第5話 生徒会の言うことを聞きなさいっ!


 ある朝のことだった。アルスと弓彦が学校へ到着し、下駄箱で靴を履き替えていた。その時、アルスが人だかりを見つけた。


「ん? なんか人がたくさんいるな」


「なんかあったのか?」


「おーい、弓彦、アルスちゃん!」


 浦沢が慌てながら、弓彦の所に近付いてきた。


「どうした? そんなに慌てて」


「大変だよ! とりあえず、掲示板を見てくれよ!」


「掲示板?」


 話を終え、弓彦とアルスは人だかりができている掲示板へ向かった。そこには、生徒会からのお知らせと書かれた紙が貼られていた。


「えーっと……本日放課後、1年3組の崎原弓彦とアルス・ロトリーヌは生徒会室にくるように……はぁ⁉」


「どうした弓彦? そんなに大きい声を上げて」


「大変だよ……俺ら、生徒会に呼ばれた」


「生徒会? 何だそれは?王より偉いのか?」


 その後、弓彦はアルスに生徒会という存在が、どんなものかをアルスに説明していた。話を聞き、納得した。


「そうか、生徒の中で偉い存在か」


「俺ら、目を付けられるようなことを何もやってないけどなぁ……」


 頭を抱え、考え込んでいる弓彦を見て、浦沢はこう言った。


「いろいろあっただろ、他校との野球の練習試合の爆発騒動、剣道部でのバトル。そんでもって、この前はどんな手段なんちゃら同好会の騒動。ほぼ二人が絡んでんじゃねーか」


「野球と剣道の方は世界が騒動を起こしたんだけどな……」


「同好会の方はアルスちゃんが手を貸したんだろ?」


「うん」


「まーいい。とりあえず放課後にそこに行って話を聞けばいいんだな」


「多分お説教だろうよ」


 ため息を吐き、弓彦はこう言った。




 放課後。アルスと弓彦は、生徒会室の前にいた。


「あぁ……どんなこと言われるんだろう……」


 恐怖と緊張で、弓彦の顔色は悪くなっていた。そんな弓彦を見てか、後ろにいた世界が現れてこう言った。


「大丈夫よ弓彦君。何かあったら、私があなたを守るから」


「いやいい。余計ややこしくなる。行くぞアルス」


「うむ」


 アルスが扉をノックすると、中から少女の声が聞こえた。その声を聞いた弓彦はごくりと唾をのみ、扉に手を触れた。


「失礼します」


「し……失礼します!」


 アルスはいつも通り、弓彦は緊張しながら生徒会室の中に入って行った。


 中には三人の生徒が机に座っていた。中央の机には二人、男子と女子。そして窓側に置かれている大きな机には、小さな少女が椅子に座っていた。緊迫な空気に負け、弓彦はさらに緊張した。


「そんなに硬くならなくてもいいわ、弓彦君」


「は……はい!」


 アルスは察した。小さな少女が馴れ馴れしく弓彦の名を呼んだため、世界が怒り出して中に入ってくるんじゃないかと。だが、世界は入口からこっそりとこちらの様子を見ていた。その顔は、とても緊張していた。あの世界が手を出さないなんて珍しいと思っていると、少女はアルスの方を見て口を開いた。


「で、横にいるのが今噂のアルス・ロトリーヌさんね」


「あっ、はい」


 名前を呼ばれ、アルスは驚きながら返事をした。いきなり名前を言われたため、驚いたのだ。


「あなたと会うのは初めてね。まずは自己紹介から始めましょう」


 小さな少女がそう言うと、中央の椅子に座っていた男子生徒が立ち上がり、アルスに近付いてきた。そして、アルスの手を取りこう言った。


「俺の名は八幡やはた雍也ようや2年2組に在籍だ。君みたいな美しいお嬢さんと知り合えて光栄です。あ、メアドID交換しませんか? それともこの後コメ○でコーヒーでも飲みませんか?」


