の幹の繊維を切り裂いて、見る見る細かく刻んでいった。刻まれた幹は角材と板に整形されて、山と積まれていった。


「白糸バラシとは、超古典的な技じゃの」と女神。

「白糸バラシは、北斗神拳の源流にあたる、由緒正しい技だ」と私は解説する。


 後は、私と女神の怪力で角材と板を組み上げて、あっと言う間に小屋ができた。


「窓ガラスは? 魔法で出せないのか?」と私は女神に催促する。

「ちょっと待て」と女神。


 女神は地面の土に手をあてて呪文を唱え始めた。

「土の精霊ノームよ、土の中の石英からガラスを錬成せよ!」


 土の中から、ガラスの板が飛び出して来て、木材の山の横に積みあがった。

「土を錬成しないと、ガラスができないのか」と私。

「魔法といえども無から有は生み出せん。『等価交換』じゃ」


「便利だな。その調子で、鍋とかも作ってくれ」と私。

「それは無理じゃ。土の中に石英が有るからガラスが作れる。だが土の中に鉄分は殆ど無いので錬成できん」と女神が説明する。


「ケイ素から鉄に元素変換はできないのか?」と私。

「大量の魔力を与えれば出来ん事はないが、副産物に大量の放射線と放射性同位体がでる。わしは構わんが、お主が困るじゃろう」と女神。

「それは困る」と私は震え上がった。


 サバイバルキットの中を探すと、鍋・釜は無かったが、飯盒とナイフ、フォーク、スプーンのカトラリーが有ったので、当面はそれで生活する事にした。


 木材で作ったベッドに草を敷いて、サバイバルキットの衣装袋から大き目の布を引き出してシーツにした。これで私と女神の「大森林の小さな家」が完成した。


 次に必要な物は食料である。

「わしはAI女神なので食料は無くても大丈夫じゃ。重水素が少々あれば十分」

 

 私は再びサバイバルキットの中を探ると、「カンパン」が見つかった。非常食に相応しい。私は泉で汲んだ水にカンパンを浸して齧った。


 これがスローライフの1日目であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る