第8話 立川自衛隊駐屯地 2

【岸 トシヤ】


正直不安だ。

俺はサングラスを外し、フユキを見る。

こんなご時世に犬を連れて母親を捜して、持っている武器は日本刀って、よくこの3ヶ月生きてこれたもんだ。


おまけにモンスターとまで仲良くなってるし。

こいつは【何か】不思議な力でも持ってるのか?

じゃなかったら今日までどうやって生きてきた?


色々と疑問は浮かぶが、俺がこいつを仲間にした理由は至ってシンプルだ。


直感ってやつかな。


俺は数年、フランス外国人部隊にいた。

銃器を扱い、困難な課題もクリアして、人を殺める技術のみを身に付けてきた。


別に正義感があった訳じゃない。

単純に俺は自分の力を最大限に活かせる場所を探していたんだ。


だが………


大抵の兵士は皆、訓練のみで終わってしまう場合が多い。

自衛隊にしてもそうだ。

戦地に行くなんて事は滅多にない。


俺はフランス外国人部隊で一通りの成績を納めたら、日本に帰った。

今はフリーの傭兵ってところか。


今ではその経験がこんな世界になって役立っている。


カプモンとかいう訳の解らないモンスターが世界を脅かしていやがる。

人間様が支配する世界を変えようってか?


上等だぜ。


M3 スーパー90(ショットガン)を握る力が強くなる。


通路の先にいるカマキリみたいなエイリアンは、ガマストライフとかいうカプモンらしい。


フユキはカプモンに詳しいみたいだ。

昔やっていたゲームに登場するモンスターだって言ってたな。


あんなビジュアルじゃ、絶対に仲良くなれそうにない。


あれは地球を侵略しにきたエイリアンと思う事にする。


「行くぞ」


俺は意を決して、通路の先を進む。


ガマストライフが俺達に気づき、口を開いて牙を向けてきた時には、俺はショットガンのトリガーを引いている。


銃口から火を吹いた瞬間、ガマストライフの顔が粉々に吹き飛び、肉片が廊下に散乱した。


大の字に倒れたガマストライフから緑色の血液が溢れ、廊下に広がっていく。


血液まで緑かよ。


「グギャギャギャギャ!」


死体を確認する暇もなく、前方の通路の先から響く雄叫び。

左右にある幾つかの扉の中から、一匹、又一匹とガマストライフが姿を現し、全部で三匹。


やはり一匹だけじゃねえか。

ポンプを引いて次のショットシェルを装填し構える。


ガマストライフはその数秒で間近まで接近してきやがった。

コイツら、カマキリのくせに異様に脚が速い。


腕の鎌を振りかぶる瞬間、俺はショットガンを撃ち、一匹を撃退する。


だが、その真後ろにいたガマストライフに対処できない。

次の装填の間に奴は鎌を振れる。


ショットガンを盾にして対処できるか?

ショットガンごと斬れちまうか?


瞬時にそう考えた瞬間………



バンッバンッ!



フユキがピットバイパーをガマストライフに撃ち込んだ。


だけど、もう一匹後ろにいる。


そいつに間に合うか?


俺が撃った方が速いか?


その瞬間、俺の真後ろから三匹目のガマストライフに飛んでいく青白い電気が直撃し、痺れさせて動きを封じる。


そのコンマ数秒も見逃さないかの如く、フユキが日本刀で胴体を切り裂いた。


おいおいおいおい!


俺はフユキに歩み寄る。


「お前何者?」


「はい?」


惚けた顔を浮かべるフユキ。


「強すぎだろ?しかもこんな化け物を前にして全然ビビってる様子もないし」


「たまたまですよ。ピカッチャの援護もあったし」


たまたまな訳があるか。



「ありがとう、ピカッチャ」

「ピカピカ」


礼を言いながらじゃれ合うフユキとピカッチャ。

別に何か不満がある訳じゃない。

フユキが強いなら今後の旅の助けになるし、ピカッチャとかいうモンスターもフユキに懐いている。


何の問題もない。

無いんだけど、無さすぎて落ち着かねぇ。


「先に進みましょう」


「あ……あぁ……」


………



……





【野村 フユキ】


立川駐屯地の中は広大で、狭い通路もあれば急に二階に上がる広い階段前に出る事もある。


もう既に数十匹のガマストライフを倒してきたが、人の姿は見ていない。

こんだけ銃声を響かしていれば、誰かしら姿を見せるはずだ。

ここは既にガマストライフの縄張りになっているって事なのか?


そうなると、お母さんの安否が気になる。


「殺されたか………逃げ出したのかな………」


「ピカァ…」

「クゥ~ン」


ミルクとピカッチャも俺に吊られて、心配そうに寄り添ってくれる。


「そうでもねぇぞ」


トシヤが奥の廊下にある部屋から姿を出し、右手には空いた缶詰を持っている。


「この缶詰を見ろ。まだ若干滑りがある。数日前までここに人がいたんだろう」


「ガマストライフが来て避難したって事になる?」


トシヤは辺りを見回し

「まぁ死体を見てない限りは、まだそう言えるな。奴等に死体収集の癖が無ければだけど」


気持ち悪い事を言わないでくれ。


「もしくは隠れてるかだな」


隠れてる?


「さっき言ったが、生き残ってる人間全員が善人だなんて思わない事だ。こんな銃声を響かしまくってたら、ビビって出てこれないだろ」


なるほど………


「ウゥ~」


ん?


「ピカ?」


突然ミルクが階段上を睨むように見て唸り出す。

ピカッチャも不思議に見つめ、俺は神経を研ぎ清ます。


微かに感じる気配。



「誰だ?出てこい?!」


トシヤも気づいた様子でショットガンを構え、俺もピットバイパーを両手で構えて様子を探る。


「うっ……撃たないでください」


階段の踊り場辺りから、静かに顔を出していく。


「両手を挙げて、ゆっくり姿を見せろ」


トシヤが低い声で言ったが、全く逆効果だ。


そいつはなかなか出てこない。


「両手を挙げて、ゆっくり姿を見せろって言ってんだよ!聞こえねぇか?!」


絶対に聞こえてるって。

怒鳴るから出て来ないんだよ。


そいつは両腕を震わせながら、怯えた表情全開で恐る恐る踊り場から姿を現していく。


くたびれたヨレヨレのポロシャツに貧相な体つき。

はき古したジャージのズボン。

オカッパみたいな黒髪の頭。

常に何かに怯えているかのように、作り笑いをしながら階段を降りてきた。


「は……初めまして……じ……じ……自衛隊の……か……かたですか?」


俺はその人の表情を見てから、チラッとトシヤを見た。


明らかに不機嫌な顔をしている。


こういうハッキリしない奴が嫌いなのか?


「自衛隊じゃねえよ。そんな事よりお前はここで何してんだよ?」


質問がシンプルで良い。


「ぼ…ぼ…僕は、吉岡 俊介って……いいます。ここ……この立川基地に……避難してきた者です」


俺は前にでる。


「他にも避難してきた人がいるんですか?」


吉岡は俺を見るなり、小刻みに頷き「はい」と返事をした。


「案内してもらえますか?」


「わ……わかりました……こっちです」


吉岡はすんなりと案内を始め、階段を上がっていく。


普通怪しむだろうが、そんな余裕がなく言われるがままなのか?


とにかく俺は、お母さんに近づいた。


そう思ったんだ。


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