「ナンパはよそでやれや!」


 中央に座っていた女生徒が雍也に回し蹴りを喰らわせた。その後、倒れている雍也の上に立ち、女生徒が自己紹介を始めた。


「私は副会長の南野みなみの日枝ひえと申します」


「あ……ああ。よろしくお願いします」


 アルスと日枝は握手を交わした。そんな中、踏まれている雍也は顔を上げ、こう言った。


「あ……今日の日枝ちゃんのパンツは黒なんだね。セックスィー」


 その後、日枝のかかとが雍也の後頭部に命中した。


「失礼。そして……あそこにいる可愛くて美しくてプリティーなお方が」


「あんたが紹介しなくていいわ。自己紹介は私でするから」


 女生徒は椅子から降り、アルスに近付いた。


「私は生徒会長、斑御代。今後ともよろしく」


 御代はアルスを見上げ、こう言った。


「あの……どうして俺らを呼んだんですか?」


 弓彦がこう聞くと、御代は自分の机に戻り、上に置いてある資料に手を伸ばそうとしていた。


「アルスさんが起こした騒動についてのお話よ。この件に関しての情報は、生徒会にも伝わっている。ちょっと待ってね……」


 何度か手を伸ばしたが、小さな御代の体では、机に置いてある資料まで手が届かなかった。


「噂では……フンッ! フンッ‼ 何もない所から剣を出す……フンッ‼ 届けチクショウ……空を自由に飛ぶ……フンッ‼ フンッ‼」


「あの、俺が資料を持ってきましょうか?」


 弓彦が疲れ果てている御代にこう聞いたが、日枝が弓彦に睨んでこう言った。


「邪魔しないでください! 生徒会長が頑張って資料を取ろうとしているんですよ⁉」


「でも時間がかかって……」


「時間なんてどうでもいいの。頑張って、会長! あと少し、ほら、あと少しで手が届きますよ!」


 弓彦は時間がかかると思ってため息を吐き、机に近付き、資料を取った。


「どうぞ」


「何すんだ腐れポコ〇ン野郎がァァァァァァァァァァ‼」


 怒りに狂った日枝の裏拳が、弓彦の顔面に命中した。


「今の出会長の経験値がパーになっちまっただろうがァァァァァ‼ あと少しで人としてのレベルが上がるかもしれねーのに、邪魔すんじゃねーぞゴルァァァァァ‼」


「そこのド腐れメガネロリコンレズ痴女‼ 私の弓彦君に会心の一撃喰らわせてんじゃねェェェェェ‼」


 世界が叫びながら生徒会に乱入してきた。世界は日枝に向かって飛びあがり、急降下キックを当てようとした。


「一年の桂川世界さん。あなたにも話を聞きたいと思っていたところですよ。この前の野球の騒動と剣道部の騒動、あなたも絡んでいた……と言うか、騒動の元凶だと報告がありましたからねぇ」


「話を聞きたいんなら……まず私の弓彦君に謝ってからにしなさい」


「会長の邪魔をした男に下げる頭など存在しません」


「そう……なら、力づくで頭を下げらせるわ」


「できるものならやってみなさい」


 世界と日枝、二人の周りからオーラのようなものが現れた。そして、二人は宙に浮き、殴り合いを始めた。


「何これ? ドラ○ンボールかよ!」


 弓彦は空中戦を始めた二人を見て、こう叫んだ。そんな中、雍也が再びアルスにナンパしていた。


「この後、どこか行きませんか?」


「貴様のような軟派な奴が私に話しかけるな。私は貴様のような軟弱物の相手はしない」


「そんなきついこと言わなくてもいいじゃない……」


 振られ、そしてきついことを言われ、雍也の心は木端微塵に粉砕された。そんな中、雍也は世界と日枝の戦いに巻き込まれてしまった。


「オラオラオラオラオラオラオラオラ‼」


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄‼」


「ちょ、それ○ョ○ョじゃん、ドラ○ンボールのパロディじゃなかったの?」


「黙れ軟派野郎‼」


「テメーの股間のイチモツちょん切ってやろうかァァァァァ⁉」


 世界と日枝の拳が、雍也の頬に命中した。雍也は「ヤッターバァァァァァ‼」と、悲鳴を上げ、窓から落ちて行った。その様子を、丁度グラウンドで走っていた野球部員が見つけた。


「せんせーい、生徒会の軟派な人が落ちましたー」


「ほっとけー。これギャグ小説だから死にはせーん」


 生徒会の教室での騒ぎは、段々とうるさくなってきた。戦いを続ける世界と日枝、落ちたけどまた立ち直ってアルスにナンパする雍也、弓彦は静かにしろと言おうとしたが、先に御代が大声で叫んだ。


「静かにしなさァァァァァい‼」


 突然のシャウトの後、御代は泣き始めた。


「ウェェェェェン、なんで勝手に暴れまわるの? どーして誰も話を続けようと思わないのォォォォォ⁉」


「しまった! 会長、申し訳ありません!」


 日枝は世界との戦いを止め、何度も御代に土下座をした。ボーっとしているアルスたちにも、土下座をしろと言い、結局御代の機嫌が直るまで、皆で土下座をしていた。




 数分後、機嫌が直った御代は、話を再開した。


「では、話に戻ります。アルスさん。あなたは何もない空間から剣を出し、ドラ〇ンボールの○空のように空を飛ぶという、チートのような能力がありますね」


「チートではない、魔法だ」


「魔法でも何でもいいわ」


 御代は椅子から降り、アルスに近付いた。


「あなたに命令よ。今後一切、校内で魔法を使うことを禁止!」


「なっ……⁉」


 魔法の使用を禁止。それは、アルスにとって痛いことなのだ。


「魔法は便利です。魔法さえあれば、遅刻しそうなときに空を飛んで一気に移動できますし、セイントシャインなら包丁代わりになります」


「お前聖剣を何だと思ってるんだよ⁉」


「いいですか? あなたが魔法を使うたびに、騒動が広がります。騒動は魔法を使わなくても解決できます。私たちは、これまで自分たちの力で解決してきました」


 この言葉を聞き、アルスは困り果てた。その時、御代は手を叩いた。


「出てきなさい、三毛!」


 天井から、何者かが降りてきた。


「うわっ! いきなり降りてきた!」


「私は浦野うらの三毛みけ。一年、これでも生徒会の人間だ」


 御代は三毛の横に移動し、アルスにこう言った。


「これから一ヶ月、学校内では三毛があなたを監視するわ。何かあったらすぐに私の方に連絡が入る。もし使ったら、どうなるか考えておくことね」


 御代はこう言った後、アルスに勝ち誇った顔を見せた。アルスと弓彦は、三毛の顔をみえて、困った顔をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る