第12話 霧に潜む恐怖

 深い霧の中でヒナタは木の上で異常がないか監視を始めていた…


(今のところ…大丈夫そうかな…)


「ん?この森に来ているのは215名だったはず…何度数えても211名…気のせいかな?」


(この森は、魔力探知が使いたくても全く使えない。魔力が乱れているのか…)


「おい、見つかったか?」


「駄目だ、精霊が全く現れてくれない」


「もう少し奥に行ってみるか?」


「でも、教授が駄目だと言っていただろう?」


「少し奥に行っても気づかれないわよ」


「たしかに、あの教授は俺達が箒で好き勝手に飛行してても辞めさせなかったし大丈夫か…」


「そうそっ…グハッ」


「カハッ…」


「クヘッ…」


「アべッ…」


 ヒナタは、4組の男女の懐に潜り込み刀の柄や肘などを使いあっという間に気絶させた…


「は〜、面倒くさい…これで20人目」


(何故こうも好き勝手にやるのかね…)


 「とりあえず、天幕まで引きずっていくかな」


 ヒナタは、生徒4人を引きずりながらカルナ教授の下に向かった。


「あっ、ヒナタくんこっちですよ〜」


「お待たせしましたカルナ教授」


「いえいえ、学長から聞いた時は驚きましたがヒナタくんのおかげで面倒事は避けられそうです」


「それが、生徒が4人いなくなっているんですがどうしますか?」


「……仕方ありませんが最初言った通り、時間までに帰ってこなかったら死亡とします」


「…そうですか」


 ヒナタは少し残念そうな顔をしながらそうつぶやいた。


「ヒナタくん、残念ですがこれが魔法師を目指すということです。この世界は死と隣り合わせ、受け入れなければ生き残ることはできません」


「えぇ…わかっています」


「とくにここは精霊の森、私達一流の魔法師ですら一人で入るのを躊躇う場所です。森の奥には森に迷い込んだ危険な魔物が生息しています。ヒナタくんも気をつけて下さいね」


「わかりました。僕は、引き続き森で監視を続けます」


「お願いします」


「それでは…」


 ヒナタは、その場からいなくなりカルナ一人だけとなった…


「さて、この子達はどうしよかな」


 天幕に連れてこられた生徒はこの後、評価を限界まで減点され留年となるのはまた、別の話…


〜精霊の森〜


 一方レイナは、他の5人の生徒達とともに行動をともにしていた…


「この度は、我々と行動をともにしていただきありがとうございます」


「それにしても、相変わらず美しい…」


「私達のことを覚えていらっしゃいますでしょうか?」


「えぇ…ダリアン子爵家の双子にヤーダ男爵家の御息女、アルダン伯爵の娘とダン男爵の息子でしょう。あなた達のことは嫌と言うほど覚えているわ…」


「今回の郊外学習は我々にお任せください。レイナ様には素晴らしい精霊をご用意します」


「あなた様は我々の憧れている帝国の花ですから」


(うわべだけの人達ばかり…この人達の目的は私の地位だけ、本当にくだらない…)


「それにしても、精霊が一体も見つかりませんね…」


「危険な魔物でもいるんじゃないか?」


「どう思いますか、レイナ様?」


「…もし、それなら魔物の足跡などが何処かに残っているはずでしょう」


「たしかに言われてみればそうですね…」


「流石、レイナ様です」


「不気味な雰囲気ですね…」


 時間が経過するごとに霧は濃くなっていき、いつどんな魔物に襲われるのかわからない中、レイナと他の5人はその場から動けずにいた…


「ん?地面が揺れていませんか…」


「気のせいじゃ…」


「いや…揺れているわね」


 生い茂る木々の間から一体の人形の魔物が姿を現した…青色の肌をした1つ目のモンスター


「あれは…トロール」


「何故…C級のモンスターがここに…」


 この世界では、魔物はE級〜SSS級の八段階にわかれており、そのなかでもC級とは一等下級騎士または魔術師団の一等下級魔術師が一人で対応する相手…学園の生徒からしたら絶望でしかなかった…


