第4話 湖での出会い
「…ん……柔らかい…」
静寂が包む夜の森に空にはとても綺麗な星々が輝いていた…そして柔らかい…
「そっ…その…大丈夫かい?」
男性の服装をしたエイヴェリーさんが僕の顔を上から覗き込むようにして話しかけてきた。
(……ハッ…これはまさか…伝説に伝わる…膝枕…!)
「だ、大丈夫です」
「そうかよかった…それよりも…見た?」
エイヴェリーさんは、先程とは打って変わって鋭い表情でこちらを見ていた。
「な、何のことでしょうか…」
ヒナタは咄嗟に状態を起こしたが下半身だけ湖につかっていた為、そのまま湖の中で盛大にこけた…
「大丈夫か?」
「プハッ……大丈夫です。それより僕が何を見たというんですか、僕は水浴びをしに来ただけで何も見ていませんよ!」
「はぁ〜、人と話をする時は人の顔をしっかりと見て話しをすることを勧めるよ、そうでなければすぐ嘘だとわかるからね…」
「うっ…」
「君の名前は?」
「ヒナタ・アカツキです」
「ヒナタ・アカツキ…あぁ、前噂になっていた男の子か…」
「その…ついでにどんな噂か聞いてもいいでしょうか?」
「たしか…広場で猫と話していた変わり者だとか…」
(ぐはっ…)
「あとは…故郷のヤマト王朝で鬼と追いかけっこを好む凶人だとか…そういった噂だよ」
「………」
「どうしたんだい?そんな顔を真っ赤に染めて?」
「いえ…何でもありません」
ヒナタは、あまりの恥ずかしさに顔を両手で覆いエイヴェリーの顔を直視できないでいた。
「それにしても顔に似合わずよく鍛え上げられた肉体だね…それにその傷あとは…」
エイヴェリーさんは、僕の身体をじっくりと見始めた。
「あの〜、そろそろ着替えてもいいですか?」
「…す、すまない」
ヒナタは、水浴びを終え服を着たあとエイヴェリーの下へと戻った。
「それはそうと、ヒナタくんはこんな時間まで一体何をしていたんだい?」
「森の中で剣の鍛錬をしていたんですよ」
「そうなんだ…君は努力家なんだね…」
エイヴェリーさんは、優しい笑顔でそう答えた…
(…その笑顔をずるい、男性も女性もドキッとしちゃうじゃないか…これはあれだ、世に言う王子様系女子というやつだ)
「もう夜も遅いことですし帰りましょう。部屋まで送っていきますよ」
ヒナタは、そう言ってエイヴェリーに背を向けた。
「…聞かないのかい?」
「何がですか?」
「何故、女の僕が男性の格好をして学園に通っているのか何故君は聞かないんだ…」
「聞いてほしいんですか?」
「それは…」
「たしかに色々と気にはなりますが、初対面の女性にそんな事は聞きませんよ。それに、エイヴェリーさんにも何かと事情があるのでしょう?」
「…そうだ」
「ならそういうのは、あなたが僕と仲良くなった際に相談したくなったら話していただければいいですよ」
「僕が君と馴れ合う気はないと言ったらどうするつもりなんだ?」
「その時は残念だとは思いますが、誰かに言いふらすようなことはしませんよ」
「…ヒナタくん…よく周囲のみんなに変わり者だと言われないかい?」
「ふっ…逆に言われすぎて慣れてしまいましたよ」
僕は今の自分が最大にできるドヤ顔をエイヴェリーさんに向けた。
「ぷっ…ウフフフッ…アハハハハッ…はぁ〜、ヒナタくん…君は面白いね」
「…初めて言われましたよ」
「エイヴェリー・アルウェンそれが僕の本名だよ…訳あって平民の身分で学園に通っている」
「ヒナタ・アカツキです。あらためてよろしくお願いします」
僕は、エイヴェリーさんと握手を交わしその後は一緒に寮へと戻った
〜数日後〜
本日の講義が全て終わり、教室では学生が会話を楽しんでいるなか、ただ一人ヒナタは机の上で力尽きていた。
(誰か…助けて…)
「あなた…戦闘以外は点で駄目ね…」
「そうですよ…魔法の講義にはついていけてますが、その他の計算やら魔法文字の解説や解釈なんて僕には全く理解できませんでしたよ…!」
「ヒナタくん、その調子で大丈夫なのかい?」
「そう見えますか?」
(右隣には、レイナさん…前の席にはエイヴェリーさん…普通の男性なら喜ぶんだろうな…他の女性陣はエイヴェリーさんのことを男性だと思っているから変な恨みは買わないだろうけど…大丈夫だよね…?)
「それにしてもエイヴェリー、王族や皇族などを嫌うあなたが何故ここにいるのかは知らないけれど…何か心境の変化でもあったのかしら?」
「たまたま、ヒナタくんと昨日知り合って仲良くなっただけだよ…レイナさん」
(……女性同士の会話って聞いてるだけで怖いんですけど…)
「…それよりも早く修練場に行かなければ遅刻しますよ」
「レイナさんは、第一修練場だよね」
「そうね…」
「僕とヒナタくんは、第二修練場だからこれで失礼するよ。行くよヒナタくん」
「わかりました」
「ねぇ…」
「はい」
「午後は何時もの場所で鍛錬に付き合ってもらうわよ…」
「…今日は休んだ方が…」
「…あなたに拒否権はないわ」
「…はい」
ヒナタは、俯きながらエイヴェリーの後ろをついて行くのであった…
〜修練場〜
第二修練場では300人以上の学生が集まり、目線の先には二人の騎士が立っていた。
「注目…!」
カールさんが学生全員が前を向くようにそう叫ぶと、ロイドさんが一歩前に出て話を始めた…
「さて…諸君も知ってのとおり、魔導競技際まで残り一週間となったわけだけど…緊張している人間もいるとは思う。だけど、競技祭には各国の重鎮がこの国に訪れることになっている。自分の実力を見てもらうには絶好の機会だ、今までの成果を存分に発揮してくれ…!」
「「はい…!」」
「ただ…この競技際には、君達がまだ会ったことのない学園の先輩達も参加することとなっている。各人出る種目は決まっているだろうけど、本当に自信がある者だけ学年対抗戦に参加するように…!」
学生全員が息を呑む中、ロイドさんはいつも通りの笑顔でみんなにこう言った。
「君達なら、きっと大丈夫だ…心配することはない。君達が今緊張しているように向こう側も今年の新入生がどれほど強いのか知らないのだから…思う存分気楽にやりたまえ」
準特級騎士のその励ましの言葉に緊張していた学生の顔が少しだけ和らいだ…
「堅苦しい話は終わりにして、訓練を始めようか」
それぞれが武器を手にとり、引き締まった顔立ちで訓練を始めた…まるで静かな闘志を燃やすように
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字や脱字を発見しましたら、教えていただければ幸いです。
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