第4話 新たな出会い
午前中の講義が終わり、ヒナタは一人学園の広場にあるベンチにて項垂れていた。
「は〜、僕みたいな服装をしている人は誰一人として居なかったな…」
ここは名門ルドガル学園、当然貴族や王族などの上流階級の学生が通っており、数少ない平民出身者でも身なりには気をつかっている。
ヒナタの場合は刀を帯刀している為、まだマシに見えるだけで帯刀していなかったらそこら辺にいるただのおじさんと同じ格好である。
「それに、勉強もわからないところが多すぎる」
進学科の受講内容は魔法だけでなく、他の専門分野も学ぶため学校に通ったことのないヒナタにとっては文の内容すら理解できていない。幸い、学園は魔法や実技などで点が補えるためヒナタでもギリギリどうにかなりそうだと思われる状況である…
「これじゃあ、実技一つでも落としたら落第確定じゃないか…」
ヒナタは今、人生で最も過酷な状況に陥っていた。
「は〜…」
「お兄さん、どうしたの?」
「あぁ、大丈夫だよ…ん?」
ヒナタが隣を見ると5才くらいの赤髪の少女がソフトクリームを一生懸命頬張っていた。
(そういえば、初等部から高等部もこの学園にあると言っていたな)
「お嬢ちゃんはここで何しているのかな?」
「ん〜、わかんない」
「そ、そっか…名前は?」
「ミーア」
「ミーアちゃんは、迷子かな?」
「うんうん、姉ねぇがいなくなっちゃたの」
(うん、迷子だな…)
「そっか、お兄さんと一緒にお姉ちゃん探そうか」
「うん!」
僕はミーアちゃんと手を繋ぎながら周辺に女性がいないか探した。
「ミーアちゃんは今何歳?」
「6才!」
「そっか、お姉ちゃんと最後にいた場所はわかるかな?」
「わかんない」
(どうしよう…探しようがない)
「この〜」
「ん?」
背後から走ってくる足音が聞こえてくるとともにヒナタの背中に強い衝撃が襲いその場に倒れ伏した。
「ぐはっ…」
「私の妹に何してんのよこの変態!」
「あっ、姉ねぇ!」
ヒナタが起き上がりながら背後を確認すると、赤髪の女性がミーアちゃんを抱きしめながらこちらを睨みつけていた。
「いきなり何するんですか!」
「あんたが私の妹を連れて手を繋ぎながら歩いているからでしょうが!」
「誤解ですよ!」
「変態っぽい顔してよくそんな事がよく言えるわね!」
(確かに、僕の容姿は微妙だろうけどそこまで言われると流石に悲しいんだけど…)
「違うんですよ、僕がベンチに座っていたらこの子が一人でいたので一緒に貴方を探していたんですよ」
「よりにもよってストーカーなんて!」
「カレン!」
さらにその背後から絵に描いたような一人の金髪イケメンと黒髪ポニーテールの美女が走りながらこちらに向かってきていた。
「早とちりしすぎだこの馬鹿」
ポニーテールの女性が僕に飛び膝蹴りをかましたカレンという女性をなだめていた。
「だって、どう見ても怪しいじゃない…服装も変だし…」
(ぐはっ…)
「すまない。カレンが君に失礼なことを言ったようで、どうか許してくれないだろうか」
「大丈夫ですよ」
「俺は、レオン・ラトリア」
「私は、サクラ・オオツキだ」
「カレン・ロードウェル…」
「君は?」
「進学科一年ヒナタ・アカツキです」
「もしかして、編入生組かい?」
「はい、そうですけど…」
「同じ一年同士よろしく頼むよ」
レオンさんが右手を差し伸ばした為、僕は自分の右手でそのまま握手を交わした。
「ヒナタは、王朝から?」
「そうですよ」
「実は、そこにいるサクラも王朝からこの学園に来ているんだ」
サクラさんがこちらに近づき、レオンと同じように握手を求めた。
「同じ王朝の人間同士よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「学部は、どこなんだい?」
「戦闘学部ですよ」
「へぇ〜、あんたも同じ学部なのね」
「俺達三人も戦闘学部なんだ」
