清純物語〜澄んだ愛〜
花魁童子
第1話 不思議な少年との出会い
──人間とは脆く儚い。
私たち悪魔と人間の寿命は比べるほどでもない。人間が百年生きようが、私たちからすればまだ子どもと同じ。
私ももう、二百からは飽きて数えなくなった。もう私の生まれた年も日も分からない。もう気にしたら負けだと思っている。
だが、長く生きても良いことなどこぶし一握り程度、ほとんどは退屈だし同じ生活をするだけ。現に今だって山にある小さな町。『ターコイズ』の近くの草原でのんびりと薬草の採取をしている。ちなみに悪魔ということは隠して生活しているよ!そこらへんはね、バレるとめんどくさいし、人間は好きだ。同種族の者は、人間が嫌いらしいけど、人間の考えることは面白い!
村の近くの草原では魔物が多く生息しているため、村の者たちはまったく来ることはしない。したとしても若くてそこそこ強い大人が数名。だがなぜか、魔物はターコイズに近づくことすら嫌がっている。言い換えればトラブルを寄せ付けない。私はその不思議な現象を知りたく、今はその町に滞在している。しかし、進展はなし。村の者に聞いても、神様がどうとか。曖昧な回答しか来なかった。せっかく来たのに収穫なしはさすがに悪魔としても自分としても嫌だ。
「今日も薬草狩り楽しいな~~♪」
ウキウキな状態で回復薬になる薬草を収集しているとき、背後から気配を感じた。その気配は優しく明るいもので私に危害を加えるような者ではなかった。
「お姉さん何しているの?」
よくよく視界に入れてみると小さな少年が首を傾げながら、その場にいた。
しかし、エリカはその光景を見て真っ先に思ったことは、なぜここに人間の少年が?村の門には強き男が二人、門番をしているはずだ。ましてやこんな幼子を送り出すことはしないだろう。
「あぁ、薬草採取をしているだ。仕事のためにもね。」
質問に答えつつ、立ち上がり、手に持っていた薬草をかごに押し込んでから少年の肩に手を置いて足早にその場を去ろうとした。しかし、軽く動かそうとはしたものの、悪魔の種族なため力はそれなりにあるのに、幼子はびくともしない。
「あれ…。」
「お姉さん、僕を動かそうとしているの?無理だよ~~。だって僕強いもん。」
こんな幼子が悪魔の私ですら、苦戦するほどに強いのか?!
そう思った瞬間、何か心に秘めたものがあった。長年生きていて感じたことのないもの。
「でも、ここは危ないから離れようね?」
「分かったよ…。」
優しく問いかけてなんとか了承を貰って村の近くに移動することにした。
「お姉さんって何歳?若そうに見えるけど。」
「私?私はね…18歳!」
この年でさばを読みすぎだとは思うが、悪魔だとばれたらここにもいられなくなって大好きな人間にすら、嫌われてしまう。人間もいつ死ぬように私だって死ぬときは死ぬ。この人生覚悟を決めて長年生きている。
「若いね!悪魔だからもっと年取ってそうなのに、もう100歳は超えていると思った。やっぱ見かけによらないね。人間も悪魔も。」
待て、なぜこの子は私が悪魔だと知った?羽か?角か?
驚いたと同時に羽と角の位置を睨みつけるように見るが出ていない。長年生きているため。隠すのにも慣れて自由自在に出し入れ可能な状態までに成長させた。だから見えることはないに等しい。
「あれ~?お姉さん。目が泳いでいるよ?」
その言葉を聞いた瞬間、背筋がぞくっとし、長年の感と反射的に距離を置く。
そして幼子をうろんな目で見る。まさしく、先ほどまでは何もなかったのに今になっては怪しい。
「そんなに警戒しないでよ。僕が悲しくなる。」
能天気に話す言葉に気が狂う。しかし、私のように正体を隠す種族も少なくない。もしかしたら、人間ではないのかもしれない。
「あ、一つ言うけど、僕は人間だよ?どこをどう見ても人間!」
「そんなわけあるかー!なぜ、私の正体が分かった…。」
「ん~、直感?なんか頭の中に悪魔だろうなって感じた。」
「そんな直感嫌だわ!怖い!」
ギャグでもしているのかというほどの雰囲気に、つい今の状況を忘れかけてしまう。我に戻り、再び質問を投げかける。
「……分かった。多少は理解しよう。しきれない部分もあるが。」
「やったーーー!」
少年のような笑みを浮かべ…いや少年なんだろうが、本当になんなのか分からない。
「では、質問を変える。君は私の年齢も予測したけど、なんで?」
少し間はあったものの、少年は覚悟を決めたように話してくれた。
「僕ね、生まれたすぐ、悪魔に両親を殺されたんだ。だからかな、お姉さんから流れている情の形が人間ではなく、その悪魔に近かったから。」
…情?この幼子は情が感じ取れるのか?
