第7話 おっさんが抜けたギルド、事務仕事が崩壊する
フランツは思っていた。
――――自分がいなくなってもギルドはなんとかなる、と。
確かに長年あのギルドの事務や管理の多くをフランツがこなしていた。
誇りのある仕事。
自分にしかできない仕事。
そう若いころは信じていた。
だが、勤続年数を重ねていくにつれ社会の仕組みというのが身に染みてきたらしく、気がつけば自分の仕事も『替えの効く仕事』の1つなのではないかと思うようになった。
この社会では誰かが抜けても代わりの人間が現れるのが常だ。
個人の正義や信念なんて、大きな組織の中では泡沫のように消えていく。
――――フランツはそれを嫌というほど思い知ってきた。
追放されたときは激しい怒りがあった。
特にギルドマスターのライネルへの怒りはすさまじいものであった。
だが、同時に虚しさもあった。
年齢も年齢だ。
いつクビを切られてもおかしくない弱い立場にあることを自覚していたフランツはその現状を改善する前に追放されてしまった。
――――これがフランツの27年で学んできた社会の『真理』だったのだ。
――――だが。ときにその『真理』とやらは現実と乖離することもある。
フランツの抜けたギルドではやはり崩壊が止まることはなかったのだ。
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「ちょっ……ちょっと待って待ってください。この予算案、なんでこんなにズレてるんですか⁉ しかも納品書と請求書合っていません!」
受付嬢のマリーの叫び声が朝からギルドの事務室に響き渡っていた。
フランツがいなくなってからたった1ヶ月足らず。
ギルドの中は想像を絶する混乱に包まれていた。
彼がいなくなったその日から提出される書類は杜撰になり、討伐依頼の振り分けにミスが頻発。物資の補充は忘れられ、支給品の行き先が不明になることも珍しくなくなった。
「マリー、これって……昨日の報告書だっけ? えっと、どこにファイリングすれば……」
「それは先週のヤツです! あの……もう提出期限過ぎています」
後任の若手事務員たちは日々の業務に追われ右往左往していた。
彼らの中にはそれなりに真面目な者もいたが、誰1人としてフランツのような広範な知識と経験を持っていなかった。
ギルドマスター室ではライネル・ドラグナーが額に汗をかきながら、書類の山に埋もれていた。
「な、なんなんだよこれ……なんでこんなに回らなくなってるんだよ……!?」
今日も呼び出されてしまったマリーが恐る恐る言った。
「あ……あの、恐れながら……以前も言っていたようにフランツさんが処理していた部分が、今ほとんど手つかずでして……」
「何度も言うが……たかが1人の事務員がいなくなっただけだろうが!」
ライネルは机を叩いて立ち上がった。
「なんで誰もできねぇんだよ! おかしいだろ! フランツがそんなにすごかったってのか⁉ おっさんが1人抜けるくらいで崩壊するくらい俺たちのギルドってのは貧弱だったのか!」
「貧弱です……その脆い部分をフランツさんはわかっていた。だからこそ率先して――――なんでもありません」
お世話になったフランツのためにひたすら擁護したい気持ちを抑えながらも、このままではライネルになにをされるのかわからないマリーはみなまで言わずに口をつぐんだ。
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