群青の空と、青春の約束

白よもねこ

第1話 シャープペンシル

序章(プロローグ)


夜10時の事務室。静まり返った室内に図面を引くシャープペンシルの音だけが鳴っていた。古い製図機に向き合う。ドラフターヘッドを滑らせ、一階平面図に部屋の間仕切を示す線を引く。これで一通りの図面ができあがり、クライアントに見せる段取りができた。日当たりのいい南側に大きな窓を配置し、採光にこだわった一軒家の図面ができあがった。


ひと段落付いた僕は図面に署名を入れるためにペン立てに手を伸ばす。万年筆の横にある製図には似つかわしくない、白とピンクのシャープペンシルに、一瞬触れ、手を引いてしまった。触れてしまった指先から一瞬で暖かい熱が胸の奥深くに回った気がした。僕の意識はその熱を再び感じたあのときに戻っていく。急いで万年筆を取り、図面に『Toshizo Murayama』と署名を入れる。事務所の窓から見える空に上弦の月が静かに光を放っていた。


あれは高校2年生の夏、あの卒業式から2年が経っていた。



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