第6話 食卓

 あれは七年前の桜咲く春の時期、師匠が家を留守にしていたときのことだった。


 ちょっとした好奇心でヤマト王朝の貴族街に一人で行ったときに、僕は余りにも綺羅びやかな世界が視界にうつり、汚れていた和服で歩くのが恥ずかしくて建物の影に隠れていた。


「いけません。お嬢様!」


「別に大丈夫よ」


 誰かが僕の目の前に立ち声をかけてきた。


「ねぇ貴方!」


 僕が顔を上げるとそこには、とても綺麗な一輪の緋色の花と見紛うような少女が手を伸ばし話しかけてきた。


「私は、ツバキ・イチジョウ…貴方は?」


「ヒナタ・アカツキです…」


「下を向いていないで、貴方もこっちに来なさいな」


 少女は、僕の手を握りながら走り出した。


 今思えば、これが僕の初恋だったのだろう…


「……ん…」


 朝日が、僕の顔をここが現実だと言うように眩しく照らした。


「……夢か…」


「起きたのね…」


「おはようございます」


「今から食事に行くけど、あなたもどうかしら…」


 初めてレイナさんが積極的に僕を食事に誘うなんて…やはり夢か?


「あなた、今とても失礼な事を考えていたでしょ」


「…いいえ」


「行くの、行かないの」


「…行かせていただきます」


 この学園の寮では、朝食と夕食のみ無料で食べることができる。


(今日の朝食は…アーモンドフィッシュの塩焼きか…)


 僕とレイナさんは食堂に入り、並べられた料理をトレーに乗せて席に着いた。


「いただきます」


「…何故、ヤマトの人間は食事をする前に合掌をするのかしら」


「あぁ、他の国ではしませんもんね…僕の親が言うには、命を頂くからだそうです」


「命を頂く?」


「食材となった動物や植物に感謝と敬意を表すためだとか…」


「……それはとても素敵ね…」


(あれ、いま一瞬レイナさんが笑ったようにみえた)


「私もやってみようかしら」


「えぇ、是非」


 僕達が食事をとっている中、まわりからこんな会話が聞こえてきた。


「おい、あいつじゃないか?」


「あぁ、間違いない。いつも刀とかいう剣をぶらさげている奴だ!」


「昨日の訓練で一等中級騎士と張り合ったって話だぞ」


「でも、あいつ広場で猫と会話してたらしいぜ」


「やっぱり、薬でもやってんじゃないのか?」


 ヒナタの顔は真っ赤になっていた…


「あなた…猫と会話をしていたの?」


「……違わないけど違います」


「隣いいか?」


 後ろを振り返ると、一人の金髪イケメンと二人の少女が立っていた。


「レオンさんおはようございます」


「おはよう。ヒナタ」


「いい朝だな」


「どうも…」


「久しぶりだな、レイナ」


「そう呼ばれるほどあなたとは親しくないのだけど」


(あれ、二人は知り合い…?)


「ちょっとあんたね!」


「カレン!」


「なんで、止めるのよサクラ!」


「とりあえず周囲の目もありますし、座ったらどうですか?」


「あぁ、そうするよ」


席は、レイナさん、サクラさん

   僕、レオンさん、カレンさん


 という形で席に座った。


「そういえば聞いたぞヒナタ、お前が一等中級騎士と走りで張り合ったって…あれは本当か?」


「……まぁ、本当です」


(あれは、完全な判断ミスです)


「凄いじゃないか、一体どうやってついて行ったか教えてもらってもいいか?」


「…僕の住んでいた地域で鬼ごっこという遊びがはやっていまして、子供の頃から鍛えられていたんですよ…」


「どういった遊びなんだ?」


「サクラも知らないの?」


「あぁ、私は武家の娘だからな余り貴族街から出ることはないんだ…鬼はヤマトに生息する魔物だろう?」


「まぁ、簡単にいうと隷属魔法をかけた鎖を鬼に嵌めて必死に追いかけられるという遊びで、逃げる側も命をかけて逃げなければならないんです」


(あぁ、思い出すな…師匠に鬼の巣窟に放り込まれて、一週間のサバイバル生活をしいられたことを…)


「お前の住んでいる地域住民は幼少期から過酷な遊びを好むんだな」


「私も自国の民の話を聞くことができてよかった」


(よし、上手く騙せた)


「道理であんたの足が速いわけね」


「………」


 流石にレイナさんだけはそうはいかなかったか…


一方、周囲にいた他の生徒の反応はというと…


「やっぱり、ヤマト王朝とは戦いたくないな…」


「まさに、凶戦士だな」


「怖すぎるだろ」


といった感じである。


 食事を終えたレイナさんは僕の足を踏みつけて、早くここから抜け出したそうにしていた。


「ごちそうさまでした。では、レオンさん、サクラさん、カレンさん僕達はお先に失礼します」


「あぁ、いい話が聞けてよかった」


「いいえ、またお話しましょう」


 僕とレイナさんは食堂をあとにし、部屋に戻り今日の講義の準備をしているとレイナさんが話しかけてきた。


「ねぇ」


「はい、なんでしょうか?」


「編入日のことを覚えているかしら」


「……ボディーブローをくらった時のことですか?」


「…ふざけているのかしら?」


「すみません」


「私に話しかけないでと言った時のことよ」


「あぁ、たしかそんなこと言っていましたね」


「もしかして、忘れていたの?」


「だって、レイナさん何かしら僕にコンタクトをとってくれていたので気にもしていませんでした」


「…不快には思わなかったのかしら?」


「う〜ん、レイナさんは根が優しい人だと思っていたので何も思いませんでしたよ」


「……変な人ね…」


(また、笑った!)


「あの発言は撤回するわ」


「ありがとうございます」


 少しだけ打ち解けることができたとそう思ったヒナタであった…


___________________________________________________


 最後まで読んでいただきありがとうございます。

頑張って、内容を考えながらストーリーを作るのはやはり難しいですね。

 誤字や脱字を見つけた方は遠慮なく送っていただけると幸いです。


 最近部屋が寒くなってきて、なるべく暖房を使いたくないので最近は毛布にくるまりながら芋虫みたいに寝ています。 


皆さまも風邪をひかないように気をつけて下さいね


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