光のない世界で。

やまぬこ。

2025/11/7 10:00

「やっとついた、、」

俺がいるのは少し開けた山の中。


待ちに待った自由。


仕事のことも、たまった家事のことも、めんどくさい人間関係からも解放される日。

北海道片田舎で農家をしている祖父が所有している山での二泊三日のキャンプをする日であった。

住んでいる札幌から2時間ぶっ通しで車を走らせ、道とは思えない道をひたすら走り続けてようやくつくような場所。


聞こえてくるのは葉の擦れる音と、車のエンジン音。冷えた風から懐かしい土のにおいと、葉っぱの青臭い香り。それと少しばかりの車のガソリンの臭いがする。

何もかもが住んでいるところとは違い、心が溶かされていく。


ここにはスマホを見下げながら悲しそうに歩く人や、スマホを地べたに置き誰かに見つけてほしそうに踊どっていたり、自分の幸せさを見てほしそうに写真を撮りまくっているさみしそうな人もいない。


自分だけの世界。そんな言葉がしっくりくるような場所にいた。


そこにやっと起きてきた小動物がのそのそと車の後ろの布団から這い出てきた。

愛犬の「つくね」である。


「わふぅぅ、、きゅうぅぅ、」

と犬とは思えぬ声でひとなきして寒いといわんばかりに布団に戻っていった。

あいつは本当に犬なのだろうか、、

ほんとは俗にいうスキンウォーカという化生の類なのではないかと最近は疑っている。俺もネットに侵されつつあるのだろうか。少し悲しくなる。


少し苦笑いをしながらせっかくの休みを堪能するためにテントの設営、焚火の準備をこなしていくのだった。





明日には先の見えない世界が待っているとも知らずに。


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