第4話 お嫁にいきたい

「それより今日の部活、文化祭の出し物考えるって言ってたじゃん。お前、何か考えた?」

「『あなたも投げられてみませんか?』」

「斬新だな」

「黒帯に投げられるんだから、痛くないように投げてやる」

「ターゲットが不明だな」

「じゃあ、龍平は何か考えてきたのかよ」

「俺は全然」


 うちの高校では文化祭は秋ではなく五月にやる。だから、あと半月ほどで準備をしなければならない。文化祭は、それぞれの部活動の出し物が名物でもある。


「真希ちゃんは茶道部だから野点のたてだろ? 堂々と真希ちゃんの写真や動画取り放題だから客もすごいことになりそうだな」

「その辺はちゃんと対処するだろ」


 野点のたてとは野外でのお茶会のことである。

 客はもうせんが敷かれた椅子に腰かけ、茶をたてる亭主は直に敷かれた紐もうせんの上で正座をし、茶釜ではなく魔法瓶などに入れたお湯でお茶をたててもてなすカジュアルなお茶会だ。お茶菓子などの準備をする場は赤と白の布で仕切られ、客席には大きな赤い和傘がさされ、雰囲気を盛り上げる。


「俺達はいっそ焼きそばとか出す? 半袖筋骨隆々の男子と女子部員がコテを返して作る筋肉やきそば」

「全然美味そうに思えない」


 俺達は下駄箱まで来て靴を上履きに履き替えると、そこで別れた。


「じゃあ、また放課後な」

「ああ」


 手を振り合って別れた龍平の背中を見ながらため息をつく。

 イベントは女子柔道部と合同で行われる。男子部は頼りになさそうだから、女子部が何か考えてきてくれるとありがたい。


 いつものように俺の弁当を覗きに来る奴がいて、真希も同じものを食べているというだけで満たされる推し活達がいて、午後の授業が終わる。俺は部活に向かうため、リュックを肩に引っかけて部室に入る。


「お前、なんか考えてきた?」

「全然」


 の応酬が男子部のあちこちから聞こえてくる。すると女子部の部長と部員が男子部の部室に来た。


「今年の出し物は『お嫁にいきたい』で決まりだから」

「はあ?」


 男子部員が一斉に顔にクエスチョンマークを貼りつける。


「うちはカトリック系の高校だから敷地内に教会があるでしょう? その教会のドレスを貸し出して写真を撮るって企画なんかどうよ」

「あっ、それなんか良さそう」

「でしょう? 一枚につき五百円ぐらいで貸し出して教会で記念撮影。男子部からはイケメンにレンタルの白いスーツ着てもらって、一緒に写真撮るのもアリってことで」

「そうだよな。客が皆カップルとは限らないもんな」

「女子達のグループとか、インスタやってそうな子達なら絶対飛びつくはず」


 狭い部室に集った部員が総じてうなづく。

 

「本物の式で着るドレスだから、どれも凝っててきれいだよ」

「見たことあるの?」

「この企画を神父様に頼みに行った時に見せてもらった」

「それじゃあ、今年の柔道部はウエディングドレスの貸し出しと記念撮影ってことで決まりだな」


 部長は早々に女子部の提案にのっかった。


 真希は野点でお茶を出してるはずだから来ないよな。あいつが来たら男子の人垣ですごいことになりそうだ。

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