第12話 元窓際族のおっさん、王都ギルドマスター相手に無双する

 リリアの一太刀一太刀は非常に重いものだ。

 この老いた身体では真正面から受け止めることが難しいくらいに。


 雷の加速と剣筋の鋭さが相まって瞬間移動しているかのような切り返し。


 圧倒的速度とパワーはリリアのこれまでの努力を物語っている。




 ――――だが、俺はすべてを見切った。




「――――がはっ」


 リリアが吹き飛ぶ。

 稲妻の軌道を読み切った俺は寸前で躱し、逆にカウンターを叩き込んでいた。


「これで終わりか?」

「バカ言えっ……!」


 怒りと悔しさを乗せた雷の剣撃を俺はわずかに身を傾けるだけでかわす。

 そしてそのまま、懐へ潜り込み――――。


「――――ぐっ……!」


 あばらに蹴りを入れた。


「信じられない。リリアさまが圧倒されてるだと……?」

「フランツさん。あんたはやっぱり本物か……!」


 リリアが荒い呼吸の中で言う。


「魔術と剣。どっちも極めたって自負はあった。なのに、こんなにも――――壁は高いのか⁉」


 稲妻を纏った突きを紙一重で躱して喉元に刃を突きつけた。

 その瞬間、リリアが剣を落とす。




「――――負けた。完敗だ」




 歓声とも悲鳴ともつかぬどよめきが王都のギルドを揺らす。


「す、すげええええ!」

「さすがです、フランツさん!」

「見事な腕前でした!」


 いつの間にか観戦に来ていたレイナが駆け寄り、目を輝かせて言った。

 ――――お仕事大丈夫なのか?


「……圧巻でした。本当にあの頃よりもずっと強くなっているわ」

「いや。それほどでもないよ――――それよりもレイナ。騎士団の仕事は――――」


 仕事を放り出しているのなら早く持ち場に戻ってほしいと伝えようとしたところリリアに遮られてしまう。



「このギルドでわたしより強い人間なんていなかった。だからわかるんだ。やっぱり、あんたは……とんでもない化け物だ」


 リリアが悔しそうに笑う。


「そこまで言うか?」

「言うさ。これだけボコボコにされて、褒めもせずにいられるかよ」


 彼女が笑うと周囲からも笑いが起きる。



 ________________________________________



 試験は終了した。

 リリアが正式に結果を宣言し、俺のギルド登録が受理される。




 ――――だが、そのあとに彼女が言った。




「じゃあ、ギルドの登録も済ませたってわけだし――――魔物討伐をやってもらうか」

「おい……試験は終わったんじゃないのか?」

「いや、うちもずっと人手不足だからフランツさんに手伝ってもらおうと思って」

「ちょっとあんた。フランツさんにブラック労働させないでよね」


 魔物討伐依頼を俺にしてきたリリアに対してレイナが顔を真っ赤にしながら抗議する。


「姫さんじゃないか。いたんだな」

「いたわよ! 仕事でこっちの方まで来ていたらあんたが直々に新米冒険者と戦闘を行うって情報が入ってきて――――それがフランツさんって知ったから飛んできたわ」

「仕事放りっぱなしでいいのか?」


 正論だな。


「ばっちりよ! ちゃんと仕事を終わらせてこっちに来たわ!」


 レイナはそういうところはしっかりしているようだ。

 もしかしたらサボっているのかもしれないと一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしい。


「で、フランツさん。魔物討伐はどうする?」


 ギルドからの依頼は断ることだって可能だ。

 この自由さが好きで冒険者をやっている者だって多い。



 ――――だが、自分が昔面倒を見た子が出世して俺に頼みごとをしてきている。



 断る理由なんてない。


「行こう。魔物を討ちに」

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