第3話 スクールデイズ
ある朝。
「じゃあそろそろ行ってきまーす」
「私も行ってくる」
制服に着替えた弓彦とアルスが、玄関で学校へ行く準備をしていた。弓彦母は笑顔で弓彦とアルスを見ていた。
「弓彦、車に気を付けてね。アルスちゃん、信号無視や交通違反している車を見ても、魔法で攻撃しないでね」
「分かった」
「うむ。了承した」
「じゃあ、行ってらっしゃーい」
その後、二人は一緒に登校した。その途中、弓彦はアルスにこう聞いた。
「あれ? アルス、いつ俺んとこの学校の生徒になったの?」
「今日からだ。昨日、登校してもいいと連絡が入った」
「昨日⁉ 俺知らねーぞ。つーか母さんはそのこと知ってたの⁉」
「サプライズだろ。とにかく、今日からよろしくな」
「あ……ああ……」
弓彦は溜息を吐き、こう言った。後ろの電柱に隠れている世界がこの様子を見て、殺意の波動を出していた。
「あの女、ついに同級生になりやがった……どうすればいい? そうか、殺すしかないじゃない。じゃあいつ殺るの? 今でしょ!」
世界は電柱に登り、上から飛び降りてアルスに奇襲を仕掛けようとした。だが、走ってきた痛車にぶつかってぶっ飛ばされた。
弓彦がいる教室内にて、朝のホームルームが行われた。先生は咳ばらいをし、声を出した。
「えー、転校生を紹介する。アルス・ロトリーヌさんだ。この前の世界さんの爆弾騒動で知ってる人もいると思うが紹介します。では入ってきてくださーい」
先生の説明の後、アルスが教室に入ってきた。
「では、自己紹介を」
「うむ。私はアルス・ロトリーヌだ。この世界に転移してまだ日が浅いが、よろしく頼む!」
自己紹介の後、世界を除く生徒達は拍手をしたり、よろしくねと声を出した。
「じゃあ席は……世界さんの隣で」
先生の言葉を聞き、世界はとっても嫌そうな顔をした。
「貴様が隣か。面倒を起こすなよ」
「あなたが弓彦君に近付かなければ起こさないわよ」
「あーそこ、ケンカしない」
にらみ合いをするアルスと世界を止めるため、先生が声をかけた。
「では、朝のホームルームはこれで終了。では、一時間目の先生がくるまで騒ぎを起こさないように」
と言って、先生は去って行った。その直後、多数の生徒たちがアルスの元に集まった。
「ねぇねぇ、異世界ってどんな感じ?」
「モンスターとかいるの?」
「クリスタルとかある?」
「やっぱドラ○エみたいな感じ?」
「スリーサイズ教えて! すみません、やっぱいいです」
無数の質問に対し、アルスは困っていた。
「いやー、さすがに一度に大量に質問されたら、答えるのが難しいな……」
「皆、細かい話はあとにしてくれよ。皆が気になるって気持ちは分かるけどさ」
困ったアルスを助けるため、弓彦はクラスメイトにこう言った。そんな中、世界がこんなことを聞いた。
「いつも弓彦君の隣にいて、どんな感じ?」
クラスメイトの視線が、弓彦とアルスに集まった。アルスが余計なことを言ったら確実に死ぬだろう。そう察した弓彦は、アルスに変なことを言うなと目で合図をしたが、アルスは真顔でこう言った、
「まぁ、安心するな。召喚先が弓彦の家でよかったと思っている」
この言葉の後、クラスの男子たちが弓彦の周りに集まり、茶化し始めた。
「やるねーコノコノー」
「フラグ建ては順調ですかぁ?」
「おい、俺とアルスはまだそんな仲じゃあ……」
「じゃあいずれはそんな仲になるってこと?」
殺意のオーラを放っている世界が、弓彦に近付いてこう言った。
「いや……分かんねーよそんな……」
「そう。よかった、弓彦君のお嫁さんは、私だからね」
と、笑いながら世界はこう言った。そんな中、弓彦は小声でこう言った。
「絶対にお前と結婚したくない」
その後、アルスが加わった中でも、授業は順調に進んでいった。そんでもって、午前中の授業は終了し、昼休みの時間となった。弓彦が弁当を食べている時、アルスがやってきた。
「一緒に食うか」
「ん。いいよ」
アルスは弓彦の机の前に椅子を置いて座り、弁当を出した。
「午後の授業はいつからだ?」
「五時間目は一時半からだよ。それまでに飯食って、だらだら過ごせばいいよ」
「だらだらか。まぁ、たまにはいいか」
アルスが水稲のお茶を飲んでいる時、クラスの女子がアルスの所に集まった。
「アツアツだねー」
「家でも一緒に食べてるの?」
「家族と一緒にな」
「あはは、弓彦君と同じ弁当」
「ん? 本当だ。一緒にしたんだな」