「では、次の午後からの訓練も参加するんですね」
「あぁ、そうだよ」
「私達は、今から学食に行くが…お前もどうだ?」
「僕はこの後、用事ありますので…」
「そうか、それは残念だよ」
僕は、最後にミーアちゃんの前にしゃがみ込み話をした。
「ミーアちゃん、お姉ちゃんが見つかって良かったね」
「うん!」
「それじゃあ、俺達は行くよ」
「えぇ、また午後からお会いしましょう」
「バイバイ、お兄さん!」
4人は、そのまま去っていった。
「さて…学園長いらっしゃいますよね」
「(あら、気づいていたの?)」
広場で歩いていた一匹の猫が喋り始めた。
「(こんな形の挨拶で申し訳ないわね)」
「いいえ、この学園の長を務めている方なら何かと忙しいでしょうし」
「(理解が早くて助かるわ)」
「ところで…それは精霊ですか?」
「(えぇ、下級の風精霊トーピングキャットよ)」
(この人…精霊を介して会話するなんて、これだけの高等技術を平気でやってのけるとは、流石ルドガル学園の学園長だ)
「(げんちゃんからあなたのことは色々と聞いているわ)」
「師匠とは、どのような関係で?」
「(あら、聞いていないの?)」
「知り合いとしか…」
「(彼と私は夫婦なのよ)」
「……え〜!」
「(驚いた?)」
「そりゃあ、驚きますよ。てっきり戦友か昔の仕事仲間かと…」
「(今は別居状態だけどね…)」
「僕が師匠に拾われた時が九年前ですが、その時はすでにいらっしゃらなかった筈ですが…」
「(あなたが拾われる2年前に私はこの学園の長に就いたのよ)」
「あの生活力のない中途半端で自由人すぎるあの人が結婚してたなんて…」
「(あの人、何事も急に伝えてきたりするでしょう)」
「そうなんですよ。あの人のせいで、僕はここに来るまでに2ヶ月の間、馬車に揺られる長旅を経験したんですよ」
「(その癖、不器用だしねぇ)」
「よくお皿は割るわ、洗濯物はよく生乾きにするわでこっちが苦労してるのに笑って誤魔化そうとするし、大変ですよ」
「(げんちゃんは、昔から口では愛してるなんて言葉を使わないくせに、毎週届く手紙ではしっかり最後に愛しているなんて恥ずかしい内容を書いて送ってくるのよ)」
「師匠がそんな恥ずかしい事を…」
「(駄目なところはたくさんあるけど、優しくてかっこいいでしょう)」
「……まぁ、そうですね。あの人の背中はとても頼りがいがあるし、辛い時は寄り添ってくれるし…僕にとって、父親のような存在です。年齢はだいぶ離れていますけどね」
「(そう…それは良かったわ)」
精霊は、嬉しそうな表情でこちらを見ていた。
「(私とあの人の子供は今、世界各地を旅しているからそのうち会えるといいわね)」
「その方の名前は?」
「(キンジ・ササキよ)」
「それは、会ってみたいものです」
その後も、僕は30分もの時間、学長と話を続けた…
「(今日はお話ができてよかったわ)」
「こちらこそ有意義な時間をありがとうございました」
「(困ったことがあったら、何時でも相談してちょうだい)」
「えぇ、喜んで…」
ちょうど二人が談笑を終えた頃、ガラ〜ンゴロ〜ンと昼休憩の終わりの鐘が学園中に響き渡った。
「(あら、もうこんな時間なのね。次は実技訓練の時間ね…頑張っていらっしゃい)」
「はい!」
訓練場へと走るヒナタの悩みは、ベンチで一人座っていた時より軽くなっていた。
「(それにしても何故、あんなに優しそうな子が…)」
「(黒炎の悪魔と呼ばれるようになったのかしら)」
一匹の精霊のその言葉は誰にも聞こえることなく、風にかき消されるかのように流されていった。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。誤字や脱字などがありましたら、教えていただければ幸いです。
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