「む、無理だ…」


「逃げるぞ!」


「いいえ、無理だわ…もうこちらに目を向けているもの」


「全員戦闘体勢!レイナ様を守れ〜!」


    

「土魔法・岩石弾」


「炎魔法・火炎焔」


「風魔法・風刃」


「闇魔法・闇の縛鎖」


「水魔法・水の大蛇」


「やめなさい、あなた達!」


 五人がトロールに向かって中級魔法を一斉にくらわせた…


「やったか…!」


 煙が上がり、トロールが片手を失い立っていた。


「ウォ〜!」


「逃げるわよ…!」


「しかしレイナ様、我々の魔法は奴に効いています。このままだったら倒せますよ」


「そうです。ご安心下さい」


「あなた達、気づいていないの!」


「何がですか?」


「私達…囲まれているわ」


「「…!」」


「そんな、馬鹿な…」


「何だ、この数は…」


 周囲を見渡すと、20体のトロールに囲まれていた…


「おいおい、学生の中にもできそうな奴がいるじゃねぇか」


「誰…!」


 霧の中から、一人の灰色髪の青年とそれに付き従うように黒いローブに身を包んだ魔法師が十数名現れた…


「ん、俺達か?俺達は、イーブルベクターっていう組織の人間だ」


「…!」


「イーブルベクターだって…あの犯罪者集団が何でこんな所に…」


「あの灰色の髪に右目の縦傷…まさか、騎士殺しのギプス!」


「ギプスって言ったら、二年前に王国のカルト騎士団を一人で壊滅させたっていうあの騎士殺しかよ…」


「おいおい、俺も学生に知られるようになるとは…有名になったもんだ」


「何故、あなたのような犯罪者がこんなところにいるのかしら…」


「その、黒い髪に赤い瞳…もしかして、帝国の皇族か?」


「だったら何だというの…」


「キヒヒヒッ…マジかよ、とんだ拾いもんだ!」


「ギプス様、早くこの者ら連れて行かなければゼノン様が黙っておりません」


「チッ、わかってるよ。そういう事でお前らを連れて行く、死にたくなかったら大人しくしろ…」


「誰が、お前達について行くか!」


「ふざけるな!」


「そうか、そうか…暗黒魔法・影の狩場」


 ギプスが魔法を発動すると、二人の男子学生は下から伸びる影によって串刺しになり、血を噴き出しながら絶命した…


「い、イヤ~!」


「し、死んだ…」


「おい、こうなりたくなかったら大人しくついてこい。二度は言わねぇ…」


 ギプスは、何時でも殺せると言わんばかりに身体から魔力を放った…


「…な、何て魔力だ」

 

「身体が動かない…」


「こ、こんなの勝てるわけがないじゃない…」


「……行くわよ」


「で、ですが!」


「このままだと、どちらにしろ死ぬわ…」


「話がわかる奴がいて助かるぜ…お前の名前は?」


「……レイナ・アルカナよ」


「よし、お前らこいつは俺が連れて行く…」


 そう言って、ギプスは魔法を解きレイナの腕を掴み配下の横を通り過ぎた…


「あとは、どういたしましょうか?」


「そうだな…あと三人はトロールのエサだ」


「なっ!」


「かしこまりました…」


「話が違うじゃない、離しなさい!」


「いいねぇ〜、その目…うるせぇから少し黙ってろ」


「カハッ…」


ギプスは、レイナの意識を刈り取った…


「やれ!」


 配下は、左手にあるブレスレットをかざし、トロールを動かした…


「や、やめてくれ…」


「いや…イヤ~!」


「な、何でも、何でもしますから、助けて…」


 近づいてくるトロールに無ずすべなく掴まれ喰われていく…その光景はまさに強者が全ての世界だと言わんばかりに…


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 最後まで、読んでいただきありがとうございました。誤字や脱字などがありましたら遠慮なく仰っていただければ幸いです。

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