第14話 新人、参上!
アルベリオンの魔法師が杖を振ると、赤黒く光る大きな魔力の塊はゆっくりとレオンハルトたちへ近づいてきた。
障壁が崩れる。
そう感じた瞬間、騎士団が張っていた障壁を桃色の光が覆っていく。
レオンハルト達に向かって放たれた巨大魔法は、温かな桃色の光にぶつかったあと、まるで光に吸い込まれるように消滅した。
「なんだ、この光は……」
レオンハルトが驚く暇もなく、轟音とともに天を裂く雷光が放たれ、魔法師達を守っていたバリアが砕け散った。
雷鳴が轟くたび、魔法師達の杖は次々と矢のような雷に撃ち抜かれていく。
雷はただ落ちているわけではない。
こちらの布陣には一切被害がなかった。
レオンハルトは何が起きているかわからず、ただ目を見開いて眺めるしかできなかった。
「誰だ!誰がこんなことをしている!!」
敵の魔法師が叫ぶ。
その瞬間、雨雲の下に小柄な人影が現れた。
「えっ、誰って?……名前?名前を言った方がいいのかな。
うーん……まぁいいや、エーデルシュタイン王国第一魔法師団、期待の新人です!!」
元気に声を上げたその新人魔法師団員は、レオンハルトの方を向くとぶんぶんと大きく手を振った。
「皆さん、生きてますかー!?」
「ちょっとネーネ!あいつら逃がすなよ!」
続いて現れた少年、魔法師のテオドールが右手を敵に向けて指を鳴らすと、地面が隆起して壁が出来上がり、敵の退路を断った。
「……援軍だ」
レオンハルトは膝から力が抜けるのを感じた。
「殿下、敵が撤退していくようですよ」
グスタフに促されて敵を見ると、魔法師達が残った魔力で自らを囲む土壁を破壊して、撤退しようとしている。
「殿下、あいつら、殲滅してきますか?それとも誰か捕虜を連れてきますか?」
いつの間にか近づいてきていた血気盛んな魔法師、テオドールがレオンハルトに尋ねた。
「……いや、このままにしておこう」
レオンハルトは敵をまっすぐに見つめながら答えた。
「でも、あいつらっ――」
「帰ったら、王室を通して正式にアルベリオンに抗議を行う。それでいい」
「ちぇーっ、わかりましたー」
テオドールは頭の後ろで手を組み、口をとがらせた。
レオンハルトは天を仰ぐと、先ほどまで覆っていた雲は晴れ、空には虹がかかっている。
日の光を反射しているためか異様にキラキラと輝いているネーネを見つめていると、その栗色の丸い瞳と目が合った。
「どう!なかなかやるでしょ!」
ニカっと笑いかけるネーネを見つめ返し、レオンハルトも頬が緩んだ。
そして、短く息を吐いたその時――
「ライナー!!!」
ディートリッヒの叫びが聞こえ、レオンハルトはとっさに振り向いた。
レオンハルトは、血を失いぐったりとした部下に駆け寄り、呼びかける。
「ライナー!意識はあるか!?大丈夫だ、敵は撤退した。今すぐ神官隊に――」
「神官隊のところまで間に合うの?」
ネーネはゆっくりと地面に降り立つと、焦るレオンハルトに問いかけた。
そして、袖をめくって気合を入れると、そっとライナーの胸に手を当てた。
その瞬間、掌からまばゆい桃色の光が放たれ、優しく身体を包み込む。
光が傷がふさぎ、血を失って弱った体が徐々に癒されていく。
「聖女様だけじゃなくて、もう1人の方も神聖力持ちだったんだ……」
見守る騎士たちから、安堵のため息が漏れる。
「……よし、血は止まったよ」
「あ、ありがとうございます」
力なくお礼を言うと、ライナーは自分の失った左脚があったはずの空間をしばらく見つめた。
そして、レオンハルトに顔を向け、力なく笑った。
「レオン団長……足手まといで申し訳ありません。この通り、もう、歩けそうにはないので……王都にまでは一緒に連れて行ってくださいませんか?
そうしたら、あとはもうご迷惑はおかけしないとお約束します」
レオンハルトは、まだ少年のライナーを抱き寄せた。
視界がにじみ、目の奥がツンと痛む。
「ライナー……もちろん、一緒に帰ろう。足手まといだなんて言うな。みんなのために、この国のために戦ってくれたんだ……私こそ、何もできずに申し訳ない」
抱き合う2人を見ながら、ネーネは唇をグッと固く結んだ。
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