太陽のブレイバーズ
かずくん
太陽の旅立ち編
第1話 その名はサン
かつて――
伝説の勇者が世界を救った。
その物語は語り継がれ、やがて人々は知った。
勇者とは、遠い昔の英雄ではない。なろうと思えば、誰でも目指せる存在なのだと。
だからこの時代、人々は皆どこかで夢を見る。
自分もいつか、勇者になれるのではないか――と。
***
雲ひとつない青空の下、紅葉に染まる森は静かだった。
落ち葉を踏みしめ、小動物たちが身を潜める。その視線の先に、異様な影がある。
漆黒の体毛を持つ巨大な熊――モンスター、シッコクグマ。
そして、その目の前に。
「あいつ、美味そう……!」
少年は、恐怖ではなく期待に輝く瞳でそれを見つめていた。
「よし。今晩のご飯は、決まりだな!」
草むらから飛び出し、12歳の少年――サンは堂々と姿を現す。
オレンジ色の髪に、生命力あふれる緑の瞳。赤いシャツに白い短パン。
額には、使い込まれて色あせた赤いハチマキが巻かれていた。
普通の獣ではないと理解した瞬間、シッコクグマは咆哮を上げる。
口から垂れる涎。地を揺らし、間髪入れずに飛びかかってきた。
「おっと……そんなに腹減ってたのか?」
「グルルルルッ!」
「オイラも同じだ!」
サンは笑いながら、地面を強く踏みしめる。
向かい合う二つの影。シッコクグマが両腕を振り上げ、必殺の一撃を振り下ろした。
――直撃すれば、ひとたまりもない。
だがサンは、逃げなかった。
左拳を握りしめ、真正面から一歩踏み込む。
「今晩は――食わせろおおおお!!」
放たれた正拳突き。
重低音が森に響き渡り、シッコクグマの巨体が宙を舞った。
土煙。
沈黙。
両手両足を投げ出したまま、シッコクグマは動かなくなる。サンは駆け寄り、無事を確認すると両手を突き上げた。
「やったー! 今夜は豪華料理だ!」
高く跳び上がる。
今日は違う。養父の手伝いではない。自分一人の力で、初めて成し遂げた狩りだった。
――どうして、そこまでして倒したのか。
サンは赤ん坊の頃、岩山に捨てられていた。
拾い上げ、育ててくれたのは、穏やかで優しい養父。怒る姿を一度も見せず、それでいて村一番の強さを誇る人だった。
その背中に、少しでも近づきたかった。
「よーし……じーちゃん、驚くだろうな」
シッコクグマを背負い、家の方角を見る。
すると、遠くから手を振る見慣れた姿があった。
「サンー! 何してるのー?」
幼馴染のレーナだ。
肩まである紫色の髪が風に揺れ、白とピンクの服が森に映える。
「レーナ! 見てくれよ、これ!」
背中を向けると、レーナは目を丸くした。
「えっ……サン! それって……!?」
「オイラが倒したんだ! 明日、じーちゃんの誕生日だからさ。晩ご飯にしようと思ってたんだ! 頑張っただろ?」
「すごい……! サン、強くなったんだね」
「へへっ、ありがとな! それでさ、レーナはどうしてここに?」
「うちのおじいちゃんが、今日はシャンウィン様の家に泊まってきなさいって言ってくれてね。明日の誕生日会、手伝うために!」
その言葉に、サンの顔がぱっと明るくなる。
「レーナもじーちゃんの誕生日会、手伝ってくれるんだな! じゃあさ、このモンスターで料理してくれよ! オイラ、レーナの手料理が大好きなんだ!」
「任せて! 二人のために、特製スペシャル料理作っちゃうんだから!」
胸を弾ませ、サンは歩き出す。
「やったぁ! よーし、それならさっそく行くぞ! レーナ、早くおいでよ!」
「ちょっと、待ってよー! ふふ、しょうがないなぁ」
背後で聞こえる笑い声。
サンは振り返らなかった。
――この日常が、ずっと続くと信じていたから。
だが、この日の出来事を境に少年は知ることになる。
「た、大変だ! 大変だああああ!」
家へ帰ろうとした時。
遠くから男性の叫び声が響き渡る。
平和は、突然終わる。
そしてサンは、自分の「夢」と向き合う決意をするのだった。
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