笑いながら、女子たちは話をしていた。そんな中、世界が弓彦の背後に近付き、フォークに刺した唐揚げを弓彦の口に入れようとしていた。
「弓彦君、私の愛情がたっぷり詰まった唐揚げを食べて」
「おい、中に入っているのは鶏肉だけだろうな」
「ええ」
「本当だよな。この前はキスマークまみれのコロッケを食わされたんだぞ」
「反省してるわ。だけど今回のから揚げは大丈夫よ。だって私の……やだ、恥ずかしいからこれ以上言わせないで!」
と、世界は顔を赤くしてどっかいってしまった。
「おい、言うと恥ずかしいもんを唐揚げの中に入れるな。そして人に食べさせるな!」
弓彦のツッコミが教室中に響いた。
放課後、クラスの女子がアルスに話しかけてきた。
「ねぇアルスさん、剣道って興味ない?」
「剣道? もしや、剣が関係するものか?」
「うんそうだよ。簡単に言えば剣を使うスポーツかな」
剣を使うと聞き、アルスの目が輝いた。
「面白そうだな! ずいぶん剣を振るってないから、腕が落ちてないか心配だったのだ!」
「やる?」
「もちろんだ!」
と、嬉しそうにアルスは剣道部へ向かって行った。話を聞いていた弓彦は不安に思い、アルスと一緒に剣道部へ向かった。
剣道部へ着き、弓彦は剣道部の女子に話しかけられた。
「やっぱりアルスちゃんが気になるのね」
「ああ。何かすると思って不安なんだよ」
「でも、私が一番不安なのは世界ちゃんなんだよね」
と言って、女子生徒は部室の出入り口を見た。そこには、アルスを睨んでいる世界の姿があった。
「あいつ、いつの間に……」
「このパターンだと、絶対になんかあるよね」
不安そうに弓彦と女子生徒が話をしていると、本のページが閉じる音が聞こえた。
「ルールは読んだ。準備運動も済ませたぞ。どうすればいい?」
準備を終えたアルスが、こう言った。
「じゃあ、誰かアルスさんと一試合初めて」
「分かりました」
そう言ったのは、武者鎧を装備し、どこかで手に入れたか分からないが黒くて禍々しいオーラを放つ刀を持った世界がこう言った。
「世界さん、あなた剣道部員じゃないわよね」
「今だけ部員にさせて」
「そんじゃあその物騒な装備を外して」
「外したいんだけど、外れないの。呪われているのかしら?」
「何でそんな物騒な物を装備するの!」
「武器が欲しかったから」
その時、世界の体が震え始めた。
「え? 何? どうかしたの?」
「我は……古の武将……
「え? 世界さんじゃないの?」
「この女の体は我が乗っ取った‼ この女を取り戻したかったら、我を倒すがいい‼」
「誰かァァァァァ‼ 世界さんを助けて‼」
悲鳴を聞いたアルスが、世界の体を乗っ取った権平の前に立った。
「私が相手になろう」
権平はアルスを見て、にやりと微笑んだ。
「ほほう。かなりのやり手と見た」
その後、二人は舞台の上に立ち、武器を構えていた。
「じゃあ一試合だけだよ」
「分かった」
「よかろう。すぐに終わらせてやる」
二人は構えを取り、審判が中央に立った。
「では……始め‼」
直後、権平の背後にアルスが現れた。弓彦や剣道部員たちは一体何が起きたのか、分からなかった。アルスは竹刀を権平の頭に当て、こう言った。
「面を取った。これで一本だろ?」
今の言葉を聞き、部員たちは驚きの声を上げた。そんな中、権平は声を上げてこう言った。
「もう一度だ! もう一度我と勝負しろ‼」
「分かった。納得するまで相手になろう」
アルスはそう言うと、試合開始時の定位置に戻った。それから、数時間後。
「も……もう一度……勝負だ……」
「お前なぁ、これで百戦目だぞ。いい加減負けを認めろ」
アルスはため息を吐きながらこう言った。百回戦っても一回も勝てなかった権平は悔しさのあまり、歯ぎしりを始めた。その時だった。
「あなた、私に力を貸しなさい」
一時的だが、世界が体を取り戻したのだ。だが、すぐに権平に戻った。
「力を貸せだと? 何を言っている?」
「あなたはあいつに勝ちたい。私はあいつを殺したい。何はどうあれ、あいつを倒したいという理由は一緒でしょ?」
「いやまぁ勝ちたいけどさ、我はあの娘を殺したいとは思っていないよ。それに、殺したら捕まるじゃん」
「大丈夫よ。警察になんか言われても、悪霊のせいですテヘペロって言えば問題ない」
「問題だよ」
「悪霊は黙ってろ。いい? 竹刀じゃダメ、あの子を殺すにはあなたの刀が必要よ」
「いや、使っちゃダメだよ。一応試合形式だから竹刀使ってるけどさ」
「使うしかないの‼ いいから貸しなさい‼」
「え? ちょっと待って!」
