第2話 アバター作成

目蓋を開くと、そこは何もない白の空間。

眼前には『ようこそ〈アクシス・オンライン〉へ』という無機質なメッセージ。

ひとまず、メッセージが書かれているウィンドウに触れてみる。


軽くタップすると、起動時と同じ声のアナウンスが流れた。


『ようこそ〈アクシス・オンライン〉へ。キャッチコピーは──"なんでもありの対人戦"。貴女の力を世界に証明してください』


「………対よろ。」


軽く挨拶してみたが、返事は返ってこない。無愛想な子だよ。

アタシを無視したアナウンスは淡々と説明を始めた。


『アバター作成を開始します。プレイヤー名を入力してください。』


「はいはいプレイヤー名ね。『レイナ』っと」


『……確認しました。続いて、外見、得意武器、スキルの作成に移ります。なお、本作はこれらの要素をプレイヤーの魂に合わせて自動生成した場合、より強力かつプレイヤーに適した新規の能力が付与されます。ただし、初期に付与されるスキルは一種類のみです。魂のスキャンに同意しますか?』


は?魂のスキャン?

何やら怪しい単語である。

けれど、それをすればアタシに合った能力を新しく作ってくれるってことか。それなら答えはYESだ。


『……確認しました。魂適合(ソウルチューン)を開始します──』


胸の奥をそっと撫でられる感覚がした。身体は熱くなり、心拍数がドンドンと高まる。

内側から全身を作り変えられている様な錯覚すら覚える。本当に大丈夫なやつかこれ。

数秒後、半透明のウィンドウが開いた。


『──アバター作成完了。付与された得意武器とスキルを確認してください』


「えっとー…得意武器【格闘】…まぁ、そうだろうな。スキル『枠外解放』…分類は〈ウルト〉…っておい、なんだよ〈ウルト〉って」


『〈ウルト〉はスキルの中でも極めて強力な分類です。試合展開を左右させる程の影響力を秘めていますが、一試合に限り一度しか使用できません。また、使用者のヒットポイント3割以下が発動の条件です。』


アタシが疑問を呟くと、再びアナウンスからの機械的な解説。


「なるほどな、超必ってコトか。能力は……フッ」


思わず笑う。

たしかにこれは"なんでもあり"だ。


『本作のスキルはプレイヤーに合わせたオリジナルのモノを作成しており、ゲームバランス等は一切考慮されておりません。よって、戦力差を覆すだけの技術や発想力が求められます。』


「バランス未調整を明言するとか、いっそ清々しいよ」


天音はそれでも流行ってるって言ってたな。

つまり、戦力差を平気で覆せるくらいには、プレイヤーの技量が介在する余地はあるってコトか。

これはかなり期待してよさそうだ。


それに、アバターの外見も悪くない。

艷やかなショートの金髪にキリッとした葵色のつり目。黒を基調とした肩掛け軍服ワンピースは、布地の質感が心地良い。

格闘家らしさ全開の穴あきグローブ含め、実にアタシ好みの服装である。


『それでは最後に、利用規約を確認し、同意するか選択してください」


目の前のウィンドウが形を変え、長い文字列が現れた。

なっげぇよ。こういうの、全部読む気になれねぇんだよな。無心で下へとスクロールし、同意のマークにチェックを入れる。


『……確認しました。ようこそ、世界は貴女を歓迎します』


視界が暗転。さぁ、新しい挑戦の始まりだ。

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