第2話「勇気を出して愛を叫べ」その3
「ホッホッホッ! 返り討ちにしてさしあげましょう!」
そう言うとオジイケは凄まじい咆哮を上げる。
だが聴覚機能をシャットアウトしている今回のラブレンジャーたちには、何も聞こえなかった。
「へっ! 何言ってるのか聞こえねぇぜ。それより、この前の借りを返させてもらうぜ!」
ラブレッドがそう言うと、他の4人はオジイケに向かっていく。
……が、ラブブルー以外は途中で足が止まり動けなくなってしまう。
「う……そ、そんな!?」
「これは……あの時と同じ……」
「くそっ……動けねぇ……!」
そう。前回もオジイケが叫んだ直後に体が動かなくなり、一方的にやられてしまったのだ。
ブルーを除くラブレンジャーたちは完全に動きを封じられてしまっていた。
レッドの全身が凍りついた。耳は静かなはずなのに、心臓の鼓動だけが異様に響く。
「聞こえてない……はずなのに……!」
体は記憶していた。あの咆哮を――魂の奥で。
そんな彼らを見てオジイケは勝ち誇ったように笑う。
「ホッホッホ! どうしました? もう終わりですかな?」
「はぁっ!!」
ラブブルーのラブリーソードがオジイケを弾き飛ばす。
「な、なぜ動けるのですか? ……いえ、あなたはまだわたくしの咆哮を聴いていないのでしたね」
オジイケは一旦は取り乱したものの、冷静にラブブルーに言う。
「ま、まさか……一度あなたの能力で怖気づいた人はどれだけ時間が経っても恐怖が抜けないんじゃ……?」
「その通りですよ、ブルー殿」
オジイケは淡々と答える。ラブブルーが振り返ると、他の4人はガクガクと足が震えてしまっている。
「そ、そんな……みんなしっかりしてくださいっ!!」
ラブブルーが叫ぶが、彼らは恐怖で動けない。
「ホッホッホ! どうやら勝負ありのようですな」
「くっ……」
ラブブルーは悔しそうに唇を嚙むと、ラブリーガンをオジイケに向ける。
その瞬間、オジイケは。
「ふっ、わたくしと会話するために聴覚機能のシャットアウトを解除するとは……油断しましたね! グオオォォォォォォォォォォッ!!」
渾身の叫びを上げた。
「きゃああああああっ!!」
ラブブルーは耳を塞ぎながら絶叫する。
しかしそれでもオジイケの声を聞いてしまう。
「ふふっ、これであなた方も終わりですね」
そう言ってオジイケはラブレンジャーたちにゆっくりと歩み寄ってくる。
彼ら全員、完全に足が竦んでしまっていてその場から動けなかった……。
そしてついにオジイケがラブレンジャーたちの目の前までやってくる。
「ホッホッホ! ホーッホッホッホッ!!」
彼は自慢の爪でラブレンジャーたちを切り裂いていく。
「う、ううっ……」
「うぅっ……あっ……」
ラブレンジャーの5人は苦悶の声を漏らす。
「さようなら、ラブレンジャーの諸君
オジイケがとどめの一撃を放とうとした……その瞬間だった——!
「ラブスプラッシュカッター!!」
ラブブルーの必殺がオジイケを鋭く斬り抜く。
「ぐぅ……お、お前……咆哮を聴いたのに、な、なぜ……動ける……のです?」
オジイケは信じられないという表情だ。
「私たちは……ラブレンジャー!! 私たちは人々や地球を守る使命を背負った、愛の戦士!! この程度の恐怖には屈しない!!」
ラブブルーは力強く叫んだ。
「みなさん、立ち上がってください!! ここで私たちが負けたら——この国の平和は——!! 人々の平和はどうなるんですか!!」
その声に恐怖に支配されていた4人はハッとなり、彼女の声に耳を傾ける。
「私たちはラブレンジャー!! そうでしょう!? だったらこんなところで怖気づいてないで勇気をもって愛を叫んでくださいっ!!」
他のラブレンジャー4人を叱咤激励するラブブルー。
「……水希の言うとおりだぜ!!」
「ああ! こんな奴らにビビってて何がヒーローってな!」
「うん。僕らは愛の戦士!」
「水希ちゃんのおかげで、くだらない怖気なんてすっかりなくなっちゃったわ!」
4人は立ち上がり、オジイケへ向かっていく。
「ふ、ふんっ!! もう一度喰らえば怖気づくことでしょう!! グオオォォォォォォォォォォッ!!」
オジイケは渾身の咆哮をお見舞いした……が……
「無駄だぜ!!俺たちはもう怖くねぇ!!」
ラブレッドはオジイケを殴り飛ばした。
「ぐっ……な、なぜ……!?」
「言ったはずです! 私たちは人々を守る愛の戦士だと!! だから私たちはもう、あなたなんか怖くない!!」
ラブブルーがそう叫ぶと、他の4人も一斉にオジイケに攻撃を仕掛けていく。
「く、くそっ……!!」
オジイケは叫び声を上げるが、ラブレンジャーたちの攻撃の手は止まらない。
そしてついに……。
「「「「「くらえっ!! 愛の一撃!! スーパーラブスターマイン!!!」」」」」
ラブレンジャーの放った愛の波動砲が、オジイケに直撃する。
「ハ、ハイパ様ァ~!!」
と、膝を着くオジイケ。
彼はラブレンジャーたちに視線を向ける。
「……ラブレンジャー……。恐怖に震えること。それもまた“生”なのですぞ……ぐふっ……!」