世界は権平の刀を持ち、アルスの前に立った。
「さぁ、リベンジマッチよ」
殺意丸出しの世界を見て、アルスは呆れていた。
「毎度毎度呆れるな……こいつが異世界に行ったとしても何とか生きていけそうだな……」
アルスを倒す気満々の世界を見て、弓彦も呆れていた。
「アルス、あいつを懲らしめてくれ。本気出していいから」
「ああ」
その後、もう一度二人は舞台の上に立った。
「これで終わりにしてね。じゃあ始めー」
審判のやる気のない声の直後、アルスと世界は同時に走り出した。
「くたばれェェェェェェェェェェ‼」
刀を振り回しながら走り出す世界を見て、アルスは横に移動し、攻撃をかわした。
「お前は冷静になれ、落ち着け」
と言って、アルスは竹刀で世界の頭を叩いた。
「はい一本。アルスさんの勝利」
この直後、世界が装備していた武者鎧が崩れ始めた。そして、崩れた鎧の欠片の周りに黒い煙が現れた。
「もういい……我以上に強い奴がいるなんて……悔しい……もういい、成仏しよう」
武者鎧に憑りついていた権平の霊は、悲しそうな声を上げながら天へ昇って行った。
その日、弓彦とアルスは一緒に帰っていた。
「なぁ、結局剣道部に入部するのか?」
弓彦の質問に対し、アルスは考えながらこう答えた。
「入ろうと思う。剣を扱うのは好きだからな」
「それならいい。好きなことをするのが部活だからな」
「そういうお前は何部に入っているんだ?」
「俺? 俺はパソコン部だな」
「お前……まさか学校でエロサイトを」
「見るわけねーだろ‼ 小説を書きたいからだよ」
「小説? お前、読むだけではなく書くのも好きなのか」
「ああ。今はネットで書いた小説を上げてるけど、将来いつか出版されたいんだ」
生き生きと語る弓彦を見て、アルスは微笑んだ。
「いいな。お前には夢があって」
「アルスには夢はないのか?」
「そうだ。いつも戦ってきたから、夢を持つことなんて考えていなかった」
アルスの言葉を聞き、心配そうに見つめる弓彦を見て、アルスはこう言った。
「心配するな。夢はこれから見つける」
「これからって……」
何も考えていないアルスにツッコミを入れようとしたが、弓彦は微笑んできたアルスを見て、ツッコミを辞めた。
「とりあえず今は学校生活を満喫しようと思う。この世界での常識や勉学を学びたい!」
「そうだな。まずはこっちの世界の常識を知らないと、夢を作るどころじゃないからな」
二人は笑いながら帰って行った。その後ろでは、世界が後ろから睨んでいた。
「あの女……楽しそうに弓彦君と帰って……私なんて弓彦君から警戒されて一緒に帰ったことないのに」
その時、変なおっさんが下品に笑いながら、世界に近付いてきた。
「へっへっへ……嬢ちゃん、いいもの見せてやろうか?」
「あぁ? 少し黙ってろ、露出狂の変態クソ爺。粗末で小さいナニを見せて何が楽しいんだ?」
この時、世界の顔は鬼のような顔になっていた。それを見た露出狂の変態クソ爺は後ろに倒れ、全身震えながら逃げて行った。
「うわーん! 怖いよ助けておまわりさーん!」
「そのまま交番行って捕まっちまえ変態野郎‼」
泣き叫び、逃げていく変態野郎に向けて、世界はこう叫んだ。
「もう、何で今時露出狂の変態がいるのよ。あ! あの変態のせいで弓彦君を見失ったじゃない。あーもう、ムカついてきた! あの変態を一発ぶん殴ってやればよかった」
イライラしながら、世界は帰って行った。
翌日。弓彦はアルスの掛け声で目が覚ました。
「何やってんだあいつ……」
起き上がってあくびをし、アルスの姿を探した。窓を覗くと、庭で竹刀を振っているアルスの姿があった。弓彦は下に降り、アルスに声をかけた。
「ん? おお、おはよう弓彦」
「おはよう。アルス、こんな朝早くから剣道の練習か?」
「そうだ。今日から剣道部員だから、練習しないといけないからな」
「練習はいいけど、張り切りすぎてばてるなよ」
「私は勇者だ。体は人一倍丈夫だ」
「はは。そうか」
「はいはーい。お二人とも、朝ご飯だよー」
と、姉がお盆をもって姿を見せた。
「分かったー。じゃあ俺らも台所に行くか」
「そうだな。訓練はここまでにしよう」
アルスは竹刀を袋にしまい、弓彦と共に台所へ向かった。そして食事をして学校へ行く支度をし、靴を履いて玄関を開けた。
「じゃあ行ってくるよ」
「行ってきます」
と言って、二人は学校へ向かって行った。
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