隣に住んでいる美少女の俺にだけ見せる一面の破壊力が高すぎる件

鳳輦

出会い

 ここは日本のとある町のマンション。

 年度初めの今、全国では引っ越しシーズン真っ只中。俺もその波に乗ってきた1人だ。


「よし、これで大体は終わったかな」


 俺の名前は天谷蓮、今年から高校1年生として精誠学園高等学校に通うことになっている。

 自宅から離れている場所を志望したので今年から一人暮らしになったという経緯いきさつだ。


「家具配置もそうだけど……先に挨拶回り済ませとくか」


 自宅からマンションへと向かう道中、母親にマンションの人たちとうまく付き合うコツであったりを叩き込まれた。

 そこで教わったことの1つが、先に必ず「挨拶回り」をしなければいけないということだ。


「手土産……地元の特産品にしよ」


 幸いにも、俺の家は角部屋なので右隣だけに部屋がある。

 靴を履き、しっかりとした身なりで「華山はなやま」と書かれた表札が掛けてある部屋のインターホンを鳴らす。

 しばらく待つと、ガチャリと鍵を開ける音とともにマスクを付けた女性がひょっこりと顔をのぞかせた。


「あ、初めまして。隣に引っ越してきた天谷と言います。よろしくお願いします。」


 腰を低くし、両手で手土産を渡す。

 するとその女性は恐る恐る俺の紙袋を手に取り、戸惑いながらも


「わ、わざわざありがとうございます」


 と、ペコペコしながら扉を閉じた。

 うん、ファーストインプレッションはとりあえず良かった……と思う。

 周りと比べることができないから自己満足するしかないが、十分だと思った。

 部屋に戻ってカレンダーを見た俺はふとあることに気づく。


「入学式は……明日か。引っ越しして翌日はしんどいな」


 ある程度引っ越しの荷物が片付いた部屋を見渡した俺は、今後の生活に支障が出ないように残りの荷物を片付ける。


◇◇◇◇◇


 引っ越してから1ヶ月、教室では仲の良いグループができ始めてきた頃、かく言う俺にも親友と呼べるやつができた。


「よお蓮!もっと元気出していこうぜ!」


 昼休みに入って早々、男子が俺の机の上にストン腰を下ろして話しかけてきた。

 その男子こそが俺の親友(?)である都筑勇斗つづきゆうと


「俺の机は座る場所じゃないんだが?」

「まぁまぁ良いじゃねぇかそんなこと!」


 はっはっは!と気さくに笑う勇斗。

 だが、それが女子に人気がある所以なのだろう。

 見た目はイケメン、性格もイケメン、そして仕草の1つ1つが他人の目を引く。

 そんな彼には既に中学時代から続いている彼女がいた。


「もぉ〜ゆうくん!蓮が嫌がってるでしょ!」


 俺の横で腰に手を当て、頬を膨らませながら怒る素振りを見せている少女。

 ショートカットの少女は勇斗の彼女こと如月美優きさらぎみゆ


「分かったよ、降りるからそんな怒んなって」


 勇斗は美優の頭に手を乗せ、撫でながら俺の机から腰を下ろす。


「彼女の言うことは素直に聞くんだな」


 はぁ、とため息まじりに皮肉ると、勇斗はニヤッと笑って


「彼女、作らねえの?」

「生憎と、今はそんな気分じゃないんだ」


 カウンターを食らった俺は手をひらつかせながら興味がない様子を見せた。

 2人が俺の机の横でいちゃつくもんだから、どうしてもいたたまれない気持ちになる。

 申し訳ないとは思いつつも、流石に肩身が狭いので俺は机に突っ伏して寝た振りでやり過ごした。


◇◇◇◇◇


「うわっ、雨か」


 まだ春とはいえ、少しづつ暑くなってくる季節。

 いきなり降ってきたので通り雨といったところだろうか。

 とは言え、それでも1時間程度は降り続けそうだ。


「置き傘しといて良かった〜」


 傘を持って帰ることを忘れていた過去の俺に感謝しつつ、昇降口で傘を開こうとする。

 しかしその時、耳の横で雨音に消されそうなほどかすかな声が聞こえた。


「あ……雨……」


 髪を高く結んだポニーテールが揺れ、制服の着こなしもどこか自由で、明るい印象を受けた。

 普段は明るく振る舞っているのだろうが、今は少し儚げな瞳で雨の降っている空を見上げている。

 そんな彼女の手に、無情なまでに雨粒が打ちつけられる。


「っ……」


 きっと傘を忘れたのだろう。いや、傘を忘れたに違いない。

 そんなことは俺にとってどうでもいい、そう思っていた。

 けれど、俺の良心の呵責がそれを許さなかった。


「ん、傘使うか?」


 自分でもわかるほど、ぶっきらぼうに傘を突き出す。

 しかし、その少女は先ほどとは違い毅然として、それでいて明るく


「えぇ〜?友達に入れてもらうから別にいいよぉ!それに、君が濡れちゃうじゃん!」


 もっとも、俺は予備の傘など持っていない。

 けど、それでも俺は引き下がらなかった。


「いや、俺は別で傘持ってるから」


 無理やりその少女の手に傘を押し付け、俺は走って昇降口を後にする。

 傘を渡したあとの少女がどのような心情だったのか、振り返ることがなかった俺にはわからなかった。


 この時の俺はまだ知らない。





――――――――この美少女が、まさか隣の部屋に住んでいたなんて

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