第25話 変態魔王は発情期である


 とある河原に、大きくて青いテントがあった。その中から出てきたのは、魔王の部下、イータであった。


「はぁ……いつまでこんな生活が続くのやら……」


 彼はバイトをして食費を稼いでいるのだが、肝心な魔王ショーミが働かず、毎日毎日美少女の尻を追いまわしているのだ。そのせいで、ショーミは警察の厄介になっている。


 ため息を吐くイータは後ろを振り向き、再び大きなため息を吐いた。テントの中央には、大きないびきをかいて爆睡しているショーミの姿があった。


「はぁ……あの人も働いてくれたら、テント生活から抜け出せるのに」


 彼はぼやきながら火の魔法を使い、料理を始めた。すると、いきなりショーミが起き上がったのだ。


「どうかしたんですか? また美少女の気配でもしたんですか?」


 呆れながらこう言ったが、ショーミの苦しそうな顔を見て、イータは異常事態と察し、ショーミに近付いた。


「ショーミ様? 顔色が悪いようですが」


「ム……ム……」


「何を伝えたいんですか?」


「ムラムラする」


 返事を聞き、イータは心の中でいつかこいつをぶっ飛ばすと決めた。


「あああああ‼ ムラムラするんじゃァァァァァァァァァァ‼ もう誰でもいい、幼女でも少女でも熟女でも人妻でもいいからやらせてくれェェェェェ‼ 私の胸の高鳴りを止めてくれェェェェェ‼」


 大声でバカバカしいことを叫びつつ、ショーミは飛んでどこかへ行ってしまった。


「あ! あのバカ! クソッ‼」


 イータはバカを追う前に、スマホを取り出してバイト先に連絡をした。


「あ、もしもしイータです。実は、急用ができてしまいまして、シフトを変えてもらいたいのですが……はい。ありがとうございます。では今日休みを取りますので、その分は日曜日に出勤しますので。はい。分かりました。ありがとうございます」




 その頃、ショーミはアルスたちが通う学校の近くに降り立ち、周囲を見回していた。


「匂うぞ。匂うぞ匂うぞ! 美少女の匂いがプンプンと‼」


 気持ち悪いことを叫ぶショーミを見た周りの人は、スマホを取って警察に連絡を入れていた。だが、ショーミはそんなことを気にせず、変な動きで美少女を探し回っていた。その時、少女たちの会話が聞こえた。


