隣の茶髪ギャルが気になる件について!!
潮ノ海月
第1話 居残り!
季節は立夏を過ぎ、中間考査の結果発表があった当日。
俺こと、九条宗太(くじょうそうた)は教室に居残ってせっせとプリントに取り組んでいた。
時間は瞬く間に過ぎ、窓の外から夕日が教室内を赤く照らしている。
クソっ、中間のテストの結果はギリギリ欠点を越えていたじゃないか。
それなのに居残りで、復習しろって厳し過ぎるだろ。
午後のHRが終わった時のことを思い出す。
クラスの担任教諭である久保田鈴音(通称、鈴ちゃん)が席から立ちあがった俺を呼び止めたのだ。
「九条君、待って。あなたも教室に残って勉強して帰りなさい」
「欠点は取ってないだろ」
「うんうん、どの教科も確かにセーフね。でも数点だけ上回っただけでしょ」
「問題ないからいいじゃないか」
「先生としては問題があるんです。だから居残りを命じます」
「横暴だ! ハラスメントだ! 教育委員会に訴えてやる!」
「何とでもいいなさい。劣等生に勉強を促したといえば、私の正当性は保たれます。文句を言わないで勉強して帰りなさい」
先生といえばクラスのボス、権力者には逆らえない……これは俺に定められた運命なのか。
「宗太、残念だったな! 俺達はこれからカラオケだ!」
「私達はスタバに寄って帰ろか?」
「いいわねー。私はちょっとショッピングに行きたいかも」
呆然と立っている俺を残して、クラスの皆は次々に教室を去っていった。
ぐぬぬぬ……勝者は敗者を常に見下す……今だけはその甘美に酔いしれていろ……次はお前達も俺の仲間入りだ。
こうして俺は教室に残り、プリントを解くことになったんだが、全く終わらない。
プリント十枚は、多すぎるだろ。
現実逃避したくて顔を横に向けると、隣に座っていた女子と目が合った。
「ねえねえ、プリントできた? 早く終わってくれないと書き写せないんだけど」
「自分でやろうって気持ちはないのか?」
「あるわけないでしょ。答えがわからないんだから」
ダメだこいつ……全く勉強をする気もないらしい。
「自分で解けって。そうしないと次のテストでも欠点になるぞ」
「未来のことは未来に任せようって思うのよね。今を大事にしたいでしょ」
「それなら現実を見ろ。目の前のプリントを見ろ」
「ヤダー! 書き写させてよー!」
「ダメだ!」
何という我儘、これがJKギャルと呼ばれる生き物なのか。
俺の隣で傍若無人に振舞っている彼女の名は朝霧結奈(あさぎりゆいな)。
彼女については男子と付き合った人数が二桁を越えているとか、告白した男子が数え切れないほどいるとか、複数の男子と仲良くしているとか、常に噂が絶えない。
その情報については、女子達の嫉妬からの風評も含まれると思うが、可憐な笑顔で男子の心を手玉に取ることで、校内では有名な美少女ギャルにして、究極のモテ系トラブルメーカーなのだ。
最近ではパパ活をしているという酷い噂もあったな。
彼女は肩より少し長い茶髪を揺らし、体を横に向け、ジーっと俺を見ている。
シャツのボタンを2つ外し、その隙間から、ブラの肩ひもがチラリと見え、豊満で形の良い胸が見えそうで見えない。
校則で決まっているスカートの丈よりも短いスカートをヒラヒラさせて、綺麗な脚を斜めに組んでいた。
チラリとだけ、彼女を見て、俺は即座に視線を逸らせた。
男子のチラリズムを刺激するな。
そんな可愛い恰好をしているからと言って俺は誘惑には負けないぞ……負けてもいいんじゃないか……あれ? 俺は何と戦っているんだろ?
黙々とプリントに解答を書き込んでいる俺の隣で、朝霧はスマホを弄って遊んでいる。
ゲームでもしているのだろうか?
横目で見てみると、時々、長い脚をドタバタと動かしてフニャリと嬉しそうに笑っている。
何かの動画を見ているようだ。
その彼女の様子がとても可愛い。
激しく綺麗な脚を動かすので、胸も大きく揺れ……
いかん、いかん、心を奪られるな。
ダークサイドに堕ちれば、俺も傀儡にされてしまうぞ。
そんなことを考えているから、全くプリントが進まないじゃないか。
必死に頭の中の煩悩を振り払い、プリントに集中していると、横から腕が伸び、サッと用紙を取られた。
「へえー、プリントの問い、全部埋まってる。九条って、やればできるんだね」
「褒めても、答えを書き写させないからな」
「えーちょっとぐらい甘えてもいいじゃん」
「自分でやらないと居残った意味がなくなるだろ」
プリントを取り返そうと腕を伸ばすと、朝霧はプリントを床に落とし、両手で俺の手を握る。
「九条、お願い。今日だけいいでしょ」
「……答えが同じだと、鈴ちゃんに怒られるって」
俺の手に彼女の手の温もりが伝わってくる。
……柔らかくて、暖かくて……防御力が……
俺が黙っていると、朝霧は何を思ったのか、俺の手首を胸の上に置いた。
そして潤ませた瞳で見つめてくる。
「お願い」
脳に直接、甘い囁きが響き、腕からは彼女の胸の感触が。
その攻撃に、女子との触れ合いの少ない俺が、ダークサイドに堕ちるまで数分とかからなかったのは、言うまでもない。
「……好きにしろ……」
俺の言葉を聞いて、嬉しそうに微笑み、朝霧が顔を近づけてきた。
そして俺の耳元で小さく呟く。
「九条ってちょろい。面白いからまた遊ぼうね」
クソっ……純情男子の心を弄ぶな。
でも、こんな居残りなら、帰宅が遅くなってもいいかもな。
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