第11話 どうして加奈が!
家の玄関の鍵を開けて、加奈が嬉しそうに振り返る。
「狭い家ですが、入ってください」
「ご招待してくれてありがとう」
「どうぞ、どうぞ」
「……俺は家を教えるつもりもなかったのに……」
「お兄ちゃん、何か言ったかな?」
「……いえ……」
ぶつぶつと小声で文句をいう俺を、加奈がジロリと睨む。
その態度の変化、ちょっと怖いって。
加奈はさっさと靴を脱ぎ、廊下を歩いてリビングの扉を開けた。
「結奈さん、この部屋で休んでいてくださいね。私、着替えてきますから」
「わかったー、あれ、九条はどこへ行くの?」
「俺も着替えたいんだが」
「それなら私も一緒にいく。九条の私室ってどんな雰囲気なんだろ」
「待て待て、俺はこれから服を脱いで着替えるんだ。つまり裸になるの。だからリビングで大人しくしててくれ」
「はーい」
裸という言葉を聞いて、朝霧は躊躇したようで、素直にリビングへと入っていった。
階段を上がっていくと、俺の部屋の前に加奈が立っていた。
「お兄ちゃんと結奈さんの関係って、ホントにただのクラスメイトなの。あの噂が実はホントってことないよね?」
「俺と朝霧が付き合っている噂か、そんな事実はない」
「だよね。冴えないお兄ちゃんが、結奈さんみたいな美少女を彼女にできるはずないもんね」
本人を目の前にしていうなよ。
すると加奈は一歩近づいて、胸の前で両拳を握って、俺を見る。
「お兄ちゃんが彼女を作れるかどうかの、一度しかないチャンスよ! 私も協力するから、お兄ちゃんも頑張ってね」
「加奈、なにか勘違いしていない? 朝霧とは何にもないぞ」
「お兄ちゃんに興味を持ってくれる女子なんて、早々いないもん。二人が付き合っちゃえば、噂も真実になるんだし、そんな些細なことはどうでもいいの」
加奈が朝霧みたいなことを言い出した。
女子って、皆がこんな考え方なのか?
どうやら、妹は計画的に朝霧を家に連れてきたようだ。
高校生になってからも、全く彼女のできない俺のことを心配していたなんて……ちょっと凹む。
このままだと、メンタルに大ダメージが入りそうなので、俺は私室に逃げ込むことに決めた。
「俺、着替えるわ」
「そうね。朝霧さんを待たせるのも悪いもんね」
加奈はそう言い、自分の私室へと消えていった。
俺の自分の部屋へ入り、鞄を机の上に放り投げた。
そして、ベッドの上に倒れ込み、仰向けなって天井を眺める。
「疲れた……」
公園で遠藤先輩と話し合いをし……それから朝霧と二人でマックで食事。
普段の俺の生活にはなかったことだ。
朝霧に絡まれるようになってから、突拍子もないことが起こり過ぎる。
噂については俊司と慎のイタズラが原因だけど。
天井をボーっと見ていると、頭の中に朝霧の顔が浮かんでくる。
彼女の明るい笑顔は、茶色の髪とよく似合っている。
ころころと表情もよく変わり、朝霧が人気なのもわかる気がする。
スタイルもいいし、胸も大きくて……手もスベスベで柔らかくて……
そこまで考え、俺はハッと気づく。
どうして朝霧のことを考えているんだ。
ちょっと親しくなっただけで、誤解するのは違うだろ。
朝霧は、俺をからかっているだけなんだから……
「はぁ……」
俺は顔の上に腕を乗せ、大きく息を吐いて、目をつむる。
すると睡魔が訪れ、意識を失った。
「へえー、九条の部屋って、こんな感じなんだ」
女子の小さな声が微かに聞えてくる。
少し意識が浮上してきたが、まだ俺はそのまま眠っていた。
するともう一人の女子の声が聞えてきた。
「お兄ちゃん、寝つきいいんですよ。寝ちゃうとなかなか起きなくて」
「そうなんだ……加奈ちゃん、九条が起きてこないうちに、この部屋の探索しようよ」
「うーん、お兄ちゃんには興味ないですけど、お兄ちゃんのコレクションが入ってる段ボールの場所なら知ってますよ。その小さなクローゼット、天板が外れるんです。その上に以前は置いてましたから」
コレクション……段ボール……クローゼット……天板……
その単語を聞いた途端、俺の意識は一気に覚醒した。
ベッドから跳ね起きると、加奈と朝霧がクローゼットの扉を開けていた。
「おい、俺の部屋で何をしてるんだ!」
「結奈さんが、お兄ちゃんのコレクションを見たいっていうから……」
「どうして加奈が、隠し場所を知ってるんだよ」
「だって、お兄ちゃんの部屋の掃除をしているのは私だよ」
そうだけど……だからといってクローゼットの天板まで外すなんて……
口を開けたまま呆然としていると、加奈が朝霧の耳元に口を寄せる。
「お兄ちゃん、胸が大きくてスタイル抜群の、ちょっとヤンチャなギャルが好きなんです」
「それなら私、九条の好みにピッタリじゃん。やっぱり私達って相性がいいのね」
「それで……お兄ちゃんのコレクションには下着のないギャルも」
「朝霧にチクるのはもう止めてー!」
俺がガックリと項垂れると、加奈や朝霧の背中を教えて部屋を出ていく。
「結奈さんと二人で夕食を作るから、お兄ちゃんは部屋で待ってて」
「九条の為に、美味しい料理を作るから期待していてねー」
部屋の扉が閉まり、廊下から女子二人の明るい声が聞えてくる。
それを聞きつつ、俺は再びベットに仰向けに寝転んだ。
「女子って元気だよなー……疲れた……」
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