魔法少女に憧れて、夜空に輝く魔法の光、助けを求めるみんなのために! 魔砲少女カリン! 爆! 誕!

キングおでん

第1話

「えぇ~それでは、ただいまより探索校ダンジョンに入ります。わかっているとは思いますが、くれぐれも勝手な行動はとらないように。学校備え付けのダンジョンとはいえ、中にいるのはれっきとしたモンスターです。勝手な行動が命取りになりかねませんのでくれぐれも注意してください」


 教壇の上から、いつも仏頂面の大沼先生が、ひときわ大きな声で注意を飛ばす。はいはい、言われなくても心得てます~! って心の中でガッツポーズを決める私。……ていうか、私だけじゃなくて、クラス全体の空気がソワソワしすぎて先生の言葉なんて右から左って感じだ。


 だってさ、今日だよ? この一年間、黒板の前でダンジョンの仕組みとか法律とか、紙とペンだけで覚えさせられて、「実際に潜るのは二年から」って、どれだけ焦らされたことか。ようやく本物のダンジョンに、やっと、やーっと! 入れるんだよ!? それに、“今日は全員、必ずスキルが手に入る日”なんだもん。


 私の名前は火花カリン、探索校二年のムードメーカー担当! この天宮探索高等学院で、“伝説の魔法少女”みたいに、キラッキラの活躍をするのが夢。そのためには、まず……そう、スキル発現がぜったいの第一歩!


 この世界――いや、私たちの日本は、もう普通の日本じゃない。十数年前、“ダンジョン”が世界中で突如出現した。最初はニュースの冗談かと思ったけど、気づけば駅の地下や山の奥、廃校の体育館とか、スーパーの跡地まで、どこにでも「扉」が開いた。

「異空間」としか言いようのない、ねじれた階層とモンスター、そして――“魔素”と呼ばれる新しいエネルギーが、ダンジョンの中には渦巻いている。


 魔素。聞いただけでワクワクする言葉! だってそれが、人類の文明を大きく変えたんだよ? 魔素があれば、魔法みたいな家電も作れるし、医療も一気に進化した。最近だと、魔素フードの新作CMがよく流れてるし、魔素通信とか、もうスマホも一昔前の遺物扱い。魔素結晶をバッテリーにした電車なんて、今や当たり前だし。街中には、ダンジョン資源でできたおしゃれカフェも増えてきて――

 あっ、話が逸れそう。戻す戻す。


 で、そのダンジョンで一番大事なのが、「スキル」! ダンジョンに“適性”のある人間が、初めてモンスターを倒すと、世界でたった一つ、自分だけのスキルを手に入れられる。魔法少女アニメみたいな必殺技から、地味だけど便利な能力まで、バリエーションは無限。火を操る子もいれば、回復魔法、解析スキル、強化型もいろいろ。うちの学校の卒業生の中には、スキルを使ってプロの探索者になる人もいれば、民間企業のダンジョン資源開発部門に就職する人も多い。スキルさえあれば、未来はキラキラ――のはず!


 ただし、スキル持ちは“適性”が必要。みんながみんな、自由にダンジョンに入れるわけじゃない。ルールだらけだし、ちゃんと探索者の資格を取らなきゃいけないし、下手したらモンスターにやられるリスクもあるから、気軽に冒険はできない。

 うちの「天宮探索高等学院」は、小中高一貫の探索校で、日本でもトップクラスの規模と実績を誇る学校。授業は朝のホームルームから始まって、午前中は一般教養(国語、数学、英語とか)だけど、午後はダンジョン関連の講義や訓練がびっしり。普通の体育の代わりに、スキル制御やモンスター対策、資源回収の実習なんかもあって、クラスの全員が“未来のエリート探索者候補”だって自負してる。


 私がここに通ってる理由? もちろん、「魔法少女」になるため!

 小さいころから、テレビの中でキラキラ変身して、悪を倒して、みんなに希望をくれる魔法少女に憧れてきた。普通なら「子供の夢でしょ?」って笑われるけど、今の時代、本当に魔法みたいなスキルを持てば、憧れを現実にできるかもしれない。

 うちの家族も、応援してくれてる。パパとママは普通の会社員だけど、スキル持ちの人はみんな尊敬されるし、弟も「姉ちゃんが魔法少女になったら自慢する!」ってずっと言ってくれる。やる気が違うんだよ、やる気が!


