015 : スパイ”姥桜”の活動記録 ――怪しい工場に潜入せよ!

【今回のお題】

 逆立ちする冷蔵庫/うっかり押された非常ボタン/祖母のスパイ活動


【完成した作品の味わい】

 ご町内スパイアクション



   ★   ★   ★



 鎌田敦代、六十八歳。

 町内の清掃活動に精を出し、孫にから揚げをふるまう、どこにでもいるおばあちゃん。

 ――ただし、コードネームは”姥桜”。現役のスパイである。


 今回の任務は、とある家電メーカーへの潜入調査。

 海外への不正送金の疑いがあり、最近この町の近くにできた工場が怪しいという。

 敦代は町内会のレクリエーションとして工場見学ツアーを提案。仲の良いご老人たちはそれに賛同した。



 レクリエーション当日。

 マイクロバスに乗って工場へ向かった町内会のご老人一同。

 敦代はチノパンにニットカーディガン、白いスニーカーといった軽装だが、肩掛けポーチの中にはスパイ道具を忍ばせてある。


 工場に到着して見学の受付を済ませると、敦代は「ちょっとトイレに」といって集団を抜け出した。

 工場内を探索する敦代。

 製品の倉庫や資材置き場を抜け、冷蔵庫の生産ラインに差し掛かったところで、不自然な光景を目にした。

 組み立て途中の冷蔵庫のモーター部分がきらり、と光ったのだ。


「あれは……?」


 見ると、モーター部分に金塊が取り付けられている。

 この部分は筐体の中に隠れてしまう。

 それに、冷蔵庫は重くて当然。金塊程度の重さならば誤魔化せるだろう。


「なるほどね」


 敦代は老眼鏡型カメラで証拠を撮影し、ポーチにしまった。

 その瞬間、背後から声がした。


「そこのお前、何をしている!」


 工場の職員に見つかってしまった。

 敦代は走る。六十八歳になった今でも、マスターズ陸上大会で活躍できるほどの脚力を持っている。


 冷蔵庫の生産ラインを駆け抜け、追っ手をかわす。ポーチからのど飴をばらまくと、床はつるつるに。追っ手は見事に足を滑らせて転倒。さらに走る。職員のタックルをひらりとかわし、冷蔵庫の隙間へと飛び込んだ。

 と、その時、うっかり非常停止ボタンに手が当たった。


「しまった」


 ラインが急停止し、その反動で冷蔵庫が大きく揺れた。

 ドミノ倒しのように次々と倒れる冷蔵庫。そして最後のものがラインから転落。

 それは逆立ち状態で着地し、背面パネルが跳ね飛んだ。

 すると、――中の金塊がむき出しになった!


 ちょうどそこを通りかかった、町内会のご老人たち。

 警察OBの畑中さんがそれを発見した。


「なんだこれは!」


 即座に警察に通報が行き、工場は摘発され、事件は解決した。



「敦代さん、勝手にうろうろしちゃ困るよ」


 町内会長に叱られながら、敦代はにこりと笑った。

 スパイであることは、誰にも知られていない。


 今日も町内の平和のため、姥桜は静かに活動を続ける。




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来週からは週三回(月、水、金)とさせて頂きます。


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