第39話 花見をするときは前もって場所を取っておけ


 バレンタインデーが終わり、時が流れて三月の中頃になった。今、アルスたちが通う学校は春休みである。そんな中、部屋で漫画を読んでいた弓彦の携帯に某通信アプリの通知音が響いた。


「誰だ?」


 携帯を見ると、なんと御代からの連絡が入っていた。


「あれ? 俺、いつの間に御代会長とID交換したんだ?」


「私が代わりにやっておいた」


 アルスの言葉を聞き、弓彦は大声をあげて驚いた。


「いや、いつの間にやったんだよ⁉」


「お前がいない間に。それと、スマホを触る時はなるべく画面を綺麗にしておけよ。指紋が付いてる」


「分かった。それより、どうしてロックが解除できたんだよ」


「これだ。世界がお前の携帯のロック番号をメモした紙だ。忘れたのかここに落ちていた」


「あいつ、どうやって俺のロック番号知ったんだよ?」


「それより、御代会長から何て連絡が?」


「えーっと……天気もいいからお花見でもしない? だって」


「花見? 何だそれは?」


 アルスがこう聞くと、弓彦は考えながら返事をした。


「桜を見ることかな」


「桜?」


「あれだよ」


 と、弓彦は窓から見える桜並木を指さし、アルスに見せた。


「おお! あの美しい木か! あれを見るとは、御代会長も暇なのか?」


「暇かどうか知らないけど、結構楽しいもんだぜ」


「ほうほう‼ ではムーンと一緒に早速行くと伝えてくれ‼」


「あいよ」


 その後、弓彦は返事を返し、出かける準備を始めた。




 弓彦の家から少し離れた公園にて。そこにはもう大量の桜が咲いていた。だが、そこで花見をしているのはアルスたちだけだった。


「いやー! 今日はお花見日和ねー‼」


 と言って、ご機嫌な様子の御代は手にしたジュースを飲んでいた。


「そうですね。運よく周りに人もいませんし、のんびりとお花見ができそうです」


 横にいる日枝は団子を手にし、こう言っていた。


「きれいですね、お姉様」


「そうだな。こうやってたくさんの桜を見ると、結構美しいもんだな」


 ムーンとアルスはおにぎりを食べながら、桜を見ていた。


「花と飯を同時に楽しんでるよ……」


 二人の行動を見て、すごいと思いながら三毛が呟いた。そんな中、なんか不自然だと思った弓彦は雍也にこう聞いた。


「どうして他の人はいないんですか?」


「会長が花見のために、ここら辺の敷地を借りたらしいよ。だから、俺たち以外は入っちゃダメだってさ。すごいね、会長んち。だけどさー、ナンパがやれないからちょっと残念なんだよね」


「こんな時にナンパのことなんて考えないでくださいよ」


「えー?」


 雍也はブーブー言いながら、手にしたジュースを飲み始めた。そんな感じで楽しい楽しい花見は続いていた。しかし、そんな空気をぶっ壊すバカが現れた。


「弓彦くゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥん! 桜と一緒に私の桜も見てェェェェェ‼」


 現れたのは自分の恥部を桜で隠し、弓彦に突進してくる世界であった。アルスは光の壁を出して世界を倒し、そのまま地面にめり込ませた。


「はぁ、前々回の話の教訓が全く生かされてないじゃねーか」


「ブッフォアッ‼」


 世界は地面から起き上がり、口の中に入った土や桜の花びらを吐き出した。


「ちょっとー、今こっちはお花見をしているんだから、変なもん見せないでねー」


 と、御代は世界にこう注意した。


「あ、すみません。じゃあ弓彦君を連れて帰りますので」


「まだ帰りたくない」


 弓彦は世界からそっぽを向き、ジュースを飲み始めた。


「そんなぁ、弓彦くーん」


 世界が弓彦の腕を掴み、どこかへ連れてこうとした。その時、どこからか笑い声が聞こえた。


「いやー‼ ほんっときれいだな。私の(ピー!)の方が……」


「とんでもねー下ネタ言うなァァァァァ‼」


 伏字が入るほどひどいレベルの下ネタを言ったショーミは、イータの手によって地面にめり込んでしまった。だが、ショーミはアルスの匂いでアルスが近くにいることを察すると、すぐに地面から這い上がった。


「おお勇者‼ こんなの所にいるとは‼ 我は運がいい。どうだ勇者? 桜の下でやらないか?」


「地面に埋まってろ‼」


 アルスの強烈な一撃が、ショーミを再び地面にめり込ませた。


「あーもー。静かに花見ができると思ったのに、変質者が現れるなんて聞いてないわよ」


「あの、まさかその変質者に俺も含まれてるんですか?」


「多分そう……」


 三毛は変態扱いされてショックを受けているイータにこう言った。弓彦は御代の肩を叩き、こう言った。


「会長。あの変態がきたからもう静かになんてできませんよ。追い出すこともできなさそうだし……」


「そうね……」


「テメーどさくさに紛れて御代会長の肩に触れてんじゃねーぞコノヤロォォォォォ‼」


 日枝の怒りの咆哮と共に、弓彦は空高くぶっ飛ばされた。




 そんなわけで、変態たちも何故か花見に合流してしまった。だが、世界とショーミは地面にめり込んだままなので、結果的には常識人であるイータが参加することになった。


「まともな飯を食ったの……久しぶりだよ……」


 と、イータは泣きながらおにぎりや唐揚げを食べていた。


「あの、普段何喰ってるんですか?」


「どぶ川にいる魚かザリガニ」


 イータの悲惨な食の状況を知り、弓彦たちはかわいそうと思った。


 そんなこんなで、楽しいお花見の時間は過ぎて行った。だが、放置プレイしたまま花見をしているアルスたちの姿を察し、地面に埋まっている世界とショーミが怒りで震えだした。


「私だって……」


「桜の下でキャッキャウフフしたーい‼」


 と、下らねー願望を叫びながら、二人の変態は復活してしまった。


「チッ、意外と復活する時間が早かったな」


「今度は地面に埋めるんじゃなくて、宇宙にまでぶっ飛ばそうか?」


「そうしてくれ」


 イータの返事を聞き、アルスはセイントシャインを構えて世界とショーミの元へにじり寄った。その姿を見て、慌てた二人は手元にあったヘルメットとピコピコハンマーを取り出した。


「何だそれ? というか、いつ持ってきた?」


「そこに落ちてたんだ」


「今から弓彦君とアルスを巡って勝負なさい」


 世界の言葉を聞き、アルスたちは戻って行った。


「いや、この流れだと勝負に乗るんじゃないの?」


「あほくさ、やってられっか」


「花見の途中なので」


「おいイータ‼ お前何向こう側に行ってるんだ? 戻ってこい!」


 と、変態共がギャーギャー騒ぎ出したので、アルスたちは仕方なく勝負に乗ることになった。その光景を見て、弓彦は呆れてため息を吐いていた。

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