第4話 都市伝説の炎上

【ユーチューバーの襲来】

​ユキがプロデュース(企画)した展覧会『IMAGINE AGAIN』が開幕して三日目。  


テオが美術館のロビーでギターを弾いていると、一団の人間が、騒然とした様子で押し寄せてきた。


​彼らの中心には、日本の有名都市伝説系ユーチューバー、「コード・ゼロ」がいた。  

彼らのカメラとマイクは、テオとユキに狙いを定めていた。


​テオは、彼らの持つ高性能カメラと、テオ自身に向けられる異常な熱意に、激しい嫌悪感を覚えた。


​「お前は一体、何者だ?」


テオは、カメラにマイクを突きつけるユーチューバーに向かって、流暢な日本語で低い声を放った。


​「私はテオ・チャールズ。


ただの『アイム・ア・ルーザー(負け犬)』だ。お前たちのくだらない都市伝説の舞台俳優になる気はない。」


​しかし、テオのジョン・レノンに酷似した容姿と、その皮肉めいた日本語の応対は、ユーチューバーにとって最高の「証拠」となった。


ユキは、テオの前に立ち、盾となろうとしたが、テオの行動は既にユキの制御を超えていた。


​「いいだろう。」


テオは、ユキを押し退け、皮肉な笑みを浮かべた。


「お前たちが、亡霊の検死作業と呼ぶなら、好きにしろ。ただし、私はジョン・レノンではない。私は、テオ・チャールズだ。」




​【世界的な炎上と予言の成就】

​その日の夜。ユーチューブで公開された「コード・ゼロ」の動画は、一晩で数千万回の再生を記録した。


動画のタイトルは、世界中の言語に翻訳されて拡散した。


​【緊急検証】東京で目撃された


「東洋の子(オーシャン・チャイルド)」の正体。


45年前に予言された「日本語で歌う魂」を直撃!


動画は、テオのジョンそっくりな表情、ユキの若いヨーコに瓜二つな容姿、そして何よりもテオが流暢な日本語で

「くだらない才能の検死」

と答えた場面を、繰り返し強調した。


​さらに、テオが使った

「東洋の子(オーシャン・チャイルド)」

というキーワードと、匿名の予言者の都市伝説の内容が完璧に一致したことで、世界的な熱狂は頂点に達した。


​欧米のメディア:

「予言は真実だった!ジョン・レノンは、東洋で愛のメッセージを伝えるために、日本語を習得したのか?」と報道。


​日本のネット社会:

「テオ・チャールズの過去を掘り起こせ!」「なぜ彼は日本語が話せる?」「これはユキ・オザワの壮大なアートテロだ!」と、テオとユキの個人情報と過去を巡る、激しい情報戦が始まった。


​テオの「検死」という言葉は、彼の内面の葛藤を隠すための鎧だったが、世間には

「ジョン・レノンという過去の天才を現代で検分している」

という、傲慢で皮肉的なアーティストの声明として受け取られ、彼の「再来説」を決定づけた。




​【運命の孤独と愛の予感】

​テオは、逃げ込んだサロンの片隅で、自身が世界を揺るがす「時の人」となっている事実に、震えていた。


テオ・チャールズの理性は「偽物だ」と叫んでいるが、ジョン・レノンの魂は、「世界と再び繋がった歓喜」を感じていた。


​その矛盾した孤独を理解できたのは、ユキだけだった。


​「テオ。」ユキは、静かにテオの傍らに座った。


「私たちは、世界から最も愛された二人の運命を、もう一度生き始めているのよ。」


​「愛?」テオは、冷笑した。


「これは、群衆の好奇心とお前のプロデュースが生み出した、巨大な嘘だ。」


​ユキは、テオの手を取り、彼の掌に自分の顔を押し当てた。


その肌の感触と、瞳の深い光が、テオの心を強く掴んだ。


​「嘘ではないわ。」


ユキは、ほとんど囁くような声で言った。


「私は知っている。あなたがなぜ日本語を話せるのか。あなたがなぜ、私という容姿の人間を選んだのか。それは、あなたの過去の愛が、私たちの運命を導いているからよ。」


​ユキの言葉は、テオの失われた記憶と、

ジョン・レノンの魂に、「日本語の過去」という最も強力な疑問を投げつけた。


テオは、もはやユキを「亡霊の教師」として拒絶できなかった。


ユキは、彼の最も深い秘密を知る、運命のパートナーになり始めていたのだ。 






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