情とは、個々で持っている存在を示す言わば、能力と同じ。個々で持っているとは言っても、種族で最低値と最大値がある。人間であれば、滑らかで、軽い波が起きるような心拍数に近い波。悪魔はその逆で、激しい大波のように重く、遅い。
そして能力で同じ。ということは情を駆使して個人でもつ特殊能力もある。人間であれば、日常生活で使う能力が多い。例えば、知識量を増幅させる。コミュニケーションが増幅する。種族問わず生まれたときから情の量は決まっていて、決して増幅したり、能力を変換したりもできない。
「…君の情は人間とそう変わらないね。」
「そうだね。でも僕の能力は条件をクリアすれば、相手の記憶を読むことができる。」
条件によってということは私の記憶も読むことができるのか?
そう考えた瞬間、背筋が凍り恐れを生んだ。
「あ、でも条件はクリアしてないから、お姉さんの記憶は読んでいないよ。」
一旦安堵したが、それでもいつ見られるかは心配だ。情報収集はしておきたい。
「その条件って何?」
「二つあって、一つ、信用できている者同士であること。もう一つ、どんな愛でも交し合っている。」
どんな愛でも…家族愛とか恋愛とかそういうのか。
「でも、僕友達少ないし、しんようできてないんだよね。記憶を読めたのは両親ぐらい。愛をまともに受け止められたのも両親。」
「すまない。私の同種が君の両親を殺して、謝っても無理かもだが、私が変わって謝罪する。」
深々と謝罪するエリカとは裏腹にその少年は微笑んで、優しく声を発してくれた。
「お姉さんって優しいんだね。僕、お姉さんのこと好きになっちゃったかも。」
すると、その優しさに包まれた暖かい手が私の背中に覆うような形で触れた。
あぁ、何年ぶりにハグと言うものをしたのか。
懐かしさに心を置いていると、現実に戻される。
ハグが終わり、笑顔を崩さず少年は物申す。
「ねぇお姉さんってさ、僕に悪魔だって知られて殺そうとかしないの?」
「しないよ、でも君が誰かに言うのなら話は別。」
「言わない!なんかお姉さんと僕だけの秘密みたい。」
この子の考えていることが予想つかない。でも、嫌な気分ではない。なんだか暖かくて癒されるような。何とも言えない気持ち…。
走行しているうちに村の門である紋章が見えてきた。
「じゃぁ、君とはもうお別れだね。」
「なんで?!僕まだお姉さんと一緒にいたいし話したい!」
私の外見は人間に見えるのかもしれない。しかし、悪魔だ。人間の生活に溶け込んでいるとはいえ、過度な接触は避けるべきだ。それに、もし門番に私とこの幼子が二人で戻れば怪しまれてしまう。どうにかしてこの幼子から距離を置こう。
「お姉さん…なんか嫌な考え事しているでしょ。」
「嫌な考え事って?」
「例えば、僕と距離を置こうとか。」
この幼子…己の感なのか、はたまた能力なのか、それが分からないほど私の考えていることを言い当てる。
「……はぁ、分かった。中まで入ろう。」
しぶしぶあきらめをつけて少年の言うことを聞いた。その言葉に嬉しさがこみ上げたのか私の手を握り引っ張って門に駆け出していく。
「おう、エリカ!もういつもの薬草採取は終わったのか?…ってエリカ…まさか誘拐か?!」
「なわけねぇーだろ!さっき草原で薬草採取していたら話しかけられて、ここへ連れてきたの。この子渡したらまた行く予定。」
この冗談も交えて会話できている門番の名はヒイラギ。この男が門番を務めて間もないころから知っている。それと偽装のために耳をエルフのようにしているため、みんなから見ればエルフと瓜二つで見分けられないだろう。何年も生きていれば偽装も容易い。
……ただ、この幼子には正体を知られてしまったことは悔しい。
