第6話 蓮、律に会う

 俺はまずキーとなるマネージャ=坂本律を突撃することにした。俺はやつのアパートで待ち伏せして……ついに見つけた。7年振り、当時高3で今は25才になった坂本律は随分垢ぬけていて、カッコいい社会人になっていた。


「坂本さんですね?」


 俺は刑事さながらの口調で話しかけた。

 しかしいかんせん、まだ中学生。迫力が無い。


「君は誰だ?」


 律は怪訝な顔で俺を見降ろした。


「これに見覚えは?」


 俺は持ってきたギターを見せた。律からもらったものだ。


「あ、それは! もしかして君はあの時のガキ?」

「今は中学生です。れんと言います」

「うわー、懐かしいな。蓮くんか。なんでここが分かったの?」

「俺には優秀な相棒がいますから」

「へー? それでギターは弾けるようになったのかな? 使い込んでいる様だけど」

「まあまあです。それは置いときましょう」

「オーケー。で、何の用? ちょっと最近忙しいんだけど」

「知ってますよ、メイのことでしょう? マネージャーさん」


 律の表情が急に変わった。


「知っているのか……」

「メイさんが失踪した原因を知りたくて来ました」

「子供が首を突っ込む問題じゃないよ」


「俺はこのギターをもらってから、結衣と二人で必死に練習を積み重ねてきました。さらにメイさんを知って、メイさんのようになりたいって頑張ってきました。あまり上手くなってないけど、あなたと違って諦めたりしません! メイさんは俺にとってとても大切な人なんです。少しでも捜索の手助けができるならしたいんです。年齢は関係ないでしょう。メイさんが……自殺とかしたら俺は一生あなたを許しません」


 俺が一気にまくし立てると、律さんは声のトーンを下げて言った。


「言うねえ、そんなにメイが好きなの?」

「大好きです! 世界で一番好きなシンガーです!」

「僕もだ。悪いけど君には負けないよ」

「失踪の原因は、あなたではないんですか?」

「神に誓って違う。でも僕がなんとかできたかもとも思っている。彼女は曲作りや最近始めた女優業がうまく行かなくて落ち込んでたんだ。忙しいのも原因だ。そういう意味じゃ僕のせいでもある」

「そうだったんですか……」

「警察にはもう話しているし、彼らはメイの居場所を把握しつつあるらしい。心配しなくていいよ。あの子は逃げ出すことはあっても必ず戻って来る。人生をあきらめる子じゃないから」

「連絡は取れないんですか?」

「……しばらく一人になりたいようだ」

「迎えに行かないんですか?」

「……行かない。今はそっとしておきたい」


 俺は分った。おそらくこの事件は間もなく解決するだろう。でもだからと言って気を緩めるつもりはない。律さんが行かないなら俺が迎えに行く。


「わかりました。今日は突然押しかけてすみませんでした」

「まあ待てよ、蓮」


 俺が帰ろうとすると、律さんが引き留めた。


「結衣ちゃんは元気かな? さっきの言い方だと君と組んでるの?」

「……はい。結衣はボーカルとギター、僕はギターとドラムです」

「バンド? 何人組?」

「結衣と俺の二人だけです」


 律さんはスーツのポケットから名刺を取り出し俺にくれた。


「あとでここに電話をくれ。お互い連絡が取れるようにしておこう」


 俺は名刺を凝視し、それから律さんを見上げた。律さんはドアを開けて中に入ろうとした時に振り向いた。


「実はメイをサポートするバンドメンバーを探してるんだ。秘密だぞ。じゃあな」


 律さんは中に入っていった。俺は茫然として振り返った。


 満月の月明りが俺を照らしていた。

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