 ……なんて、世界の説明を頭の中で反芻している間にも、クラスのざわめきは止まらない。


「なあ、どんなスキルが出ると思う?」


「攻撃型がいいな~、ヒーラーも捨てがたい」


「うちの兄ちゃん、回復系だったんだって。就職めっちゃ楽らしい」


「私は絶対、火属性! 炎の魔女カッコイイし!」


「いや、魔眼とか地味に最強じゃない?」


 みんな、妄想が大渋滞してる。私はひとり、窓の外に目をやって深呼吸。学校の裏庭の向こう――その先に、私たちが初めて入るダンジョンの入り口がある。柵で囲われて、セキュリティもばっちり。しかも、この「学校ダンジョン」は管理されてるから、安全性は最高レベル……のはずなんだけど、やっぱりワクワクとちょっとだけドキドキが止まらない。


 ちなみに、日本中にダンジョンは何百とあるけど、全部が全部、危険ってわけじゃない。最初の発見当初は、世界中がパニックになったらしい。南極のアビスホールからモンスターが溢れたってニュースは、今でも歴史の教科書に載ってるしね。その“アビスホール”は、いまだに世界最大・最深のダンジョンで、伝説の探索者たちもまだ攻略できていない。今もどこかで、だれかがあの謎に挑んでると思うと、胸が熱くなるじゃん?


 そうそう、ダンジョンは「成長」する。発生当初は階層も浅いけど、時間が経つごとに内部がどんどん増えていって、ついには“無限階層”とも言われてるんだとか。探索者たちは、モンスターを倒してアイテムや魔素結晶を持ち帰るのが仕事。倒したモンスターからは、素材とか薬の材料、時にはレアな装備品までドロップすることがあって――それを狙って命がけで挑むプロもいれば、趣味で探索する変わり者もいる。


 もちろん、危険なこともたくさんある。モンスターの“アウトブレイク”――つまり、ダンジョンからモンスターが外に出てくる事故も、たま~に起きる。だからこそ、国や自治体、企業まで「探索者」をめっちゃ重宝してる。スキル持ちは警察やレスキュー部隊、病院とかでも大活躍。スキル社会、バンザイ! ……だけど、同時に「スキル格差」ってやつもある。回復系や解析系は引っ張りだこだし、派手な攻撃型だとテレビやネットでも人気者になれる。逆に、あんまり役に立たないスキルだと、結構肩身が狭かったりもする。


 でも、私は絶対に「魔法少女」スキルを手に入れて、カワイイもカッコイイも両立する最高のヒロインになる! それが今日の目標であり、人生のスタートダッシュなんだよ。夢は大きく! 目指すはアビスホール攻略メンバー!


 ガタガタッと椅子が揺れた。みんな一斉に立ち上がる。担任の大沼先生が、しぶしぶって感じで「では点呼するぞー」と出席簿を開いた。


「火花カリン」


「はい! がんばります!」


 勢いよく返事すると、前の席のユキが小声で「気合い入りすぎ」と笑う。ユキは幼なじみで、理論派の“解析眼”志望。なんだかんだで私のこと、いつも見守ってくれてる親友だ。


 廊下をぞろぞろ歩きながら、私はこっそり指で星マークを作る。


(今日こそ、変身ポーズが似合うスキルが来ますように!)


 胸の前でそっと祈りを込めた。制服の袖口からは、ちょっと黒っぽいシミが覗いてて、「あれ、洗濯したのに?」って自分でツッコミ入れつつ――でも、気にしない、気にしない!


 階段を降り、体育館裏を通り抜けて、ダンジョン入口の前に集合。鉄柵と自動ゲート、モニターカメラ、まるでちょっとした軍事施設みたいな厳重さ。

 でも、入り口の奥はただの薄暗い階段――ダンジョンの中に一歩入った瞬間、空気が一変する。ツンとした薬品と土の匂い、それとちょっと焦げたような、非現実的な香り。


「みんな、落ち着いて進めよ。列を乱すな。教師が先導するからな」


 暗い通路を、みんなで進む。静かなのに、心臓がバクバクして耳が痛いくらい。でも、足は止まらない。何人かの男子は「マジで本当にモンスター出るのかな……」と小声でビビってるけど、私は逆! この先に、運命が待ってるんだから!


 ……あ、でも、ちょっと緊張してきたかも。大丈夫、なんとかなる!


 こうして私は、世界が大きく変わったダンジョン時代の、日本のとある探索校の生徒として――

「魔法少女」になれる、その瞬間を目指して、一歩を踏み出したんだ。



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