「そうだヒイラギ、君と出会ってどれくらい経過しただろうか?」
「そうだな。十年は経つのか?」
もう十年なのか。ヒイラギは人間でいうと大人なのか。
「エリカ!実は俺な、子どもが生まれそうなんだ!」
唐突の言葉にびっくりしつつも、子どもが生まれることは種族関係なしに心の底から喜ばしい。しかも、十年付き合いで顔なじみになった者が子どもを得る。いいことじゃないか。
「おめでとう!宴を…と言いたいところだが、君の嫁さんを考えると難しいだろうね。古代から酔い物は赤子に飲ましても触れさせてもいけないからね。」
「ははは!エリカはやっぱり周りのことを考えるよな。俺と同じ男とは思えねぇ。それに物知りだし。さすが何十年も生きているわけだ。……とその前に、ミズナラを送らないと、行くぞ。」
ヒイラギがミズナラという強き幼子に手を差し出した。そして私はこの幼子の名を今初めて知り驚いた。それと幼子の顔を覗くとそちらも驚いた表情でこちらと目を合わせてきた。
「え、エリカさんってお姉さんじゃないの?!」
「え、おいおいエリカ、男だって言わなかったのか?」
「え、えぇ、だって言う必要もないだろうし、それに言われ慣れていますから。」
微笑みをミズナラに向けると、ニコニコと目を輝かせている。
どうしたのだろう。いつもなら言い寄られて性別を知るとみんな離れて行くのに。
悪魔であっても容姿には自信があるため、好かれることには好かれる。しかし、同種であっても離れて行く人しかいない。
頭の上にん?と疑問を向けているとミズナラが「ねぇ、エリカさんを家に招きたいから早く行っていい?」と門番に詰め寄る形で言葉が早くなった。
ヒイラギもびっくりしつつ、「あ、あぁいいぜ。二人なら通っても問題ないだろう。」そう言ってくれて門を開けてくれた。
その開けられた扉と同時にミズナラはエリカの腕を再び引っ張り誘導してくれた。
しばらくミズナラの誘導に身を任せていると、小さな木造の家が見えてきた。それに気が付いたのはどうしても周りの家とは作り方が異なって際立って見えたから。
その家の前まで来るとピタッと止まって「ここが我が家です!」と手招きして連行のようにお邪魔させていただいた。
内容はいたってシンプルで必要最低限の家具しか置いていない。部屋は三つほどで、一つは寝室。寝室と言っても一人分の敷布団と掛布団が畳まれている。もう一つはお風呂と厠がまとまっていて、最後の一つは、台所で長机と釜、それと料理器具が並んでいる。
この部屋を見た感じ器具が多いということは、料理が得意なのかな?
一通り見える部屋に案内されて思ったことがある。それは両親の部屋はなく、一人暮らしだとわかる。
「お姉さんは適当に座っておいて。」
その言葉に甘えて床が石であれば多少の抵抗はあったが木でできていて、外の光が窓から送り出されて床が反射して綺麗なのがすぐ分かった。
ミズナラが台所に向かい、茶を入れているのか注ぐ音が微かに聞こえてくる。申し訳ないとは思いつつ、止めに入ったとしても拒まれて強制的に座らされて終わりだ。
「お姉さ…お兄さん?これ飲んで。」
台所からこぼれないよう慎重に運んで私が座る位置、机の上に乗せた。コトンと少し太い音が一瞬響き、それにこたえる形で「ありがとう。」と感謝を伝えた。
私と反対側の席に座り、私が飲んでいる姿をまじまじと見てにこやかに微笑む。なんだか恥ずかしいような、なんというか…。
茶を半分ぐらい飲み干したときだろうか。ミズナラが会話を始めた。
「お兄さんさ…。」
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