そう言い残し、オジイケの体は光の粒となって散っていった。
程なくしてオジイケの能力によって怖気に支配されていた人々も元に戻る。
「お、おのれ~! よくもよくもよくもぉ~! よくも僕ちんの大切な部下のオジイケをぉ~!!」
空間を割きながらハイパが飛び出してくる。
「へっ、次はお前の番だぜハイパ!」
ラブレッドがラブリーソードを彼に向けて言い放つ。だが彼はラブレンジャーたちには目もくれず、爆散したオジイケの灰を一心不乱にかき集めている。
「いますぐにお前の敵討ちといきたいところだが、悲しくて悲しくて今はそれどころではないのだぁ~! 許せオジイケよぉ~……オジイケよぉ~……!!」
彼は涙を流しながらオジイケを弔う。
その様子を見て
「悪事を働きに出てこなきゃよかっただろ……」
ラブレッドは呆れながらそう呟いた。
結局ラブレンジャーたちの方を見ることもなく、遺灰を集め終えると
「還ろうオジイケ」
とだけ言い、ハイパは空間を割いて消えていった。
「な、なんだアイツ?」
ラブレッドは意表を突かれたように立ち尽くす。
「でも、いったんはこれで片付いたんじゃないか?」
電輔がそう言うと、他の4人も頷く。そしてラブレンジャーの5人は変身を解除した。
「みんな、お疲れ様。今日も何とかなったね」
駿也が安堵したようにふぅ、と一息つく。
彼の言葉に頷く水希を、桜が後ろからギュッと抱きしめ頬をスリスリする。
「でも今日一番の活躍は水希ちゃんでしょ~! ん~! ありがと~!」
「もう……桜さん、くすぐったいですよぉ!」
水希は顔を赤くして身を捩りながらも、どこか嬉しそうだ。すると炎児が、
「いや、最年少だけど水希。やっぱお前が一番勇気あるよ。本当にすごかったぜ!」
と、彼女の頭を優しくポンポンと撫でた。
その言葉に他の4人も微笑みながら、水希に熱い視線を送った。
「そ、そんな……。で、でも……この5人で良かったなって……思います!」
と水希が照れながら言うと、5人は誰からともなく嬉しそうに声を出して笑い合った。
ひとしきり笑い終えると炎児が力強く拳を突き出した。
「そうだな! 俺たちなら絶対にどんな困難にも打ち勝てる! そこに愛があるからな!!」
それに応えるように4人も拳を突き出した。
ラブレンジャーたちはグータッチをして勝利を喜びあうのだった。
夕陽が差し込む。
5人の影が長く伸び、ひとつに重なった。
それはまるで、世界そのものを包み込む大きな愛の形のようだった。
~こうしてオジイケとハイパの作戦は失敗し、オジイケは敗れ去った! 水希の強い心とラブレンジャーたちの勇気が、愛の勝利を引き寄せたのだ!
見よ! 彼らの彼らの背中のなんと頼もしいことか! ディボーチ帝国は次に何を企むのだろうか?
しかしどんな企みであろうと我らがラブレンジャーは負けない!
この世界にラブレンジャーがいる限り、悪は栄えない!! 愛は世界を救うのだ!~
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ED
ラブラブレンジャー♪ ラブレンジャー♪
♪♪♪
ラブにラブってラブラブラブ♡愛は地球を救う♡
キミにギュギュってハグハグハグ♡愛は世界を包む♡
Ah~今もしもキ~ミが~、一人で泣いてる~なら~
Ah~僕たち愛の戦士が~、キミと一緒にキミと一緒に、泣いて笑ってあ・げ・る~♡
ラーブーラーブ~♪ 愛という名の奇跡~♪
ラーブラーブ~♪ それは大いなる、チ~カ~ラ~♪
♪♪♪
ラブラブレンジャー♪ ラブレンジャー♪
ラブラブレンジャー♪ ラブレンジャー♪
ラブラブレンジャー♪ ラブレンジャー♪
あ・い・し・て・る・よ♡
(EDテーマ:「Ah……Love Love Ranger!!」)
(作詞:ラブレンジャー 歌:ラブレンジャー)
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~ディボーチ帝国 墓園ネクロフェイト~
「オジイケよぉ……オジイケよぉ~。安らかに眠れよぉ!」
新しく作ったばかりのオジイケの墓に、酒をかけながらハイパは語りかけ、少しの間お墓に手を合わせた。
「じゃあまた来るよぉ~! 僕ちんを見守ってくれよな~! ばいばいまたね! またねばいばい~!」
墓地に響くその声は、どこか寂しげだった。
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「みなさん、こんにちは! ラブブルーです! 今日の敵はほんとに怖かったぁ~! でも、怖くても逃げなければきっと乗り越えられるんです! ハイパとの戦いも残っていますが、私たちは負けません! 次回も愛の戦士として戦います!」
「次回『愛はつまらない?』も、ぜったい見てくださいねっ! え……えっと、 せ、せ~の! ラブ注入~!」
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