「でさー、風紀委員の連中にばれちゃったんだよね、授業中にスマホいじってたの」


「草生える。ばれたあんたが悪いじゃない」


「だって仕方ないじゃん。あのゴリラの授業つまんないんだもん。だったら○魂のBL同人誌読んでた方がまだまし」


「いや、授業中にとんでもないの見るんじゃないよ……」


 この会話を耳にしたショーミは、口を大きく開けて女子高生の前に現れた。


「お嬢さん、今すぐラブホへ行ってフィーバーしませんか? それとも青い空の下でフィーバーしませんか?」


「な……何この人?変態?」


「あれでしょ。隣のクラスのアルスって人を追ってここにきた変態」


「そうです! 私が変態です! いや違う、魔王です!」


 ショーミはそう言うと、女子高生に襲い掛かった。


「ふひひひひひ、祭りの始まりじゃァァァァァァァァァァ‼」


「何やってるんだお前は⁉」

 叫び声の直後、空からショーミに向かって光が落ちてきた。


「ギャァァァァァァァァァァ‼ 熱い、超熱いんですけど、顔溶ける‼ マジで溶けてるんだけど‼」


「当たり前だ。それは聖なる光、邪なるものを打ち消す効果があるんだからな」


 そう言いながら、校門からセイントシャインを手にした臨戦態勢のアルスが現れた。


「おい魔王、登校中に暴れるな。皆に迷惑だろ‼」


「そんなこと知ったことか‼ そうだ! 勇者アルスよ、このまま我と一緒にフィーバーしようぞ‼」


「一人でやってろ‼」


 と、アルスはセイントシャインを振り下ろい、ショーミに一閃を加えた。


「ピギャァァァァァァァァァァ‼」


「はぁ、バカのくせに体力は有り余ってるからな貴様は……」


「アルスー。魔王は仕留めたかー?」


「お姉様、魔王の気配を察したので飛んできました」


 弓彦とムーンが、様子を見にきた。それから、外の騒動を聞いて三毛や世界などの生徒もやってきた。


「この魔王もしょうがない奴だな」


「一回半殺しにします?」


「そんなことをしなくてもいい、こいつに攻撃しても、すぐに回復する」


 アルスは紐を持ってきて、気を失っているショーミの体を縛り、どぶ川に投げ捨てた。


「騒動は終わりだ。戻ろう」


 アルスはそう言うと、教室に戻って行った。その時、三毛は一人で校門の外に出る世界を見つけた。世界のことだから、バカなことを考えているんだろう。そう思った三毛はアルスに近付いてこう言った。


「世界が何かするかもしれない」


「何かしたらぶっ飛ばすだけだ」


 この会話を聞いていた弓彦は、ため息を吐いた。


「あの女……今度は何をやらかすんやら……」




「ギャァァァァァァァァァァ‼ 濡れるよ臭いよベトベトするよー‼」


 どぶ川に落とされたショーミは、叫びながら助けを呼んだ。縄を縛られているせいで、体は動けないし、しかもその紐はちょっと特殊な紐で作られていた。そのせいで、体に力が入らないのだ。


「うわーん‼ こんな所で死にたくないよー‼」


「ショーミさん、これを手にしてください‼」


 と言いながら、長い棒を手にした世界が現れた。天の助けと察したショーミは、何とかそれに噛みついた。ショーミが棒を口にしたことを察した世界は、棒を振り上げてショーミを釣り上げた。


「た……助かった……」


「とりあえず汚れを取りましょう」


「水の魔法を使えるから、それで汚れは落ちる」


 その後、世界はショーミを縛っている紐を切り、ショーミは水の魔法で体中の汚れを落とした。


「魔王復活! で、何でお主がここにいるんだ? もしかして、私とフィーバーしたいのか?」


「私がフィーバーしたいのは弓彦君だけよ。それより、あなたはアルスの体が目的なんでしょ?」


「そうだ。今は女性だったら誰とでもフィーバーできるが、できるのであれば勇者とフィーバーしたい!」


「私に協力しなさい。そうすれば、アルスの体はあなたのものになるわよ」


「で、あの弓彦という坊主の体は自動的にお主の物になる……お主も悪よのう」


「いえいえ。魔王様ほどでは。とにかく、私がアルスの行動を封じるようなことをするから、その後であなたはアルスとフィーバーしてきなさい。ゆっくりじっくりとね」


「グヒヒヒヒヒ……あ、でも急に襲っても……」


「この際だから襲いなさい。その時にあなたの魅力をアルスに伝えなさい。体で。そうすればアルスはあなたの虜に……なるかどうか分からないけど、あなたの努力次第で虜になるんじゃない?」


「よしOK‼ 今すぐ学校に行くぞ‼」


 その後、世界はショーミの手を掴んだ。そのことを察知したショーミは学校に向かって飛んで行った。




 その頃、イータはショーミを探して町内を走り回っていた。


「ハァ……ハァ……どこだよあのバカ。いつもいつもいつも周りに迷惑をかけていることを知らないで、自分の欲のために動き回りやがって……」


「どうかしたんですか?」


 声をかけてきたのはムーンだった。イータはムーンのことを知ってはいたが、ここで戦うのはまずいと思い、こう言った。


「何でもないです」


「何でもないですではありません。どうして魔王の部下がここでばててるんですか?」


 ばれてたか。


 イータはそう思い、ムーンにこう聞いた。


「俺を始末するつもりか?」


「あなたを始末するようなことはしません。私は今から帰るところなんですから」


「あとで始末するのか?」


「面倒だからしませんよ。早く帰って受験勉強しないと」


「君はあのバカより立派だよ」


 そんな会話をしていたが、二人はショーミの魔力を察知した。


「あのバカ、また学校に向かってるのか?」


「お姉様の体が危ない‼」


 ムーンはそう言うと、急いで学校に向かって飛んで行った。イータは深呼吸をし、体調を整えた後、走って学校に向かった。

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